リルーディを訪ねて
翌日昼食はお約束のサンドイッチだ。ディオは待ちきれずに馬車の中で何度もお昼はまだかと聞いてきた。
路肩に馬車を止め、焚火もする。たくさん捕れた魔魚も一緒に焼くためだ。
「これがサンドイッチか。パンの間に具が挟んであってそれを一緒に食べられるなんて画期的だな。向こうではよく食べるものなのかい?」
「そうですね。挟む具はなんでもいいのでよく食べますね。」
「サンドイッチ伯爵という貴族がゲームをしながら食べられるようにと考案したものだと言われています。」
「そうか。これはいいな。こっちでも流行らせるか。」
「立食パーティーにもよさそうですね。」
「具材が違うといくらでも食べられそうだ。作り方も簡単だしな。」
目の前で朋美が作ったので2人も作り方は覚えた。
「自分は個人的には卵サンドが好きですね。」
「私も!マヨネーズたっぷりのね。」
「それはここにはないのか?」
「材料がないから作れないですね。」
「そうか。材料を言えば揃えるぞ。僕も食べてみたい!」
「こちらの物の名前とあちらの物の名前が同じではないのですぐには無理ですね。実際ないものもありますから。」
「そうなのか?」
シュンとした顔になった。少し可哀そうだ。
「もし作れたらお持ちしますね。」
「本当か!?楽しみに待っているぞ。」
焼き魚も満喫し、一行はグリージアに向かって出発した。定期馬車で1日かかるルート(宿泊も入れてだが)を少しでも早く着くために馬車はスピードを出していた。そして何とか門が開いている時間にグリージアに着くことが出来た。
「明日の朝は少しゆっくりでいいですね。」
「ここを9時頃出れば家を訪ねるのも失礼じゃない時間に着くでしょうね。」
「それなら今日は夜もゆっくりでいいですね。」
帰りが心配なので宿に併設のレストランで食事をすることにした。もちろんエールも注文し、朋美がみんなのグラスを冷やした。
「ミューズ領は湖があるから魔魚を使った料理が多かったけど、オレイン領は肉料理が豊富だね。」
「私たちがいた日本は『米』というのが主食だったんですよ。こっちでは同じようなもので『マイスの実』というものがあります。」
「マイスの実か。あれは美味しくないだろう?」
「料理の仕方だと思いますよ。リスデンの『木の葉屋』というレストランでは美味しいマイスの実の料理が食べられますよ。」
「リスデンか。山を越えるから行くのは大変だろう。」
「確かにこちらから行くのは大変ですよね。自分たちはリスデンに渡ってきましたからね。あそこから船でバジュールとかには行けないのですか?もし行けるようになったら航路の方がきっと早いですよね。」
「そうなるとそれなりに大きな船が必要になるな。あっちにはあったのかい?」
「船の他に飛行機というものがありましたね。」
「飛行機?何だい、それは。」
「空を飛ぶ乗り物です。」
「「空を飛ぶ!?」」
エールが進むにつれ、どんどん話が弾んでいった。やはりこちらの世界には飛行機はないので2人は興味津々で聞いてきた。特にマリウスは珍しいものに目がないので食い入るように聞いてくる。
「自分も構造は知らないですよ。後は自動車が主流の乗り物で馬車はもう走っていませんね。」
「馬車はもうという事は、昔は走っていたのだな。」
やはりどこへいっても男性は乗り物が好きなようだ。そんな話を延々として夜が更けていった。朋美はすでにエールを止めてお茶を飲んでいた。
朝もゆっくりな3人に比べ、途中で切り上げた朋美はさっさと朝食を済ませて出かける支度をしていた。
「あ、スマホ充電しておかなくちゃ。」
そう言って雷魔法を使って充電する。
「写真くらいならこっちでも撮れるわよね。」
そう言ってカメラを起動して自撮りしてみる。それを見ながら以前撮ったものも見ていた。
「懐かしいな、この写真。あ、これはあの時か。そういえばあのころに比べて随分と髪の毛も伸びたなぁ。こっちに来てから1度も切ってないものね。」
スクロールしながら古い写真も見ていく。
「あれ?この写真・・・」
1枚の写真に手が止まった。その写真を拡大して見て見る。
「まさか?・・・でももしかして・・・」
