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第8話「親友の拳、アイツの背中。幸人の咆哮」

挿絵(By みてみん)


「……ゆっくん、嘘だろ」


屋上の乾いた空気の中で、智也の声がかすれた。


目の前に立つ親友、幸人の輪郭から、どす黒い霧のようなオーラが噴き出している。その中心にある瞳は、完全に正気を失った不気味な紫色に濁っていた。


「嘘じゃないさ、智也。……お前にはわからないだろ? 財閥の御曹司で、前世からの絆があって、黙っていても女の子たちが向こうから寄ってくる……。そんな『主人公』のお前にはさ!」


幸人が地を蹴った。その速度は、人間の限界を遥かに超えている。


智也の視界がブレるより早く、肉薄した幸人の拳が空気を引き裂いた。


「くっ……!」


間一髪で腕を交差させて受け止める。だが、骨を軋ませるような衝撃に、智也の体はコンクリートの上を数メートル後退した。


「……智也くんに触らないで!」


叫んだのは、このみだった。怯えながらも智也を庇うように前に飛び出す。だが、その行動が幸人の瞳の紫をいっそう烈しく燃え上がらせた。


「そうだよ、このみさん。あんたはいつも、智也しか見てない。……俺がどれだけあんたを笑わせようとしても、あんたの瞳に映ってるのは、いつだって隣にいるコイツだ!」


幸人の咆哮。それは、数年間積み重なった無力感、そして一人の少年としてのやり場のない叫びだった。闇は、その心の隙間に「力」という名の最悪の毒を流し込んだのだ。


「……幸人、やめるんだ。その力は、お前自身を壊す!」


あやめが刀を抜き放ち、鋭い切っ先を幸人に向ける。


「化け物で結構。……この力があれば、俺はこのみさんを守る『騎士』になれる。智也、お前じゃなくて、俺が!」


幸人の右腕が、黒い泥を纏って異形に膨れ上がる。智也はあやめの前にスッと一歩踏み出した。


「……あやめさん、手を出さないでくれ。これは、俺とアイツの問題だ」


「何を言っているの!? 今の彼は正気じゃ……」


「わかってる。……でも、幸人がこんなになるまで、俺はアイツの気持ちに甘えてたんだ」


智也は拳を固く握りしめる。


その瞬間、胸の奥底から前世の記憶が溢れ出し、智也の意識を急激に覚醒させた。かつて誰かを守るために剣を取った時の、あの熱い感覚。


「幸人! お前がこのみさんを好きなら、そんな借り物の闇なんか使わずに、男なら自分の力で奪ってみせろよ! そんなもので強くなって、このみさんが喜ぶと思ってんのか!」


「うるせええええ!!」


激突する二人の影。


智也の真っ直ぐな拳が、幸人の顔面を捉える。同時に、幸人の重い一撃が智也の腹部を深く抉った。


互いにボロボロになりながら、屋上の上で泥臭く殴り合う。それはもはや異能の戦いというより、ただの親友同士の喧嘩だった。


「……俺は、お前が羨ましかったんだよ……! 智也……っ!」


最後の一撃を互いの顔面に放ち、二人は同時に仰向けに倒れ込んだ。


幸人の瞳から紫色の光が消え、彼を覆っていた黒い影が霧散していく。


「……バカだな、お前は」


智也は仰向けに寝転んだまま、夕焼け空を見上げて小さく笑った。隣では幸人が、鼻血を拭いながら情けなく涙を流していた。


「……ああ、バカだよ。……負けたよ。このみさんだけじゃなくて、喧嘩まで」


そこへ、息を切らせて駆け寄ってくるこのみ、みくる、紗季、そして結。


このみは倒れた二人の真ん中に静かに座り込み、厳しい顔をしながらも、優しく幸人の額に手を当てた。


「……幸人くん。……私を見てくれるのは嬉しいけれど、こういうのは『お門違い』よ。……でも、私のために助けに来てくれたその勇気だけは、少しだけ、認めてあげる」


「……まじ、すか」


幸人の顔が、一瞬で真っ赤になる。


その光景を見て、あやめは静かに刀を鞘に納めた。


「……ゆき。あなたの周りは、本当に賑やかね。……でも、気をつけて。幸人を唆したのは、第四勢力のほんの末端に過ぎないわ」


街の灯りが一つ、また一つと点り始める。


友情と恋。現世のしがらみが一段落したその時、智也の耳元で、はっきりと前世の自分の声が聞こえた。


『――朔(さく)。私を、見つけて』


智也は、あやめの手を静かに取った。


もう、後戻りはできない。財閥、前世、そして親友。すべてを背負った智也の戦いは、ここからさらに加速していく。


(第8話「親友の拳、アイツの背中。幸人の咆哮」おわり / 第9話へ続く)

メインヒロインのひとり結城 紗季が歌う、

「ゆめみる、ゆき、あやなす、むすび。」の挿入歌です


『SWEET TRAP ROULETTE』


架空アニメ 「ゆめみる、ゆき、あやなす、むすび。」挿入歌


歌:結城 紗季


https://suno.com/s/P1gG8hMKfUzPsCcf

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