リルーディの夢の続き
あの日はいい天気だった。私たちはいつものように畑で薬草摘みをしていたのさ。そこへ魔法陣が現れてアリューリャ姉様はその中へ消えていった。お母様はその日から寝込んでしまった。私はあの時作った薬がいけなかったなだと思っていたのさ。それから必死になって文字を覚えてきちんとした薬が作れるように修業をしたよ。」
それから10年ほどたった。母親は相変わらず1日をベッドの中で過ごす日々だった。父親は仕事をしながら渡り人の噂を聞けば仕事を休んで話を聞きに行くようになった。
「はい、お母様。今日のお薬ね。」
「リルーディ、ありがとう。」
やつれた顔で微笑む母親。リルーディは胸が痛かった。姉様ではなく自分が渡ればよかったと思う事もよくあった。
母親がやっていた店は今ではリルーディが引き継いでいる。以前より規模は小さくなったが、質の良い薬を売っていると評判だった。5人ほどいたメイドたちは今では母親の世話を手伝ってくれる1人だけになった。
そんなある日、店に小さな金髪の男の子がやってきた。
「おい、お前の店の薬はとてもいいものだと聞いたぞ。ここにある薬を全部買ってやるから今すぐ出せ!」
身なりのいい男の子はかなり高圧的な態度でリルーディに言った。
「どこのお坊ちゃまか存じませんが、ここにある薬は今この薬を必要としている人に売るためのものです。お坊ちゃんは薬を必要としている人には見えません。だからあなたには売れません。」
「なんだと!?お前は私に指図するのか!私は薬を全部よこせと言っているのだ。早く準備をしろ!」
「お断りいたします!」
男の子は深い緑の目を大きくして怒鳴りだす。
「私が命令しているのだぞ!お前はそれに従えばいいのだ!」
突然入口が開き、従者と思しき男性が2人飛び込んできた。
「ここにいらしたのですか!?さあ、早く戻りますよ。」
「嫌だ!ここにはいい薬があると聞いた。母上の病気を治せる薬があるかもしれないんだ。見つかるまで私は帰らないぞ!」
母親の病気と聞いてリルーディは胸が痛んだ。
「あの、いったいどういった事情があるのでしょうか?よかったらお話を伺ってもよろしいですか?」
その言葉を聞いて男の子は急に明るい顔になった。
「薬があるのか!?」
奥の部屋に3人を通し、リルーディは事情を聴いた。
「まさかリルディス殿のお宅だったとは失礼いたしました。以前優秀なお嬢様がいらっしゃるとお聞きしておりましたが、まさかあなたがそうだったとは。」
従者の1人は男の子に耳打ちをする。
「そうか、お前は薬師なのだな。だったら私の母上の病気が治る薬も作れるのだな。」
「薬師が全員病気を治せる薬と作れるわけではありません。薬はその人の症状に合わせて作りますから、ただ作れと言われてもはいそうですとは言えませんよ。」
「そうなのか・・・」
男の子は少しがっかりした顔をした。
「それに私が作った薬を飲ませられるような方ではございませんよね?」
「そんなことはないぞ!私が持って行けば母上はきっと飲んで下さるはずだ。」
従者は必死に首を横に振る。
「ひとまず今日のところはお引き取り下さい。後日改めてそのお話をしましょう。」
「嫌だ、薬を作ってくれるまで帰らないぞ!母上は食事も喉を通らないほど酷いんだ。時々吐き気がするって私とのお茶の時間にも会ってくれないのだぞ。絶対酷い病気なのだ。お願いだ、薬を作ってくれ!」
男の子は必死になってリルーディに頼み込む。
「あの、もしかしてその症状は・・・」
従者が2人とも頷く。
「そうですか。それではすぐに調合しますね。」
そう言ってリルーディはキッチンへ行った。それからあるものを配合し、男の子に持ってきた。
「これは特別な茶葉です。これをお母様に差し上げてね。もし飲めなくても香りだけでも大丈夫ですからね。」
そう言って渡した。従者は少し渋い顔をしたが、男の子は大変喜んだ。
「ありがとう!私が入れて差し上げるよ!」
そう言って店から出て行った。従者の1人は追いかけて、もう1人はそこに残った。
「あれは何ですか?」
