第23話「結界突破! 黄金の光と、5つの祈り。」
「無駄だ。人間の矮小な感情のさざ波など、この永劫の暗泥の前には塵に等しい」
レンが解き放った『終焉の結界』が、結城家の敷地を、そして街の輪郭を冷酷に呑み込んでいく。触れるものすべてから色と温度を奪い、平坦な虚無へと変えていく黒い澱みが、智也たちの足元、靴底の数ミリ手前まで迫っていた。
「……いいえ、塵なんかじゃないわ」
あやめが、智也の手を骨がきしむほど強く握り直した。
「あなたが切り捨てたその泥臭い執着こそが、四百年前、私たちがあなたをあの社に縫い止められた唯一の理由よ!」
あやめの凛とした呼気を引き金に、五人の少女たちが智也を中心にして、吸い付くように円陣を組んだ。
「智也! あたしが毎朝毎晩、あんたのために握ってきたおにぎりや弁当の数……あの中に詰め込んだ『好き』の重み、舐め腐んじゃないわよ!」
みくるが物干し竿を天へと掲げる。その切っ先から噴き出したのは、湯気と味噌汁の香りを宿したような、素朴で温かな朱色の熱光だった。
「予測演算の解を越えた確信が、ここにあるわ。……智也くん、私があなたを信じる確率は、いつ如何なる極限状態であっても、絶対に揺らがない百パーセントよ!」
このみの周囲を巡る青い論理光が、超高速の幾何学模様を描いて夜気を焼き焦がす。
「本庄の名において、智也さまの歩みを阻む不条理をすべて買い叩き、叩き潰して差し上げますわ! 未来の特等席は、わたくしが独占いたしますことよ!」
結が掲げた扇子の先端から、まばゆい黄金の豪光が滝のように溢れ出した。
「……お兄ちゃん。……私、もう二度と目を逸らしません。誰に遠慮することもなく、お兄ちゃんの隣に立ち続けます!」
紗季の引く弓から放たれたのは、濁りなき慈愛の白光。
「……そして、ゆき。今のあなたなら、この重すぎる想いを受け止めきれるはずよ」
あやめの魂の奥底から、四百年の業火と流した涙を清める純銀の刃光が、天を衝く柱となって立ち昇った。
朱、青、金、白、銀。
五つの意志、五つの我儘、五つの祈り。一切の妥協を排した少女たちの熱情が、中心に立つ智也の胸元へと一気に注ぎ込まれる。
「……みんな……っ。ああ、届いてる……痛いくらいに伝わってくるよ!」
智也の全身が、網膜を焼き尽くすほどの黄金の光条に包まれた。
かつて「ゆき」として抱えた巫女の祈りと、今世で「結城智也」として泥臭く積み上げてきた絆。二つの生が完全に溶け合い、昇華した究極の輝き――『五星一統』。
「うおおおおおおおおっ!!」
智也は両手で握り締めた光の太刀を、渾身の力で振り抜いた。
放たれた絶対の一閃は、あらゆる存在を無へと帰すはずだったレンの結界を、凍りついた湖面を踏み抜くかのように粉々に叩き割る。
「な……ッ!? 馬鹿な……私の闇が、人間どもの執着に……喰われていくとでもいうのか……!?」
その顔に、初めて生々しい戦慄を張り付かせるレン。
「ゆっくん! 今だッ!」
「言われなくてもなぁ! ――これで打ち止めだ、このド阿呆がぁッ!!」
雪煙を突き破り、影の死角から飛び出した幸人が、己の全体重を乗せた最後の一杭を、レンの影の急所へと深々と穿ち込んだ。
◇◆◇
閃光が奔流となって夜空を塗り潰し、街を覆っていた紫の霧が、朝露のように音もなく消え去っていく。
だが――崩壊し、輪郭を失っていく闇の中心で、レンは不気味な笑みをその唇に刻んでいた。
「……見事だ。だが智也、お前は本当に救われたつもりでいるのか? まだ……『最後の一人』の蓋が開いていないというのに」
「……最後の一人……?」
レンの身体が黒い灰となって夜風に散っていく、その奥底。
時間の止まった裂け目から、音もなく、一人の少女が銀世界の中へと降り立っていた。
星々の光を吸い込んだような、透き通る銀の長髪。
三大勢力の歴史のどこにも記されてこなかった、最古にして最後の存在。
『――ふふ。やっと二人きりになれたわね、智也くん』
冷たい風の中、彼女の囁きだけが甘く響き渡る。
五人の祈りで闇を払った直後の結城智也の前に、輪廻の根源を揺るがす「原初の契約」を宿した少女――ルナが、静かにその瞳を開いた。
(第23話「結界突破! 黄金の光と、5つの祈り。」おわり / 第24話へ続く)
メインヒロインのひとり神代 あやめが歌う、
「ゆめみる、ゆき、あやなす、むすび。」の挿入歌兼最終回ED主題歌です
『LAST REWRITE - 幾重の未来へ -』
架空アニメ 「ゆめみる、ゆき、あやなす、むすび。」 挿入歌兼最終回ED主題歌
歌:神代 あやめ
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