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4-2 a さいきんの学園もの

 〈こんにちは〉

 アリス、呼んでるぞ?

 〈こんにちわってば〉

 あ、そういえば、今はアリスの中じゃなかった。

 【経口感染】でスラムのネズミの中に居るんだった。

 グラディスの言う通り、どんなに阻止してもどうせアリスは脱走するだろうから、学校やスラムの周りに自由に動かせる手駒を作って包囲網を作っておこうと考えた。というわけで学校周りのネズミを当たっている最中の事だった。

 今はちょうど白血球を倒して感染成功した3匹目のネズミの中だった。

 ん、ネズミに向かって「こんにちわ」って、誰だろう?飼ってる人でもいたのかな?

 〈おーい。うーん、やっぱ通じないのかな〉

 ネズミは何の反応も示さない。まるで何も聞こえてないかのようだ。

 〈話通じそうだと思ったんだけどなぁ。おーい、そこで戦ってた君。〉

 え?アレ?もしかして自分に話しかけてる?

 声のしたほうを振り向くと真っ黒で細長い形の細菌?が漂っていた。いままで時折見かけたことのある形状だが、何だろう少し雰囲気が違う。とても嫌な感じがする。

 テレパシーを飛ばすつもりで頭の中で返事を返してみる。

 《僕のことかい?》

 〈そうそう。ああ、話が通じたよ。うれしいねえ。〉“彼“は嬉しそうに言った。話し方はとても呑気で声だけ聴いているととてもいいやつに思える。ただ、その見た目、いやオーラとでもいうべきだろうか、それが絶対に“彼“を信用してはいけないと自分に確信させた。

 “彼“はそう・・・禍々しいのだ。

 〈話ができたのは君が初めてだよ。〉

 《こちらもさ。》

 これは、何かしら自分の置かれている状況について情報が得られるかもしれない。

 一応注意はしよう。アリスのことやこちらの情報を与えるのは可能な限り避けておきたい。

 《君の名前はなんていうんだい。》まずは訊ねてみる。

 〈おかしなことを言うね。名前なんて無いよ。だいたい、話す相手が君しか居ないのにどうして名前なんて必要なんだい?〉

 《それもそうだね。》少し考えて差しさわりのない返事を返す。

 〈君はすごいね。戦い方に長けてる。〉

 《そうかい?》

 〈そうさ。すごく弱いのに、あの邪魔な奴らを倒すんだもの。それにどうして戦いの終わった後、奴らはどうして君を無視するんだい?〉

 奴らとは白血球のことだろう。

 《一度倒したら襲ってこないもんだろう?》とりあえず、すっとぼけてみる。

 〈そうなのかい。それが君の固有スキルなのか。〉

 《固有スキル?》再びすっとぼける。

 【解析】スキルの説明に(固有)とあった。

 自分のもともとの固有スキルはこの【解析】だ。

 白血球に襲われないのも【抗体】という固有スキルのおかげだ。【抗体】は別の細菌の固有スキルを【解析】して獲得したスキルだ。

 今の話で、“彼“も自分と同じようにスキルを持っていて、且つ、固有スキルを有していることが分かった。どんなスキルだろうか?

 〈そうさ。スキルに(固有)とあったろう?あれのことさ。たぶん、それぞれ個別のスキルを持っているんだろうさ。君のもなかなか強力なスキルだね。〉

 《君も(固有)スキルを持っているのかい?》

 〈そうさ。でもどんなのかは教えないよ。〉

 こいつ・・・。まあ、いい。自分も本当の固有スキルについては教えていない。こちらもわざわざ話す必要はない。“彼“が厄災かもしれない以上、情報を与えないに越したことはない。

 逆に“彼“はこちらにとっての大きな情報源だ。

 《君ももともと人間だったのかい?》

 〈人間?人間って?君は自分がもともと人間だったとでも思っているのかい?〉

 しまった、要らんことを訊いたか。

 〈君は面白いね。僕たちはイェストさ。〉

 《イェスト?》

 〈僕たちのことさ。人間たちがそう呼んでいたんだ。僕たちや、僕たちを目の敵にして襲ってくる奴ら、ほかにもここら辺を漂ってるみたいな有象無象の連中のことを総称しているらしい。〉

 イェストとは細菌を意味する単語っぽい。あるいは細胞か。

 《君は物知りだね。ほかのイェストも僕たちみたいにスキルを持っているのかな?》

 〈どうだろう。たぶんね。あいつらは意思を持ってないと思うね。話しかけても反応しないし。きっとランダムにスキルを取ってるから僕や君みたいに強くないんだろうさ。〉

 《でも、白血・・・さっきまで僕の戦っていたやつはすごい強いよ?》

 〈そりゃ、ランダムにスキルを取ったって強いやつは強いさ。きっと、そうやってたまたま強いスキルの組み合わせを持ったイェストだけが生き残って、残念な組み合わせのイェストは淘汰されていくんだろう。僕の持論だけどね。〉

