第10話「突入!本庄タワー。智也、直談判に挑む!」
都心の夜景を見下ろす、地上二百メートルの要塞。
本庄グループの本拠地「本庄タワー」の最上階。そこは経済の心臓部であり、結にとっては逃げ場のない籠だった。
「智也さま、本当によろしいのですか……? ここから先は、わたくしの独断ではどうにもなりませんわ」
シースルーエレベーターが急上昇する中、結が不安げに智也の袖を引いた。
「大丈夫だ、結さん。……言っただろ、泣いてる君を放っておけないって」
智也の背後には、頼もしい仲間たちが揃っていた。
「ちょっと智也、背筋伸ばしなさいよ! 結城家の男が本庄ごときに気圧されてどうすんの!」
お玉の代わりに拳を握りしめ、気合を注入するみくる。
「……智也くん、交渉が決裂したら合図してね。坂下グループの全資産を投じて、本庄のサーバーをパンクさせるから」
タブレットを片手に、恐ろしい笑顔を浮かべるこのみ。
「……お兄ちゃん。……後ろには、私がいます」
智也の背中にそっと手を添え、結城家に伝わる護身の気配を纏う紗季。
「ゆき、安心して。邪魔な警備員は、すべて峰打ちで眠らせておいたわ」
何事もなかったかのように刀を鞘に収めるあやめ。
そんな布陣に支えられ、智也はついに、重厚な観音開きの総帥室のドアを押し開けた。
◇◆◇
「――ほう、逃げずに来たか。結城の小僧」
巨大なマホガニーのデスクの後ろで、一人の男がパイプを燻らせていた。本庄グループ総帥、本庄鉄斎。結の父親であり、冷徹なリアリストとして知られる怪物だ。
「結を嫁に欲しければ、その契約書にサインしろ。それが結城家を救う唯一の道だ。愛だの絆だのという子供の理屈は、我が社には通用せん」
鉄斎の放つ圧倒的な重圧に、智也の足が震えそうになる。だが、隣で俯く結の、指に絆創膏をたくさん貼った震える手を見た瞬間、智也の胸の奥で、前世から受け継いだ「ゆき」の負けん気が火を噴いた。
「……断ります。本庄さん」
「何だと?」
「結さんは、会社の道具じゃない。俺の……俺たちの、大切な友達で、そして、一人の女の子だ! 契約で縛り付けるようなやり方じゃ、俺はあんたに、結さんを幸せにする権利なんて譲らない!」
智也の叫びが、広大なオフィスに響き渡る。結が顔を上げ、驚きと歓喜に満ちた目で智也を見つめた。
「……生意気な。実績も力もない小僧が、何を根拠に吠える」
「根拠なら、あります! 本庄グループが今、喉から手が出るほど欲しがっている『神代の秘術』……その継承者は、俺のいいなずけです!」
智也の合図とともに、あやめが一歩前に出た。その瞳には、神代の巫女としての神々しい光が宿っている。
「……私は神代を捨てたけれど、ゆきのためなら、その力を振るうことに躊躇はないわ。本庄鉄斎、あなたに私の主を支配する資格はない」
◇◆◇
数分間の重苦しい沈黙。
やがて、鉄斎は鼻で笑い、パイプを置いた。
「……フン、面白い。まさか神代の『神童』を飼い慣らしているとはな。……いいだろう、今回の合併話は白紙に戻してやる。だが、智也。結を泣かせたら、次こそは結城家ごと叩き潰すと思え」
「……っ、ありがとうございます!」
タワーを後にする、智也たち。
帰り道の車内、結は智也の肩に頭を預け、小さく呟いた。
「……智也さま。今日は、わたくしの人生で一番、誇らしい日でしたわ」
「よ、よせよ。俺、必死だったんだから」
結はぷうっと頬を膨らませ、智也の耳元で囁いた。
「……わたくしも、あやめさんに負けませんわよ? 前世がどうあれ、今世のあなたを一番に愛するのは、この本庄結ですわ」
一件落着。……かと思われたその時、智也の脳裏に鋭い痛みが走った。
『――ゆき、逃げて……! 朔が、朔が狂ってしまう……!』
聞こえてきたのは、前世の自分の、絶望に満ちた悲鳴。
夜の闇が、蠢き始める。第四勢力の魔の手は、ついに智也自身の記憶の中へと入り込もうとしていた。
(第10話「突入!本庄タワー。智也、直談判に挑む!」おわり / 第11話へ続く)
メインヒロインのひとり本庄 結が歌う、
「ゆめみる、ゆき、あやなす、むすび。」の挿入歌です
『MARKET MATRIX』
架空アニメ 「ゆめみる、ゆき、あやなす、むすび。」 挿入歌
歌:本庄 結
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