4-1 c さいきんの学園もの
イベントの二つ目は例によってあいつだ。
誕生会から日は変わり、王女の部屋にいつものようにノックもせず・・・いや、ノックはしてるのか・・・ノックとともに扉が開いてアルトがやって来た。
「アリス君、変わりはないかね。」
ケネスの著した参考書を肘鉄をつきながら読んでいたアリスは、アルトを一瞬だけ目の端に捕らえ、いつものように本に目線を戻すかと思いきや、アルトの持ってきていたカバンに目を取られた。
アルトはいつも持ってきている清潔に保たれた診療用のカバンとは別に、彼らしくない薄汚れたカバンを持っていた。それだけならアリスの注意は引かれなかったのだろうが、そのカバンはごそごそとうごめいていた。
「なに?そのかばん。」
「これですか?」アルトはアリスに近寄ってくると、カバンの口を広げて中を見せた
アリスがカバンの中を覗き込むと、小さな白い生き物のつぶらな瞳と目が合った。
「うわぁ。なに?なにこれ!!。」アリスの瞳がキラキラと輝いた。
アリスの声に、中にいたイタチのような真っ白な生き物は狭いカバンの中を身をよじるようにしてぐるぐると走り周り始めた。
これ、知ってる。
たしか、フェレットだ。
「オコジョだね。」
違った。
「触っていい?」アリスがアルトの返事も待たずにオコジョの入っているカバンに手を突っ込んだ。
「ちょっ、アリス君、あっ!」
急に手を突っ込まれて驚いたオコジョがカバンの口から跳び出して、宙を舞った。
その瞬間、アリスはオコジョの動向を目で追うこともなく、カバンにつっこんでいないほうの手を一閃した。
カバンから飛び出したと思ったオコジョは、気づいたらアリスの手の中にとらわれていたため、何が起こったのか理解できずに短い手足を不格好に広げたままの状態で硬直した。その眼だけをパチクリと動かしてアリスのほうを見ている。アリスが逆手で捕まえてひっくり返すように目の前に持ってきたので、オコジョは逆さまの状態だ。
「かわいい~!」アリスは足を広げたまま固まっているオコジョをひっくり返して天地を戻してあげると、頬ずりをした。
オコジョがますますもって身を固くする。
後ろでネオアトランティスが突然のライバルの登場に必死に騒ぎ出した。
「名前なんて言うの?」
「実験動物だから名前はないよ?」
「実験動物ってなに?」
「ん?文字どおり実験に使う動物だよ?例えばアリス君のお薬がきちんと効果があって、ほかに副作用が無いかを確認するための実験をするための被検体になるんだよ。」
「ふーん。だと、なんで名前が無いの?」
「医療実験だと、だいたい最後は実験で死んじゃうしね。名前は付けないようにしているんだ。」
解る。検死ならまだいいけど、解剖とかでメス入れる時がつらいんだ。オコジョ001でいいんだよね。外科だと人間の手術でも田中001みたいに考えてるようにしてるって聞いたことがある。相手を人間だと思って手術しちゃいけないんだ。なんせ、生きている人間の腹を掻っ捌くんだから動揺してはいけない。
「何言ってるの!」アリスは激怒した。隣の国まで走り出しそうな勢いだ。「この子を殺すなんて絶対だめよ!!」
「いや、アリス君・・・」
「絶対ダメ、この子は私が貰うわ。」アリスはアルトを睨みつけた。
アルトは完全に気おされて、困ったような顔で沈黙した。
オコジョは自分のこの後の生命ががまさに今やり取りされているとも知らず、手足を広げた間抜けな格好で固まっている。
「こんなかわいい子を実験に使うなんて絶対にダメよ。」アリスは再びオコジョに頬ずりした。
「そうはいってもね、アリス君・・・」
「しゃべるな。」アリスはピシャリと言った。アルトの話を聞く気は一切ないようだ。そして、しゃべるなと言っておきながらアルトに尋ねた。「この子は、男の子?女の子?」
「メスだよ。」
「そう、じゃあ、この子は今日からレディ・ウィンゼルよ。」アリスが満面の笑みを浮かべながら再びウィンゼルに頬ずりした。
ウィンゼルと名づけられたオコジョは固まったままで目だけをぱちぱちと瞬いた。
「よろしく、ウィンゼル卿!」アリスは嬉しそうに、新しいペットにあいさつした。




