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第24話「六人目の影。忘れられた約束の場所。」

挿絵(By みてみん)


砕け散ったレンの結界の破片が、薄墨色の夜空にキラキラと光の塵となって舞い落ちていく。


東の空の端が白み始め、夜明けの冷たい光が旧校舎の屋根を淡く照らし出していた。激闘の熱気の余韻と、勝利を噛みしめる安堵の息づかい。みくるが肩の力を抜き、結が小さく息を整え、幸人が泥だらけの顔を腕でぬぐう。


だが――その中心に立つ智也だけは、足元を凍りつかせたかのように、指先ひとつ動かせずにいた。


視線の先。消えゆくレンの黒煙の奥底から、足音も立てずにそこへ現れた銀髪の少女。


「……ちょっと、あんた。どっから湧いて出たのよ」


みくるが不審そうに眉を跳ね上げ、物干し竿の切っ先を構え直す。しかし、少女は視界の端にすらそれを留めない。星の海をそのまま閉じ込めたような、透明度の高すぎる双眸――その焦点は、狂いなく智也の胸元ただ一点だけを射抜いていた。


「お久しぶり。……ううん、いまのあなたにとっては『初めまして』と言うべきかしら、智也くん」


喉を震わせて放たれた声は、澄み切った鐘の音のようにどこまでも澄んでいた。だがその響きの底には、触れた者の熱を根こそぎ奪い去るような、絶対零度の静けさが沈んでいる。


その声音を耳にした刹那、あやめの喉から掠れた息が漏れた。


「……『星名(ほしな)』。……まさか、四百年前の業火で血脈ごと途絶えたはずの、あの星名が……」


現代の三大勢力――神代、本庄、坂下。その源流が定まるよりも遥か昔、太古の時代から異能の深淵を統べていたと語り継がれる伝説の禁忌、『星名家』。


「私は星名ルナ。……智也くん、思い出して。四百年前、あなたが『朔』と『ゆき』に魂を裂かれるよりも前……まだひとつの完全な存在だった頃に交わした、本当の、最初の約束を」


ルナが細く白い指先をすっと持ち上げ、軽く鳴らした。


パチン、と乾いた音が落ちた瞬間、智也の頭蓋を内側から灼熱の杭で貫かれたような激痛が襲った。


「ぐっ……、あ……ぁッ!?」


あやめと共有した前世の戦場――あの燃え盛る社の記憶よりも、さらに奥底。輪廻の澱の底に沈んでいた、分厚い氷の棺が砕け散る。


見渡す限りの銀世界。時が凍りついた空の下、まだ何者でもなかった幼い智也の魂と、目の前の少女・ルナが、小指を絡め合っていた。


『――いいこと、智也。あなたがどれほど長い輪廻を巡ろうと、男になろうと女になろうと、私は必ずあなたを見つけ出す。……だって、あなたは私の、たったひとつの半身なのだから』


◇◆◇


「……そん、な……。じゃあ、あやめさんと交わしたあの約束は……」


膝をつき、荒い呼吸を繰り返す智也の唇からこぼれた言葉を、ルナは残酷なまでに穏やかな微笑みで受け止めた。


「あやめとの四百年は、ほんの束の間の寄り道に過ぎないわ。……智也くん、その胸に宿る黄金の光は、あやめのためでも、そこの人間たちのためのものでもない。もともと、私とひとつに戻るために分かち合ったものよ」


ルナの透き通るような肌の奥から、静かに立ち昇る光。


それは智也の黄金でも、レンの暗泥でもない。色も、熱も、感情すらも寄せ付けない、純白の「虚無」の燐光。


「さあ、偽りのいいなずけたちはお退場願おうかしら。……本物が、迎えに来たのよ」


ルナが裾を翻した瞬間、白光の波紋が同心円状に爆ぜた。


先ほどレンを打ち砕いたはずのみくるの朱、このみの青、結の金、紗季の白、あやめの銀――五色の祈りの残光が、その波に触れた端から音もなく吸い込まれ、霧散していく。


「嘘……っ! 私たちのデータが、祈りの波形ごとゼロに初期化される……!?」


このみの端末が甲高い警告音とともにフリーズし、周囲を取り囲んでいた結の偵察ドローンが推進力を失ってバラバラと地面に落ちた。


「……あやめ。あなたなら解るはずよ。魂に刻まれた『序列』の意味が。……彼を最初に見初め、契りを結んだのは、私よ」


あやめは唇を噛み切り、滲んだ血が顎をつたった。握りしめた太刀の柄が、手のひらの骨を軋ませる。


「……ええ、知っているわ。神代の古文書に封じられた、原初の巫女の名を! ……けれどルナ、今の智也は過去の亡霊じゃない! この時代に生まれ、傷だらけになって、この子たちと泥臭い『今』を紡いできた……たった一人の結城智也よ!」


「……なら、力ずくで思い出してもらうまでよ」


ルナの掲げた掌の下、智也の足元の地面が巨大な白光の陣へと変貌した。


「星名の聖域で待っているわ。……そこで、すべての長すぎた『いいなずけ』の戯れを、綺麗に清算してあげる」


「智也――ッ!!」


みくるの手が、あやめの切っ先が虚空を掻いた瞬間。


音もなく弾けた光とともに、ルナと智也の輪郭は空間の裂け目へと呑まれ、完全に消滅した。


吹き抜ける冬の朝風。


残されたのは、凍てついた校庭に崩れ落ちる五人の少女たち、そして折れた杭を握りしめたまま立ち尽くす親友の姿だけだった。


前世の因縁すら塗り替える「原初の契約」。


奪われた日常と智也を取り戻すため、五人の少女たちは、己の想いのすべてを懸けた真の最終決戦へとその足を踏み出す。


(第24話「六人目の影。忘れられた約束の場所。」おわり / 第25話へ続く)

メインヒロインの星名ルナが歌う、

「ゆめみる、ゆき、あやなす、むすび。」の後期ED主題歌(ルナVer.)です


『SILVER ECHOES』


架空アニメ 「ゆめみる、ゆき、あやなす、むすび。」 後期ED主題歌(ルナVer.)


歌:星名 ルナ


https://suno.com/s/qxWqJjRxoW4cbsSn

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