「ルイボスというお茶の葉です。妊婦でも飲めますし、リラックス効果もあります。今つわりできつい時期なのでしょうね。少しでも楽になるといいのですが。」
「感謝いたします。念のため毒見はさせていただきますが・・・」
「ああ、早く行って差し上げて下さい。」
残った従者はぺこりと頭を下げて出て行った。
「母親の病気を治してあげたいと思うのはみんな同じなのね。」
クスリと笑った。
それから母親の状態は良くなったらしく、ディオと名乗る男の子はしょっちゅうリルーディの店に遊びに来るようになった。
第二王子の誕生で街はお祭りムードだった。そんな合間を縫ってディオが遊びに来た。
「よかったですね。弟が生まれて。」
「そ・・・そうだなっ、でもどうしてお前が知っているんだ?」
「国中のみんなが知っていますよ。」
「そんなことはないだろう。」
照れるディオは可愛かった。リルーディは不敬と分かっていても頭を撫でた。
「兄弟がいるっていい事ですよ。」
「リルーディにはいるのか?」
「私ですか。私には姉様がいました。」
「いました?」
「ええ。」
どこか遠い目をしたリルーディにディオは聞いてはいけないと子供ながらに感じ取った。
「その・・・また会えるといいな。」
「はい、そうですね。」
その後すぐに従者が迎えにきたのでディオは大人しく帰って行った。
「姉様・・・今どこにいるのですか・・・」
王室に第一王女が生まれた頃、母親は相変わらずベッドの上で過ごしていた。父親はいろんな噂話を耳にしては真偽を確かめに出掛けていく。そしていつしか父親は職場での立場を失い、家計はリルーディが売る薬の収入だけに頼るようになった。
「お父様あちらへ渡る方法なんて本当にあるのでしょうか?」
「ないはずはないんだ。現にアリューリャはお前たちの目の前で渡ったのだろう?絶対に方法はあるはずなのだ。」
「でもこんなに探しても見つからないとなるとないのか隠されているのかとしか考えられません。」
「隠されている・・・か。それもあり得るかもな。国は渡ってきた人の情報は欲しがっているからな。」
「どうしてですか?」
「渡り人はこっちの人よりもいろんな能力が高いらしい。その能力が欲しくてこちらから人を送って同じ数の人間をあっちから送ってもらっているという噂もあったくらいだ。」
「そんな話もあるのですか?」
「もしそれが本当なら、家族みんなでアリューリャが渡った先で一緒に暮らそう。」
「はい、お父様。」
あれから10年はたっている。リルーディはすっかり大人になっていた。そしてそれは双子であるアリューリャも同じである。
もしあっちで結婚して家族が出来ていたら、今さら私たちが行ってもかえって迷惑なのではないかしら。会いたいけどもう探さない方がいいのかもしれない。
生活も苦しくなってきたリルーディはそんなことを考えるようになってきた。
そんなある日の事だった。マイノル家の玄関を開けて1人の老婆が入ってきた。
「お母様、リルーディ。私よ、アリューリャよ!」
その声を聞いたリルーディは慌てて店から飛んできた。そして目の前にいる老婆に驚いた。
「本当にアリューリャ姉様なの!?」
アリューリャも自分よりはるかに若いリルーディを見て驚いた。
「どうしてそんなに若いの!?あれから50年も経っているのに!」
しかしリルーディにはこの老婆が嘘をついているようには見えなかった。双子だったからなのか、見た目は変わっていても感じるものがあった。
「お母様は?お母様はどこ?」
リルーディは母親の元へ老婆を連れて行った。扉を開けベッドに横たわる母親を見ると、老婆はすぐに駆け寄った。
「お母様、私です。アリューリャです。帰ってきました。」
母親はゆっくりとベッドから体を起こした。そして老婆を見て
「ああ、私の可愛いアリューリャ。苦労したのね。」
見た目は自分より年上のアリューリャを抱き寄せ、親子で泣いた。そしてその夜、母親は幸せな顔をしてこの世を去った。
「それから私たち家族は家を売り誰も知らないところへ引っ越しをしたのさ。帰ってきたアリューリャ姉様が老婆になっていたなんて知られたくなかったからね。トモーミ、私の言っていることがわかるね。」
「はい、よくわかりました。」