スマホを胸元で握りしめる。
「絶対確かめなきゃ!」
早く出かけたくなった朋美は扉を叩いて3人を起こしてまわった。
朋美に起こされた3人は眠い目を擦りながら朝食を済ませて馬車に乗った。
「予定より少し早いけど出かけましょう。直接ツェンに行くのではなく、シェスナに寄ってもらえませんか?」
「シェスナに寄る為に早く出るのですね。」
御者に予定を伝えて出発した。朋美は窓の外を見ながら一言も口をきかなかった。
シェスナに着くと朋美は馬車から飛び出していった。
「トモさん、どこへ行くんですか!?」
3人は急いで朋美の後を追ったが、あまりの速さに見失ってしまった。
「マサト、トモーミが行きそうなところは見当がつかないか?」
「行くとしたら自宅でなければ多分あそこ・・・」
そう言っているうちに朋美が帰ってきた。
「すぐにリルーディさんのところに行きましょう。早く話を聞きたいわ。」
「一体どうしたんですか?」
「お願い、早く!」
真剣な顔で言う朋美にみんなは何も言えず、すぐに馬車に乗り込みツェンへ向かった。そしてその間やはり朋美は一言も口をきくことはなかった。
ツェンに着くと、やはり朋美は一番に馬車を降りた。リルーディの家の前で深呼吸をし、玄関をノックする。
「誰だい?」
「私です、朋美です。」
「ああ、トモーミか。ちょっと待っておくれ。」
カチャカチャと鍵を開ける音がする。
「どうしたんだい?」
そう言って玄関から出てきたリルーディは後ろに馬車が止まっているのを見るや否や、急に不機嫌になった。
「一体だれを連れてきたんだい!?」
「今日は戻ってきた人の事を聞きたくて来たんですけど、その話を聞きたいという人がついてきたんです。リルーディさんが駄目だと言ったら家の中には入れませんし、内容も話しません。どうでしょうか?」
そう朋美が言い終わったころ、馬車の扉を開けてディオが飛び出してきた。
「ちょっと待って・・・」
「出てはダメですよ!」
「おはようございます。マサトとトモーミの友達のディオです。今日は宜しくお願いします。」
やはり2人が止めるのを聞かなかったようだ。慌てて馬車から下りてきたマサトとマリウスは苦笑いをしている。
「あ・・・ディオの兄のマリウスです。ハハハ・・・」
マリウスは必死になって話を合わせながら愛想笑いをする。
「ディオニール殿下?・・・いや、そんなはずはない・・・」
リルーディはよろよろとディオに近づいて行ったが、ハッと我に返った。
「あんたは・・・ディオデール殿下だね?」
「ディオニールって、兄をご存じなのですか!?」
「兄って、やっぱりディオデール殿下だね。殿下がこんなところにいったい何の用だい?」
リルーディは急に不機嫌な顔をした。ディオは自分がやらかしたことを初めて気が付いた。
「その・・・今日はマサトとトモーミの友達として・・・あの・・・一緒に話が聞きたいと思って・・・」
「友達だからといってなんでも一緒ってわけにはいかないよ。あんたたちに聞かせるような話じゃないから、悪いけど出てくれないか。」
なんとしてでも話を聞きたいマリウスが跪いて必死に懇願する。
「勝手に押しかけてこちらの都合で話を聞かせろとは、お怒りはごもっともです。大変申し訳ございません。しかし殿下も生まれて初めての友に胸を躍らせ、喜怒哀楽を共にしたいと思いこのような行動に出てしまいました。どうかお許しください。」
「それでその話を聞いてどうするつもりだい?」
「私は・・・僕はただのディオだから、どうもしないよ。」
「私は殿下・・・いえ、ディオの兄としてここにいます。戻ってきた人の事を知っていると聞いて興味がわいただけです。ただそれだけです。」
リルーディは大きなため息をついた。
「仕方がないね。しかしこの話は他言無用だよ。渡り人以外の人に話すつもりはなかったのだからね。」
「はい、胸にしまっておきます!」
「私も決して口にしません。聞いてもすぐに忘れることにします。」
リルーディはみんなを家の中へ招き入れた。そして自分の椅子に座りみんなを空いている椅子に座るように言い、ゆっくりと目を閉じた。そして大きく息を吸い込み、ゆっくりと口を開いた。




