第11話「前世の断片。ゆきと朔、血塗られた真実。」
本庄タワーでの一件以来、結はそれまで以上に智也にべったりとなり、結城家はさらに騒がしくなっていた。
だが、当の智也の心は、晴れることがなかった。
(……あの声、何だったんだ)
耳の奥に残る、前世の自分――「ゆき」の悲鳴。その答えを知っているのは、一人しかいない。
「……話して、くれるか。あやめさん」
深夜、智也はリビングで独り、刀を磨いていたあやめに問いかけた。
あやめは磨く手を止め、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、四百年の月日が凝縮されたような、深い、深い哀しみが宿っていた。
「……覚悟はできているの? 智也。……それは、今のような幸せな物語じゃないわよ」
◇◆◇
あやめが静かに語り始めると、智也の意識は闇に溶け、四百年前の光景が鮮明なビジョンとなって脳裏に溢れ出した。
そこは、赤く染まった夕暮れの戦場だった。
男の姿をした「朔」は、血に塗れた刀を杖代わりに、倒れ伏す女性を抱きかかえていた。その女性こそが、前世の智也――「ゆき」だった。
「――朔、さま……逃げて。私はもう、いいから……」
「黙れ、ゆき! お前を置いていくなど、死んでもできるか!」
二人の周りには、無数の「影」が蠢いていた。今、智也たちを襲っている「第四勢力」の源流。神代の家系が封印に失敗し、解き放たれてしまった災厄の群れだ。
ゆきは、神代の巫女として、その身に災厄を封じ込めるための「器」になろうとしていた。だが、それは魂の崩壊を意味する。愛するゆきを救うため、朔は禁忌の術を使った。
「ゆきの絶望を、すべて俺が引き受ける。――その代わり、ゆき。お前の魂だけは、清らかなまま、未来へ繋げ」
それは、性別を入れ替え、運命を反転させる転線の呪術。
朔は自ら「闇」を喰らい、化け物へと成り果てながら、ゆきの魂を四百年後の未来へと逃がしたのだ。
◇◆◇
「……あ」
智也は、頬を伝う熱いものに気づいた。
気づけば、あやめが智也を優しく抱きしめていた。
「朔さまは……あやめさんは、俺を救うために、あんな恐ろしい思いを……」
「いいのよ、智也。……いえ、私の大切な、ゆき」
あやめは智也の髪を撫でながら、切なく笑った。
「私はね、あなたが男の子として、笑って生きていてくれるだけで、もう十分報われているの。……でも、第四勢力は、まだあなたの魂に残っている『神代の力』を狙っている」
その時。ガシャーン! と窓ガラスが激しく砕ける音が響いた。
「……話はそこまでだ。神代の裏切り者、そして、かつての『器』よ」
庭に立っていたのは、数人の黒装束の男たち。そして、その中心には、闇に呑まれたはずの幸人――ではなく、さらに強大な闇を纏った「神代の本家」の過激派の刺客が立っていた。
「智也! 下がって!」
あやめが刀を抜く。だが、階段からはパジャマ姿のみくる、このみ、紗季、そして結も駆け下りてきた。
「なによ夜中に! 智也に指一本触れさせないわよ!」
「本庄の私設兵を呼びましたわ! 五分でここを包囲させます!」
ヒロインたちが智也を守るように盾となる。
前世の悲劇を繰り返させまいとするあやめと、現世の絆で智也を守ろうとする四人。400年前の結末は「別離」だった。だが、今世の智也は、もう守られるだけの「ゆき」ではない。
「……あやめさん。もう、一人で背負わせない」
智也は、あやめの手を取り、共に刀の柄を握った。その瞬間、智也の体から黄金色の光が溢れ出す。前世と現世が、今、一つに溶け合う。
(第11話「前世の断片。ゆきと朔、血塗られた真実。」おわり / 第12話へ続く)
メインヒロインのひとり神代 あやめが歌う、
「ゆめみる、ゆき、あやなす、むすび。」の挿入歌です
『BLADE OF FOUR HUNDRED』
架空アニメ 「ゆめみる、ゆき、あやなす、むすび。」 挿入歌
歌:神代 あやめ
https://suno.com/s/6scjYCUDnNGq6DU7




