ep50 失踪の連鎖
軍の詰め所に戻ると、コスチが人を呼ぶ。
「おーい、誰か来てくれ、一人でいい」
その呼び声に反応し、若い男がやってくる。
「お呼びでしょうか?」
「このねk、魔獣君を食堂へ案内して何か食べさせてやってくれ」
「そういえば名前を聞いてなかったな、君たちの名前は何と言うんだ?」
「自己紹介よりも先にご飯だ、こっちは長旅で腹ペコなんだぞ」
「すまないすまない、そういえばそうだったな、エメラ君も先に飯にするかね?」
「いや、先にお話を伺いましょう、すみませんがダンテのご食事だけお願いします」
「わかった。おい、そういうことだ、ダンテ君に食事の準備を」
「はっ、かしこまりました」
そういうと若い男の誘導でダンテは食堂へと消えていく。
さすが交易の街と言うべきか、その街の軍の所属だからというべきか、ダンテがしゃべっていることにそこまで兵士たちは動揺しているものはいなかった。
エメラはコスチの案内で指令室に通される。
「そちらにかけてくれ」
促されて体面に用意された椅子に腰かけた。
「話というのはな、実はこの街で最近行方不明者が多発しているんだ」
コスチの表情は、先ほど詰め所で見せていたものとは違っていた。 冗談を口にするような軽さはない。
「行方不明者?」
「ああ。最初は単なる家出や夜逃げだと思われてた。カルタくらい人の出入りが多い街じゃ、珍しい話でもないからな」
コスチが行き交う人々へ目を向ける。商人が声を張り上げ、荷車が通り過ぎ、その脇を子供たちが走っていく。
今の街並みだけを見れば、そんな事件が起きているとは思えない。
「だが、数が増えすぎた。それも妙なことに、ほとんど痕跡が残ってない」
「痕跡が?つまり何か組織的な犯行なんですか?」
「まだ尻尾を何もつかめてはいない、荷物を残したまま消えた奴もいる。翌日の仕事を約束してた奴もいる。家族に何も言わず突然いなくなった奴もな」
「それだと……自分から街を出たとは考えにくいですね」
「俺たちもそう考えてる」
コスチは頷いた。
「当然、軍でも調べてる。だがカルタは広いし、街の外まで含めりゃ調べる場所はいくらでもある。それで冒険者ギルドにも協力してもらって、何人かに捜索を依頼したんだ」
「何か手がかりは見つかったんですか?」
「それがな……」
コスチが一度言葉を切った。
「依頼を受けた冒険者まで消えた」
「……」
エメラの表情が変わる。
「捜索に協力した人たちが?」
「ああ。全員じゃない。ただ、何人かが戻ってこなかった」
「それは……」
「おかげでギルドも及び腰になっちまった」
無理もない、とコスチは付け加えた。
「人を探しに行って、自分まで行方不明になるんじゃな。報酬を上げたところで、受けたがる奴はそう多くない」
「軍の人員を増やすことはできないんですか?」
「やってはいる。ただ、街の警備もあるし、周辺の魔獣への対応もある。行方不明者だけに全部回すわけにもいかないんだ」
ましてや、とコスチは続けた。
「どこへ行ったか分からない人間を探すってのは、とにかく人手を食う」
エメラは黙って話を聞いていた。
「じゃあもう冒険者ギルドは手を引いたんですね?」
「いや、1人だけその状況を知っても協力するものがいる」
「1人?」
「ああ。変わった奴だよ。こんな状況になっても依頼を降りようとしない。今も1人で調べてるはずだ」
「腕は?」
「悪くないらしい。少なくともギルドは止めてない」
コスチはそう答えたが、それ以上その冒険者について話すつもりはないらしい。
「だが、さすがに1人じゃ限界がある」
そこでコスチがエメラを見る。
「それで、さっきの話を思い出した」
「さっき?」
