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こっちで元気にやってます  作者: 楠 螢
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幸せな夜

「おお、小さくて可愛い家だな。これが一般的な家か?」

「まあ2人暮らしならこんなものですね。でもこの家は庭があっていいですね。」

「マリウスさんは庶民の暮らしをご存じで?」

「部下の数人は庶民ですからね。時々飲み過ぎて泊めてもらうことがあるのですよ。」

なるほど、その辺りは庶民の感覚を持っているのか。

「あら、これは何かしら?」

「ああ、数日家を空ける時は薬草に自動で水やりが出来るようにしているのよ。今回も家の薬草畑とここに設置しておいたの。ひまわりの方にも付けておいたわ。」

どうやらあっちのスプリンクラーのようなものだ。魔石の効果で時間になると自動で水を撒いてくれるらしい。

「ほう、これは便利なものですね。我が家の庭にもぜひ欲しいです。」

「町の錬金術師の方に頼んで作ってもらったんですよ。設計図も引いてあるので追加で作ってもらえると思いますよ。」

「それはありがたい。是非紹介してください。」

家の中へ入り、真っ先に風呂場へ向かった。

「この扉の向こうは何だ?」

「バスルームですね。」

「ほう、ここが・・・おお、浴槽があるぞ。」

「え、どこどこ!?」

アーヤの方が飛んで見に行った。

「あら、大きなバスタブ!こんなもの付けてたのね。」

「オーダーメイドで作ってもらったの。」

「いいわね~。でもお湯はどうしてるの?シャワーしか水の出るとこないじゃない。」

「ああそれはトモさんの魔法でお湯を出してもらっているんです。」

「魔法でお湯が出せるのか!?」

マリウスが驚いた。

「氷が出せるから逆もいけるかと思ってやってみたんです。魔力を放出する時に温度調節するだけだから意外と簡単でした。」

「簡単!?是非警備隊の水属性の魔導士に教えて欲しいものだ。」

その後2階へ上がって真人の部屋へ行った。

「何にもないな。」

「まあ仮住まいの家ですからね。」

「仮住まい?」

「ええ。色々あってここにずっと住むつもりはないんですよ。」

「そうなのか?そうか、そうなのか。」

ディオは1人で納得していた。

「そうだ、トモさんこれ。」

真人は引き出しを開けてカヨの遺品を出す。

「これ、簪よね。」

「はい、カヨさんが渡り人に渡して欲しいと村の人に言伝ていたそうです。」

「そうなの。綺麗な簪ね。」

朋美は手に取ってみる。

「きっとこれだけでも日本にいる家族に届けて欲しかったのでしょうね。」

「そうね。帰りたかったのよね。」

「ごめんなさい。日本に届けてあげることは出来ないわ。それにもうあなたの家族もいないの。」

簪にむかって話しかける。

「これはどのようにして使うものですか?」

マリウスが尋ねる。朋美は髪をくるりと纏め、簪をさした。

シャラシャラと窓から入る風に飾りが揺れて音がする。その音がなぜか嬉しそうに聞こえた。


「共同温泉ですか?」

マリウスは困った顔をした。

「早く行くぞ!マサト、案内してくれ。」

マリウスを無視してさっさと2人は行く。

「あ、ちょっと待って!」

慌てて2人を追いかける。

「おお。これが温泉か。誰もいないな。」

「少し早いですからね。貸し切りですね。」

ディオと真人の言葉にマリウスはほっとした。

「お湯が柔らかい感じがするぞ。」

「温泉のお湯の効能ってやつですね。」

体を洗って温泉に入る。

「肌がすべすべするぞ。いいな、これは。」

ディオはこの温泉が気に入ったようだ。幸い3人が入っている間にほかの人は来なかったので、マリウスは安心して温泉を堪能することが出来た。

フィフィーの気遣いで食事は部屋で取らせてもらえた。一番上といった朋美たちの部屋だ。

こっちを殿下の部屋にして欲しかったとマリウスはぶつぶつと言っていたが、ディオはベッドが近い今の部屋がいいと突っぱねた。料理はきちんと準備してくれたらしく、和食もどきを中心に出してくれた。

