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第14話「フードの少女と、怨霊の咆哮。」

挿絵(By みてみん)


学校は、もはや知っている学び舎ではなかった。


校舎の窓からは黒い泥のような怨念が津波となって溢れ出し、空は禍々しい紫色の雲に完全に覆い尽くされている。


「くっ……ああっ!」


智也は泥のぬかるみの中に膝をついた。


幸人の体を乗っ取った古の怨念『レン』が放つ重圧は、これまでの怨霊とは次元が違っていた。浴びせられる絶対的な悪意の前に、智也の魂の奥底に眠る「ゆき」の記憶が、恐怖で激しく震えている。


「……智也! しっかりして!」


あやめが叫び、白銀の刀を激しく振るって迫りくる黒い手を切り払う。だが、そのあやめの体すらも、無数の影に足元から絡め取られようとしていた。


「無駄だ。神代の出来損ないよ。……お前が四百年守り続けたその『光』は、今度こそ私が喰らう」


幸人の姿をしたレンが、感情の消えた紫色の瞳でゆっくりと手をかざす。その指先から放たれた闇の衝撃波が、校庭を爆裂させ、智也を支えてきた四人を容赦なく吹き飛ばした。


「みくる! このみさん! 結さん! 紗季!」


智也の悲痛な叫びも虚しく、ヒロインたちは紫色の闇の結界に個別に閉じ込められ、身動きを完全に封じられる。このみのタブレットも、結が展開したドローン群も、その圧倒的なバグの前に機能を強制シャットダウンされていた。


「……さあ、ゆき。私の中に戻ってこい。お前の清らかな魂を混ぜ合わせれば、私は神をも超える存在になれる」


逃げ場はない。絶体絶命。


智也の視界がレンの放つ闇に呑み込まれ、すべてが灰色に塗り替えられようとした、その瞬間だった。


『――いいえ。あなたは、何も奪えない』


智也の耳元で、はっきりと女の自分の声がした。


同時に、智也の胸元から、それまでのすべての闇を拒絶するような、眩いばかりの純白の光が爆発した。


「なっ……何だ、この光は!? ゆきの力はまだ封印されているはずだ!」


レンが初めて声を荒らげて後ずさる。


光の中から現れたのは、智也でもあやめでもない。それは、智也の意識の中にだけ存在する、四百年前の巫女姿をした『ゆきの思念体』だった。


彼女は現実世界に淡い輪郭を結び、智也の背中を後ろから優しく抱きしめると、その耳元で愛おしそうに囁いた。


『朔があなたを未来へ逃がしたのは、奪われるためじゃない。……今度こそ、幸せになるためよ。……さあ、智也。私たちの「今」を、奪わせないで』


「……ああ、わかってる。……わかってるよ、ゆき!」


智也の瞳に、宿命をねじ伏せる強い光が宿る。


彼はぬかるみから力強く立ち上がり、あやめの落とした刀を両手で掴むと、現世を生きる結城智也としての全霊の力を込めて叫んだ。それは、400年の時を超えた、反撃の咆哮。


「幸人を返せ……! 俺たちの日常を、壊させない!」


智也の刃から放たれた黄金の光が、螺旋のうねりとなってレンの闇を真っ向から切り裂いた。


凄まじい光の衝撃波とともに、学校を覆っていた不気味な霧が一気に晴れていく。レンの怨念の意識は悲鳴を上げて幸人の体から力づくで弾き出され、不気味な黒い影となって、遥か上空へと逃げ去っていった。


「……あ……う……。智也……?」


意識を取り戻した幸人が、どさりと地面に倒れ込む。


◇◆◇


夕暮れ。


激戦の爪痕が残るボロボロになった校庭で、智也たちは沈みゆく夕日を見つめていた。


結界から解放されたみくるたちが一斉に駆け寄り、智也の体に飛びついた。


「よかった……。本当によかった……!」


涙を流して智也の服を濡らすみくる。このみも、結も、紗季も、その表情には言葉にはならない安堵が広がっていた。傷だらけの幸人も、このみの無事を確認して小さく笑っている。


けれど、あやめだけは刀を消し、冷たくなり始めた冬の気配を孕む遠くの空を見つめていた。


「……終わったのね。……でも智也、レンはまだ消えていない。あいつはもっと深い闇……『第四勢力』の本体へと戻っただけよ」


智也は、自分の大きな手を見つめた。


そこにはまだ、かすかに自分を後ろから抱きしめてくれた『ゆき』の純白の温もりが残っている。


「……戦いは、これからなんだな」


「ええ。でも、もうあなた一人じゃない」


あやめが智也の隣に寄り添い、その手をぎゅっと握りしめて微笑んだ。


「前世の私とあなた。……そして、今世のあなたたち。……すべてを繋げて、今度こそ未来を勝ち取りましょう」


智也は晴れ渡った空を仰ぐ。


財閥のしがらみ、前世の因縁、引いては親友との絆。すべてが複雑に絡み合ったこの「いいなずけ」たちの物語。


結城智也、16歳。400年の時を超えた本当の戦いは、今、始まったばかりだ。


(第14話「フードの少女と、怨霊の咆哮。」おわり / 第15話へ続く)

メインヒロインのひとり瀬能 みくるが歌う、

「ゆめみる、ゆき、あやなす、むすび。」の前期ED主題歌(みくるVer.)です


『BLUE SIGNAL』


架空アニメ 「ゆめみる、ゆき、あやなす、むすび。」 前期ED主題歌(みくるVer.)


歌:瀬能 みくる


https://suno.com/s/fu4xlAPjDwS4BZwE

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