第7話:揺らぐ証言
最初の証人として呼ばれたのは、学園の清掃係・ミーナだった。
わたくしたちより少し年上に見える小柄な女性で、彼女の手は緊張のあまり震えている。
「ミーナ。四月十二日の件について述べよ」
重臣の声に、ミーナはびくりと肩を揺らし、ぎこちなく口を開いた。
「は、はい……。あ、あの日、わたしは南棟の階段を掃除しておりまして……そ、そのとき、リリアナ様が階段の下で泣いておられました。う、上の段には……エレノア様が……」
わたくしは静かに息を吸う。
その日、わたくしは図書室にいた。
手帳にも、はっきりと記録してある。
「エレノア様がリリアナ嬢を押したところを、見たのか」
重臣が問うと、ミーナは目を泳がせた。
「そ、それは……見ては……いません……。でも、リリアナ様が『押された』って……」
ウイリアム殿下の眉がわずかに動いた。
兄も、父も、母も、静かにその証言を聞いている。
「次。商人ラドック」
呼ばれた男は、落ち着かない様子で前に出た。
ダロウ男爵がちらりと鋭い視線を送ると、ラドックは喉を鳴らして証言を始めた。
「ご、五月三日のことです……。わたしは学園に品を届けに行っておりまして……中庭で、ですね、リリアナ様が濡れて泣いておられました。近くにエレノア様がいらしたので……その……」
「エレノア様がリリアナ嬢に水をかけるところを見たのか」
ウイリアム殿下が静かに問いかけた。
その声は柔らかいが、逃げ場を与えない。
「い、いえ……見ては、おりません……。ですが、リリアナ様が……」
ウイリアム殿下は目を伏せ、短く息をついた。
その仕草は、明らかな“失望”だった。
「最後。カミラ」
同級生の少女が前に出る。
リリアナ嬢と同じクラスの、控えめな印象の子だ。
「ろ、六月二十日、あの、……東廊下で……エレノア様がリリアナ様に『身の程をわきまえなさい』と……」
「その言葉を、そなたは確かに聞いたのだな」
重臣の問いに、カミラは一瞬だけ視線を揺らした。
「……はい……聞きました……」
その一瞬の揺れを、ウイリアム殿下は見逃さなかった。
殿下の瞳が鋭く細められる。
「六月二十日……東廊下……」
ウイリアム殿下は小さく呟き、わたくしの方へ視線を向ける。
「エレノア様。その日、あなたはどこにいましたか?」
わたくしは膝の上の手帳をそっと握りしめる。
「……王宮図書館におりました。その日の記録も、ここにあります」
殿下は静かに頷いた。
「やはり、そうでしたか」
その声には、確信が宿っていた。
重臣がわたくしを見つめる。
「エレノア嬢。そなたの記録を提出する意思はあるか」
わたくしは深く息を吸い、ゆっくりと立ち上がった。
「はい。わたくしの無実を証明するためなら、何でもいたします」
手帳を胸に抱きしめ、わたくしは前へと歩み出た。
毎日書き続けたこの手帳が、きっと真実を照らし、真実を明らかにしてくれるはずと信じて――。