「ロッドだよ」
エメラは首を傾げた。
「ロッドさんが?」
「あいつが冒険者をあそこまで褒めるなんて、そうそうない」
コスチは腕を組む。
「未知の魔獣との戦いもそうだが、ヴェルディアでの事件の解決の詳細も書いてあった。君は凄い魔術師だそうじゃないか」
「あのロッドがそこまで絶賛する奴なら、腕は間違いないだろうと思ってな」
「ずいぶん信用されてるんですね、ロッドさん」
「腐れ縁が長いだけだ。だが、あいつはお世辞は言わん。そのあいつがあそこまで絶賛する者だ、それだけで信頼するに値する」
即答だった。
なんて書いてあったんだろう、気になるな、とエメラは思う。
「褒めると調子に乗るから本人には言うなよ」
「覚えておきます」
「それで――」
コスチの表情が再び真剣なものへ戻る。
「予定があるのは分かってる。アストリアにも向かうんだろ?」
「はい。ただ、すぐ出発するつもりではありません」
「なら、少しだけでもいい」
コスチはエメラをまっすぐ見る。
「この件の調査を引き受けてくれないか?もちろん命に危険が生じそうならすぐに打ち切ってもらってかまわない」
エメラはすぐには答えをだせなかった。
行方不明者が多発しており、その行方を追った冒険者まで姿を消している。
ただの失踪ではない可能性が高い。
「もちろん正式に依頼として出す。報酬も払う。無理にとは言わない」
「……」
「ただ、今は本当に人が足りないんだ」
「分かりました、可能な範囲で捜索の手伝いをさせていただきます」
「本当か?」
「はい。ただ、まずは詳しい話を聞かせてください。いつ頃から増え始めたのか、いなくなった人たちに共通点がないか、それと――」
エメラは一度言葉を切る。
「消えた冒険者たちが、最後にどこを調べていたのか」
コスチの目が僅かに見開かれた。
そして、すぐに笑みを浮かべる。
「なるほどな」
「何です?」
「いや」
コスチは首を振った。
「ロッドが気に入るわけだと思っただけだ」
「契約は後ほど行おう、どうだ、君も飯食ってくか?」
「いいですね、いただきます」
そうして先にダンテがいる食堂に通され、エメラも食事をすることにした、食堂ではダンテがすごい勢いで食べ進めてる。
「エメラ、話終わったか?」
口いっぱいに頬張りながらエメラを見る。
「ああ、仕事の依頼だ、ご飯食べたら話すよ」
「アストリアは急がなくてよかったのか?賢者とやらに会うんだろう?」
「そっちも早く会いたいけど……こっちもどうやら緊急事態のようだ」
「緊急事態?人がいなくなったりでもしてるのか?」
「……たまにお前鋭いときあるよな、その通りだ、詳しくは宿で話すよ」
「そういえば宿もまだ決めてなかったからな、食べ終わったら宿探すぞ」
「ちゃんと俺が食べ終わるまで待ってくれよ、ダンテ」
詰め所を出ると辺りはもう薄暗かった。二人は急いで宿を探し、そこに泊まることにした。
「久しぶりにフカフカのベットで寝れるな、ダンテ、明日も早めに起きるよ」
「ああ、分かった」
ダンテはすでにベットで寝る体制に入っており、返事もそぞろだ。
「最近マナを使えば使うほど、力が戻ってきている気がするんだ、このままだったらお前の封印も……」
話をしようとダンテに目を向けると、もう丸くなっている。
「ZZZ」
もうすでにダンテは眠ったようだ、ダンテも旅で疲れていたのだろう。少し話をしたかったエメラだったが、諦めて早めに就寝することにする。
「……おやすみ、ダンテ」
明日からはカルタで失踪事件の調査だ、犯人は複数なのか。
軍と冒険者たちが調べても尻尾をつかませないということはかなり厄介な事件になりそうだな、ということを考えながら眠りについた。




