アーヤの正体
「ちょ、ちょっと待って下さい。それではあっちとこっちでは時間の流れが違うという事ですか。」
「今の話からするとそういう事みたいですね。信じられませんが。」
ディオとマリウスは混乱していた。
「だからこっちでの10年はあっちで50年経っているっていう事ですよね。1年はあっちでは5年・・・」
「そういう事になるね。」
「だからこっちでの4年はあっちで20年。24歳で渡ってきて5年で29歳。」
「トモさんどうしました?」
「私たちが渡ってきたのが1年程前よね。こっちで4年経っているってことは、その時の赤ん坊は20歳になっているわよね。」
「!まさか・・・」
「そうよね。ねえ、そこにいるんでしょ?そうなんでしょう?ねえ、答えて!お願い・・・」
朋美は隣の部屋に向かって話しかける。
「小さな花かごで聞いてきたの。ここに出掛けたって言ってたわ。お願い、答えて!そうなんでしょう?お母さん・・・」
朋美はスマホを取り出し、1枚の写真を開く。
「お父さんがくれた私が生まれた時の写真がここにあるの。私を抱いているのがお母さんよ。」
真人はスマホを覗き見る。
「この人・・・」
「こんな優しい顔の人が私のお母さんなの・・・ねえ、そうなんでしょう?」
扉が開き、フードをかぶった女性が出てきた。
「朋美。」
「アーヤ、いいのかい?」
こくりと頷きフードをとった。そこには真っ黒い髪のアーヤがいた。
「お母さん?私のお母さんよね?」
「ごめんなさい、朋美。あの日私はあなたを置いて川に身を投げたのよ。」
「おかあさーん!」
朋美は泣きながらアーヤに抱きついた。アーヤは優しく朋美を抱きしめる。
「ごめんね、朋美。本当にごめんね。随分と寂しい思いをさせてしまったわね。」
朋美は涙が枯れるほど泣き続けた。アーヤも涙を流している。リルーディと真人も目がウルウルしている。ディオとマリウスだけが状況を理解していなかった。
朋美が落ち着いたころ、マリウスは疑問をぶつけてみた。
「ここ10年程渡り人が渡ってきた記録はありませんでした。でも彼女は5年前に渡ってきているのですよね?」
「そうだね。」
「タグも持っているという事はちゃんと登録されている。なのに渡り人としての記録はない。いったいどういう事ですか?」
真人たちも疑問に思っていたことだ。
「アーヤの魔力は高いからね。国に利用されないように私が秘薬を使ったのさ。」
「秘薬ですか!?」
「教会で登録する時に一時的に別人になってもらったのさ。」
「でも外見は変えられても中身は変わらないじゃないですか。」
「詳しくは教えられないがそいつを飲むと一時的に自分を別人と思いこませることが出来るのさ。」
「そんなものがあるのですか!?」
「だから秘薬なのさ。そいつで教会の登録を切り抜けたのさ。」
「なんてこと・・・今すぐに記録の書き直しを」
「ここでの話は他言無用だったはずだよ。それにあんたは今、ディオの兄として来ていると言ったよね。」
「しかしそれとこれとは話は別です!こんな重要な事を黙って見過ごすことは出来ません!」
「聞いてもすぐ忘れることにしますと言ったのは嘘だったという事だね。」
「マリウス、それ以上喋るな。約束したはずだぞ。」
「しかし殿下」
「しつこいぞ!今の僕はディオでお前は僕の兄だ。」
「ふふ、よく似ていらっしゃる。」
「・・・その・・・僕のもう1人の兄はどんな方だったのですか?」
「利発で思いやりのある素晴らしい方でしたよ。戦争でお亡くなりになってしまって。」
「その・・・他の兄たちの事は・・・」
「残念ながら私はディオニール殿下の事しか存じ上げません。あの方は私達の引っ越し先まで押しかけてきていましたからね。」
「押しかけて!?」
「誰にも知られないように王都を去ったのに、色々と調べて突然やってきたのですよ。アリューリャ姉様の事も何もしてやれず申し訳ないとおっしゃっていましたよ。」
「そうだったのですか。」
「ところでトモーミはアーヤがいつ自分の母親だと気が付いたのかい?」
「この写真を見てからです。でもその前にバジュールで子供の渡り人に会っていなければ気が付かなかったと思います。」