 ダーウィンみたいなことを言う。もとが人間でないにしても“彼“はかなり頭の良い存在のようだ。

 《君は考えてスキルを取っているんだね。》

 〈そりゃそうさ。君だってそうだろ?〉

 《考えて取ってはいるけれど、どういうふうに取っていったら良いのか解らないんだ。》

 〈君はどんな風にとっているんだい?〉

 うーん。ここはある程度は正直に答えておこうか。第三者のアドバイスが欲しい。

 《【感染】関連をいくつかと、【操作】を取ってみたんだ。》

 〈いいんじゃないかい?【感染】を伸ばすのが僕らが生き残る最良の手だね。メインの宿主が死んでしまうといずれ僕らもそのまま死んでしまうから、必要な時に確実に他の宿主に乗り替えられるようにしておいたほうが良いもんね。ただ、【操作】はどうなんだろ?僕は【嘔吐】や【炎症】からの【吐血】を取っていくのがいいと思けどな。【血液感染】や【経口感染】を持っているならそれとの組み合わせでいい感じのシナジーが生まれるよ?それに【嘔吐】と【吐血】をあげると【血斑】というスキルが出てくるんだ。この先に【皮膚出血】ってスキルがあってね。皮膚から出血させることができるみたいなんだ。僕はまだ、そこまでは行ってないけどね。ワクワクしないかい?〉

 “彼“は饒舌だ。

 メインの宿主とはどういう事だろう。おそらく自分にとってのアリスのことなのだろうが。

 彼は続けて質問をしてきた。

 〈【操作】は宿主を好きなように操れるのかい?〉

 《いいや。そうでもない。少し宿主の趣向を変えられるだけで、ほとんど何もできないみたいなんだ。》“彼“が【操作】を使いこなせるようになってはいけないような気がしたので、『操る対象によってはかなり操ることができる』ということは隠して、自分の感じた【操作】へのガッカリな部分だけを素直に伝えた。

 〈やっぱりか。【操作】と言っても自殺まではさせられるわけがないと思ったんだ。生き物だからね。【操作】は効率が悪いよ。【嘔吐】や【くしゃみ】みたいに感染に対して直接効果を持たないし、宿主に大きな影響も与えられない。これじゃ、うまく点数が稼げない。〉

 たしかに直接殺す命令はできないのかもしれないが、狂犬病みたいな例もあるから必ずしも宿主に脅威を与えられないという訳ではない。それに菌ではないが宿主を入水自殺させるハリガネムシの例もある。もちろん、わざわざそんなことを伝えるつもりはない。

 そんなことより気になるのは最後の言葉だ。

 《点数って?》

 〈ああ、殺した宿主たちの数だよ。左下に出てるだろ?〉

 ああ、やはりそういう奴だったか。

 点数とはあの一番右の0のことに違いない。

 〈宿主のスキルを使って殺した命の数もカウントされるよ。『要は殺した数』だね。今、君は今何点くらいだい?〉

 《0点だよ。》ここは隠さない。人としてここを隠すことはできない。

 〈何だって!?〉

 《0点だ。僕は点数目的で宿主をわざわざ殺したりしない。》

 言葉尻から、おそらく“彼“は自分より相当強い。できれば敵対したくない。変に目を付けられたらアリスに被害が及ぶことだって考えられる。が、それでも言っておかないといけないことがある。自分が“彼“とは違うと、ここで決別しておかなくてはならない。

 〈面白い。さすが元人間とか言うだけあるねぇ。君、面白いよ。まあ、点数高くしたからってどうかなる訳じゃないんだけどね。でも、ほかに楽しみもないだろ?〉

 《そんなことはないさ。》

 そんなことはない。細菌になってからだって、アリスを見ているだけで十分楽しい。自分では手を出せないのが歯がゆいとは思うが、人間を殺した点数を楽しむほどにつまらない人生ではない。

 〈わっはっはっ。君は【操作】を取って、他人の人生にちょっとだけ介入して楽しんでるんだね。〉

 少し、カチンとくるのは“彼“の言っていることがそこそこ真実だからだろう。

 〈まあいいんじゃないか?生き方はそれぞれだからね。うーん、そうだね。〉

 《?》

 〈たぶん、君、宿主を大切にするタイプみたいだし、【症状】系は【操作】以外取ってないだろう?いいことを教えてあげよう。【発熱】は取っておいたほうが良いよ。増殖できる割合がレベルによって上がるんだ。【発熱】なら、多少レベルを上げても宿主が死ぬ可能性も無いしね。〉

 死なないだけで、倦怠感は出るだろうに。取ることはないよ。

 《ありがとう。》ここは、素直に礼を言っておく。今は“彼“と敵対までしたいわけではない。それに【症状】系のスキルについて訊ねておきたいことがある。《一つ聞いてもいいかい?》

