第9話:崩れる虚構
審問室の空気が、重く沈んだ。
証人たちの証言が次々と崩れ、静寂が落ちる。
重臣が厳しい声で告げた。
「証人三名の証言は、いずれも事実と矛盾している。虚偽の証言を行った理由を述べよ」
ミーナは震える声で、泣きながら答えた。
「わ、わたしはっ……リリアナ様にお願いされたから、仕方なくっ! どうしても、断れなかったんです! 断ったら、仕事を辞めさせるって言われてっ……」
ラドックは額の汗を拭いながら、視線を逸らす。
「あの……ダロウ男爵に……協力してくれれば恩に着る、と……そ、その……」
カミラ嬢は唇を噛みしめ、涙をこぼし俯いた。
「リリアナ様に、友達でしょって言われて……。友達だから助けてって言われて、断ったら友達じゃない、皆でわたしを、仲間外れにするって言われてっ……」
審問室がざわめく。
リリアナ嬢は蒼白になり、自分はそんなことを言っていないと叫び、瞳を潤ませた。
ダロウ男爵は険しい表情で拳を握りしめ、自分も娘と同じように反論する。
「リリアナ・ダロウ嬢」
重臣の声が響く。
「そなたは、これらの証言を事実として訴えた。しかし、エレノア嬢の記録と照合した結果、そなたの主張は根本から揺らいでいる。これについて、説明を求める」
リリアナは震える唇を開いた。
「い、今そいつらが言ったことは、全部嘘よ! あたしが言ったことが本当なの! そいつらが嘘つきなのよ! きっと、公爵家に買収されたのよ!」
「リリアナ嬢! そなたが今答えるべきことは、そんなことではない。事実を述べよ」
「だ、だからぁ! あ、あたしは悪くないわ! そうだ! アレクシス殿下をここに呼んでよ! アレクシス殿下なら、あたしのことを信じてくれるから!」
「リリアナ嬢!」
重臣の声が鋭くなる。
だけどリリアナ嬢は、自分は悪くないのだ、アレクシス殿下を呼んでほしいと繰り返した。
「アレクシス殿下は……『エレノアはつまらない女だ、何を考えているかわからない、気持ち悪い奴だ』って、ずっと言っていた……。アレクシス殿下なら、あたしのことを信じてくれるわ! だから早く、アレクシス殿下を呼んでよ!」
リリアナ嬢の口から、アレクシス殿下が言ったという言葉が出た瞬間、審問室の空気が凍りついた。
ウイリアム殿下がゆっくりと立ち上がる。
「兄上が……そんなことを?」
「そ、そうよ! だからアレクシス殿下を呼んで!」
「兄上が、『エレノア様はつまらない女で、何を考えているかわからない、気持ち悪い奴だ』と……本当に、そう言ったのですね?」
ウイリアム殿下の瞳が、鋭く光る。
リリアナ嬢はウイリアム殿下を見ると、「そうよ!」と、大声で言った。
今のリリアナ嬢は、おそらく誰の目にも、焦って暴走しているように見えているはずだ。
「お、おいっ! リリアナ!」
暴走するリリアナ嬢を止めようと思ったのだろう、ダロウ男爵が立ち上がりかけるが、重臣が手で制した。
そして、侍従へと目を向けると、命令を下す。
「アレクシス殿下を呼べ」
「は、はいっ!」
重臣の命令に、侍従が慌ただしく部屋を出ていく。
審問室の空気が張りつめる。
わたくしは震えながら手帳を抱きしめ、そっと息をついた。
抱きしめた手帳は微かに温かく、少しだけ安心することができた。
わたくしの真実は、証明された。
ここから先に明かされる真実は、誰の、どんな真実なのだろう?
わたくしは、それを知るのが少し怖いと思った。
扉が勢いよく開き、別室に居たアレクシス殿下が姿を現した。
「アレクシス殿下っ!」
アレクシス殿下が姿を現したと同時に、リリアナ嬢がアレクシス殿下の元へ駆け寄り、抱きついた。
アレクシス殿下はリリアナ嬢を抱き返し、優しく声をかける。
「呼ばれたから来たのだが……事情聴取はもう終わったのか? エレノアにはどんな罰が与えられることになったのだ?」
「アレクシス殿下っ! こいつら、皆であたしに意地悪するの! こいつらみんな、やっつけてよ!」
「え? お、おい、リリアナ、一体どういうことだ?」
審問室に入った直後のアレクシス殿下の顔には、いつもの余裕があった。
けれど、自分の腕の中で泣くリリアナ嬢、そして重苦しい審問室の空気を感じ取った瞬間、その表情がわずかに揺らぐ。
「兄上……」
ウイリアム殿下が一歩前に出た。
「兄上……あなたは、今もあなたがリリアナ嬢を信じるのか……それを確認するために、こちらに来ていただきました」
アレクシス殿下の瞳が細められる。
「それはどういう意味だ、ウイリアム。リリアナは俺の愛しい恋人だ……信じるに決まっているだろう」
アレクシス殿下は、リリアナの背中を優しく撫でながら言った。
「では、今から先ほどの事情聴取の内容を説明していただきます。それを聞いてから、もう一度答えてください……。その腕に抱きしめたリリアナ嬢を、信じるのか、信じないのかを……」
「……よかろう、話せ……」
アレクシス殿下はリリアナ嬢ごしに、弟であるウイリアム殿下を睨みつけた。
ウイリアム殿下は目を逸らすことなくアレクシス殿下の視線を受け止め、重臣に説明を促した。