「「「子供の渡り人?」」」
「はい。その子も5年ほど前に渡ってきたと言っていました。」
「あの時マサトから聞いた話か?それも単なる記録もれか?」
「いいえ、違うのです。その子は自分の祖父と間違われているのです。」
「祖父と!?それはどういう事だい?」
朋美はその子の話とあっちで聞いた話をみんなにした。
「そんなことが!そして時間の流れを知らないみんなは本人がいなくなった時のまま帰ってきたと信じているのか。」
「こっちでは適性を受けるために教会に行くのは10歳ですよね。おじいさんは7歳であっちへ行って、孫の太一君が7歳でこっちに渡っているので周りの人は同一人物だと思い込んでいるのです。」
「ああなるほど、そういうことか。それに渡り人とはいえ、こちらの人の孫だから君たち程能力も高くない。だから誰も渡り人だとは気が付かなかったという事か。」
マリウスはちらりとアーヤを見る。
「しかしトモーミの母親だとすると魔力もかなり高いのでしょうね。」
「マリウス!」
「いや失礼。眷属の首輪を壊すトモーミの母親なら同じくらいの魔力をお持ちかと思って」
「は?眷属の首輪を壊した!?」
リルーディは驚いた。
「あれを壊すなんてことができたのかい!?信じられない。」
「実はこんなことがありまして」
真人たちはリルーディとアーヤに今までの話をした。
「そんなことが・・・ちょっと前に王室警備隊がシェスナをうろついていると聞いたから、アーヤをここに隠していたんだよ。」
「フィフィーにだけ行先を伝えておいたの。朋美か真人が来たら教えてって。」
「多分第一隊の人たちですね。トモーミと仲がいいとわかって人質にするつもりで探していたのでしょう。」
「それでアーヤがトモーミの母親だとわかってどうするつもりだい?」
何かを話そうとするマリウスを止めてディオが口を開いた。
「何もしません。だって僕はトモーミとマサトの友達としてここへ来たのです。だからアーヤさんの事は何もする必要がありませんから。」
「しかし殿下」
「そを知ったから渡り人として登録して、いったい何になるのだ?何も変わらないじゃないか。こうやってこの国の国民として生活しているのだぞ。何も問題ないじゃないか。それ以上はもう言うな。」
「でもあの子の事は何とかしてあげたいの。ずっと別の人として生きていくことになるのでしょう?可哀そうだわ。」
「わかりました。それについてはこちらで何とかしましょう。」
「それでは用事も済んだようなのでシェスナの宿に行きましょう。マサトとトモーミの家も見て見たいな。いいかな?」
先ほどから殿下の顔になっていたディオは急に『ディオ』の顔に戻った。
「いいですよ。続きは我が家でしましょう。」
「その前にアーヤは髪を。」
「髪は染めているの?」
「ええそうよ。渡り人に見えないようにね。こっちに黒髪・黒目の人は少ないでしょ。」
「そうね。」
アーヤはすぐに髪を染めてきた。
「はー、見事に髪色変わりましたね。こんな薬があるとは。」
「元々アリューリャ姉様を少しでも若く見せるために開発したのだけどね。あっちにはいろんな色にする毛染めというのが沢山あるそうだけどね。」
「それでは馬車に乗って行きましょうか。アーヤさんも乗れますよ。」
「宜しくお願いします。」
馬車だとあっという間にシェスナに着いた。それから小さな花かごに行くとフィフィーがすぐに近づいてきた。
「何かあったんじゃないかと心配してたんだよ。」
「すみません、ところで今日は泊まりたいのですけど、部屋は空いてますか?」
「いくつだい?」
「アーヤさんとトモーミは同じ部屋でいいですね。」
「僕もマサトと同じ部屋がいい!」
ディオは真人の腕にしがみつく。
「・・・2人部屋2つと1人部屋1つありますか・・・」
「あら、アーヤも泊まるのかい?それじゃあ一番上の部屋がいいね。2時頃から入れるようにしておくよ。」
フィフィーはニコニコして答えてくれた。
「それでは行きましょうか。」
「はい、こちらです。」
続いて一行は真人と朋美の家へ行った。