「醤油があるなんて意外!」

「こっちにある豆から作ってみたの。大量生産できないからこの料理は月に1度しか出してくれないのよ。」

「この『煮物』というものは美味しいな。芋によく味が染みていて柔らかい。父上にも食べさせたい。」

「何処かで大量に栽培させて作らせましょう。」

「これを食べるとご飯が食べたいわ。」

「多分これを出したという事はもってきてくれるはずよ。」

「え、ここにご飯あるの!?」

「でもマイスの実は普通に食べるのには私たち好みではないですよね。」

「そうね。でもここで扱っているのはマイスの実じゃなくて間違いなく私たちが普段食べていた米よ。ダイスの実というらしいわ。」

「ダイスの実ですか?あれは家畜の餌にもならない程硬いじゃないですか?」

そう言っているうちにフィフィーが炊き立てのご飯を持ってきた。

「はい、お待たせ。付け合わせも置いておくね。」

きゅうりの漬物らしきものがついてきた。炊き立ての薫りに2人は興味津々だった。

「これがダイスの実ですか?こんなに白いつやつやしたものになるなんて。」

「はふはふ、あ、噛むほどに甘みがある!これは美味しい。」

どうやら白ご飯も気に入ってくれたようだ。

「これにこの煮物がよく合う!こっちの漬物?ポリポリしていいな。」

今日の夕食にはアルコールはなかったが、2人は珍しい食べ物に、3人は懐かしい食べ物に満足した。


「朋美、写真を見せてくれない?」

部屋に戻って一番にアーヤが言った。」

朋美はすぐにスマホを取り出し父親が写っているものを画面に出した。それをしみじみと見ながらうっすらと涙を浮かべる。

「随分と苦労をさせたのね。こんなにしわや白髪が出来ちゃって。」

「そりゃあもう40を過ぎているんだもん。こっちの写真はどう?」

スマホの中にある父親が写っている写真を次々に見せる。アーヤは声を殺しながら涙を流した。

「朋美にはどんなお父さんだったの?」

「いつも私の事を一番に考えてくれる優しいお父さんだったよ。お母さんにはどうだったの?あっちにいた時は旦那さんがDV気味でワンオペだったって言ってたけど。あれってお父さんの事だったんだよね。」

「お互いに若かったのよ。大学で知り合って社会人になってすぐに結婚したわ。それから朋美が出来てね、私はつわりが酷くて退職したの。」

そのままベッドに座り込む。朋美も隣に座った。

「家の事もあまりよくできなくなったわ。それでもあの人は何も言わずに手伝ってくれてたの。だけど朋美が生まれて色々とプレッシャーを感じるようになったんでしょうね。段々言葉がきつくなってきて『どうしてそんなことも出来ないんだ』とか『こんなこと専業主婦なら出来て当然だろう』とかね。朋美の事も見てくれなくなったわ。朝出かけて帰ってくるまで私は家で朋美と2人っきり。帰ってきてもあの人は一言も口を聞いてくれなかったわ。写真でもこんな笑顔を見ることなんてなかったの。でもよかった。私がいなくなって笑顔でいることが出来たのね。」

スマホを朋美に返す。

「それは違うわ。ここに来る前にお父さんにお母さんの事を聞いたの。お母さんが亡くなった時の事をすごくつらそうに話してくれたの。その時お父さんはお母さんの事とても大切に思ってたんだって思ったもの。」

「朋美・・・」

「本当だもの。お父さんはお母さんの命日にも、月命日にもあの橋に行って花を供えてたんだもの。お母さんが好きなひまわりを、それがない季節にはよく似た花をずっとずっと・・・」

朋美は泣いて話をする。アーヤはそんな朋美を優しく抱き寄せる。

「きっと私がいなくなって、本来のあの人に戻ってくれたのね。大丈夫よ、あの人が酷い人だなんて思っていないから。朋美がこんなに素直に育ったんですもの。」

アーヤは朋美の頭をなでる。

暖かい手・・・お母さんに抱きしめられるってこんなに安心するんだ・・・。


「あの・・・今日は一緒に寝ていい?」

「いいわよ。今日は一緒に寝ましょう。」

子どものような笑顔で同じベッドにもぐりこむ。

「本当に大きくなったわね。私が最後に抱いたのはあの雪の日だったわ。こんなに小さかったのに。あの日私は朋美が幸せになるようにと願ったわ。貴方はこっちに来てしまったけど、それまでは幸せだったわよね。」

「今でも幸せだよ。こっちに来た時は不幸だと思ったけど、お母さんに会うことが出来たから。」


その頃もう1つの2人部屋では前回と同じようにディオが真人に話しかけていた。

「マサト、今回は本当にありがとう。こんな私のわがままに付き合ってくれて。」

深々と頭を下げる。

「な・・・頭をあげて下さい!」

「父上に言われたとはいえ、初めて護衛らしい護衛をつけずに城の外に出ることが出来て私はかなり浮かれていたようだ。随分と迷惑もかけてしまった。」

「そんなことはありませんよ。変な人が監視役でついてくるより良かったですよ。」

「私には同じくらいの友と呼べる者がいない。幼い頃からずっと国王になる為にと言われてきたからな。だから側にいる同じ年頃の子供は全て将来の側近候補だった。そのせいで友として接することが出来なかった。でも今回2人とこんなに気兼ねすることなく過ごすことが出来てとても楽しかった。私にとって今回の事は一生の宝物だ。きっともう二度とこのようなことはないからな。」

真人はこの時初めてディオの本心を聞いた。本当は気兼ねすることなく付き合える友達が欲しかった。しかし立場上それが出来なかった。あのはしゃぎようはそんな理由があったからだ。そしてそれを知って、真人も自分で気が付いたことがあった。

「王様はディオデール殿下と仲良くしてくれと言っていましたよね。自分もこっちへ来て友達がいないのですよ。だからディオ、自分と友達として仲良くしてくれないかな。」

「マサト!」

「これからも自分といる時は殿下ではなくディオでいてくれるかな。」

「ありがとう、マサト。」

ディオはあまりの嬉しさに涙を流した。

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