 〈どうぞ〉

 《【症状】系スキルは感染している宿主全員にいつでも効果が出ちゃうものなのかい?こちらの任意で発動できたりはしないのかな?》

 〈あはははは、選んで殺すか!!君はますます面白いね。いや、見直した。素晴らしい!最低だよ!まるで本当に人間みたいだ。君のことが大好きになったよ。ここで始めるのはやめておいてあげる。君がどう生きるか興味があるしね。〉

 何かが、“彼“のお気にすごく召したようだ。

 〈効果を説明しているテキストに『できる』と書かれているものは任意で発動できるみたいだよ。それ以外は自動発動だね。〉

 《そうなのか、ありがとう。》

 〈ところで、本題。〉

 本題があったのか。

 〈この宿主はどうする?君の物?僕の物?〉

 “彼“は試すように言った。今までと少し違い邪悪な感じが声にも混ざった。

 《譲るよ、君の物でいんじじゃないかな。》

 こちらは20以上、“彼“はまだ一人。それでも勝てる気がしない。たぶん、勝てない。ひ弱な人間が筋骨隆々とした大男を見てかなわないと思う。それと同じだ。細胞となった自分が何をもってそう思ったのかは理解はできないが、今の自分では“彼“に敵わないということが判るのだ。そして、“彼“もそれは解ってる。

 〈おや、ずいぶん、融通が利くね。僕だとこの宿主は最終的に殺しちゃうけど、それはいいのかい?〉

 《しかたないさ。君と戦ったって僕じゃ勝てないだろ?》

 〈くっくっく。〉“彼“は押し殺すように笑った。〈分らないよ?確かに僕は君よりよっぽど強いけれど、君は頭がいい。そう、まあ、そこそこには。うまいこと戦略を立てて善戦してくれるんじゃないかと思うんだけどな。くっくっく。〉

 《頭がいいから戦わないのさ。やっても無駄だって解るからね。》

 〈まあ、そういわずにやろうよ。ハンデをあげるからさ。君が先攻で良いよ。準備時間もあげる。別に僕もこの宿主にこだわりがある訳じゃないしね。〉

 “彼“に勝てるとしたら白血球をうまいこと利用して、追い込むくらいしか思いつかない。準備期間がもらえるのなら、白血球をどうにか誘導して囲いこんでから戦うという選択肢もある。

 だが、“彼“は自分を試している。

 何かを探ろうとしている。

 何を探っているのかは分からないが、あえてくれてやることもない。

 《遠慮するよ。どうぞ、好きにするといい。》

 〈そうかね、じゃあ、君のことを駆逐するよ。ネズミ一匹でも1ポイントだしね。それに、僕の増殖能力が君より勝っているかはよく分からないんだ。放っておいて、気づいたらこの宿主の中に君だらけってのもなんかね。〉

 《しかたない。》

 〈じゃあ、遠慮なくいくよ。バイバイ〉

 覚悟を決める。ただし、少しでも“彼“がどんな奴かは見極めておこう。

 《・・・・?》

 〈あっはっは。〉

 “彼“は攻撃してこなかった。代わりに笑い声が聞こえた。

 〈やあ、君も、ギフテッドなんだねぇ。〉

 《?》

 〈ああ、固有スキルを二つ以上持ってる奴のことさ。僕がそう名付けた。カッコいいだろ。〉

 たしかに、今は他の細胞から奪った固有スキルがいくつもあるが、特にその手のスキルを使ったつもりは無いのだが・・・。

 〈君、自分から攻撃できるだろ?僕が君を攻撃できることも不思議に思ってないみたいだし。〉

 《!!》

 しまった。

 忘れていた。

 普通は相手に自分から攻撃を仕掛けられない仕様だった。さっきの受け答えは大チョンボだ。『戦わない』ではなくて『戦えない』と答えなきゃいけなかった。

 “彼“の本題とは宿主でも戦闘でもなく、これだったのだ。

 自分が“彼“を攻撃できるか。

 自分が“彼“の脅威となりうるか。

 〈奴らには攻撃されない、それなのに自分からは攻撃できる、良い固有スキルの組み合わせだよね。その二つは僕と一緒だよ。いいね、僕と同じギフテッドで意識持ち。うれしい限りだね。得点を競えないのが残念だなぁ。ねえ、君、やっぱり得点を気にしてみない?〉

 《いや、お断りするよ。》

 〈いいさ、今の君じゃ。競っても僕の楽勝だしね。まあ、頑張って強くなってよ、ちょっと待ってあげるからさ。〉

 《努力するよ。》

 〈じゃあ、今度こそバイバイ。またね。〉

 “彼“がそう言った瞬間、“彼“から黒い瘴気が放たれ、あっという間に自分たちは霧散した。

後の記載と矛盾がありましたので、「宿主の【症状】を使って殺した命の数もカウントされるよ『要は殺した数』だね。」のくだりを追記しました。21/10/30

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