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第17話「四百年前の、はなふぶき。語られなかった真実。」

挿絵(By みてみん)


放課後の旧校舎裏からは、連日、激しい木刀の打撃音が響いていた。


あやめの容赦ない稽古に、幸人は何度も地面を転がり、全身泥だらけになりながらも食い下がっていた。


「腰が引けているわよ、幸人! そんな生ぬるい踏み込みじゃ、このみの薬指ひとつ守れやしないわ!」


「くっ……まだまだぁ!!」


血を吐くような努力を重ねる親友の姿。智也はフェンスに寄りかかりながら、頼もしくなったその背中を見守っていた。


けれど、そんな新しい日常の平穏を切り裂くように、智也のポケットのスマートフォンが、突如としてけたたましい警告音を鳴らし始めた。


(ピピピピピピ――ッ!!!)


画面には、最高機密とされる警戒システムからの真っ赤なアラートが点滅していた。


「緊急事態です、智也さま……っ!」


図書室から息を切らせて駆け込んできた結の手にあった端末にも、同様のノイズ混じりのログが表示されていた。


「神代の本家より、あやめ様の強制送還、ならびに智也さまの回収を目的とした、とんでもない部隊が市街地へ展開されましたわ。指揮官の名は……神代レン」


「レン……!? あいつ、消え去ったはずじゃ……!」


智也が息を呑んだ瞬間、吹き抜けていた冬の冷たい風がピタリと止んだ。


肌を刺すような凍てつく空気とともに、校門の方角から、ハラハラと季節外れの桜の花びらが不気味に舞い散り始める。


「……来たわね。神代の最新兵器が」


あやめが木刀を構え、校門の奥を鋭く睨みつける。


霧の向こうから悠然と歩みを進めてきたのは、一人の少年だった。年の頃は智也たちと同じ。だが、その瞳には感情が一切なく、耳元には奇妙な通信デバイスが淡く光っている。


彼の背後には、神代が極秘開発した強化外骨格を装着した、ロボットのような兵士たちがズラリと控えていた。


「――ターゲット、確認。神代あやめ、および結城智也」


少年の声は、完全に機械化されたように無機質だった。


「これより、回収を開始する。……私は、神代レン・モデル02」


「……モデル02って、まさか……あいつをクローン化したっていうの!?」


あやめの顔から、一瞬で血の気が引いていく。


四百年前の怨念の魂を、現代の最先端科学で量産し、制御する――。神代の、えげつない狂気が形となった瞬間だった。


「目標の戦闘能力を排除する」


レン・モデル02の冷徹な号令とともに、強化外骨格兵器が一斉に旧校舎裏へと襲いかかってきた。


みくるが物干し竿を槍のように構えて前線へ跳躍し、あやめの白銀の刀が電撃のコンビネーションで火花を散らす。だが、科学的に呪力を相殺する敵の装甲と、圧倒的な重火力の前に、防衛線はジリジリと削られていった。


「お前らの相手は、俺だぁ!!」


あやめの特訓を耐え抜いた幸人が、ボロボロの竹刀を握りしめて前に出るが、強化兵の容赦ない暴力の前に、竹刀は一瞬で粉砕されてしまう。


「そこまでよ。……計算通りね。神代の最新兵器と言っても、その挙動には明確なパターンがあるわ」


その時、タブレットを静かに閉じたこのみが、時任を従えて銃口の前に立ち塞がった。いつもは一歩引いて智也の背中を見守っていた彼女の瞳に、かつてない冷徹な光が宿る。


「坂下グループを、ただのIT企業だと思っているの? ――私たちの本当の力は、未来予測演算にあるのよ」


このみがハンドヘルドPCに超高速のタイピングを開始すると、彼女の周囲に、未来を切り拓く青い論理の光が渦巻いた。


坂下が誇る世界最高峰の量子コンピュータを直結させた、オラクル・システム。


「智也くんと私は、たった1日違いで生まれた。その 1日の差が、私に何を教えたと思う? それはね、智也くんが次に何を望むか、誰よりも早く察知して動くことよ!」


このみの周囲の空気が、膨大な計算の余熱で熱を帯びる。


「敵の攻撃ベクトル、全1024通りを解析完了。……みくるちゃん、右へ30センチ。あやめちゃん、上空45度へ。……智也くんは、そのまま真っ直ぐ!」


正確無比なナビゲーション。


このみの言葉通りに動いた瞬間、智也たちの攻撃は、まるでパズルがはまるように敵の急所を次々と捉えた。神代の最新科学システムを逆ハッキングし、バイザーを強制シャットダウンに追い込んでいく。


「……ありえない。計算限界を超えた予測など……」


レン・モデル02が、初めて困惑の声を漏らした。


「……甘いわね。私たちの17年間は、あんたたちのプログラムなんかより、ずっと密度が濃いの。智也くん! 1日早く生まれた私から、弟分へのプレゼントよ。――さあ、トドメを!」


「……ああ! 行くぞ、みんな!」


このみの計算、みくるの直感、あやめの剣、結の財力、紗季の祈り。


五人の絆が黄金の光となって完全にシンクロし、レンのクローン部隊を圧倒的な光の中に包み込んで粉砕した。


「……データ更新。目標の戦闘能力、予測値を大幅に超過」


レン・モデル02は無機質に告げ、量産化された別のクローンたちの影を霧の向こうに潜めながら、一時撤退していった。


◇◆◇


戦いの後。夕焼けに染まる校舎の影で、このみは少し疲れたように智也の肩に体を預けた。


「……あーあ。秘密の力、見せちゃった。これでもう、ただの幼馴染には戻れないかしら?」


「何言ってるんだよ、このみさん。……このみさんは、俺の最高のパートナーだよ」


智也がそう言うと、このみは悪戯っぽく笑い、智也の鼻を指先で突いた。


「……知ってるわよ。だって、そう答えるってことも、もう計算済みだもの」


しかし、その平和な時間の裏で、逃げ延びたレン・モデル02の残骸を回収する影があった。


「……坂下の予測システムか。面白い。……次は、もっと人間らしい絶望を用意してやろう」


第四勢力の本当の支配者が、ついに現世の裏側で動き出そうとしていた。


(第17話「四百年前の、はなふぶき。語られなかった真実。」おわり / 第18話へ続く)

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