第6話:リリアナの証言
立ち上がり、事情聴取を始めると宣言した重臣が席に座ると、審問室の空気がさらに冷たく張りつめた。
「まずは、被害を訴えているリリアナ・ダロウ嬢。そなたの見聞を述べよ」
促され、リリアナ嬢は小さく肩を震わせながら立ち上がった。
その仕草は、まるで『弱き被害者』を演じているかのように見える。
「……はい……」
震える声。
リリアナ嬢はしばらく俯いたまま、両手を胸の前でぎゅっと握りしめていたけれど、思い切ったように顔を上げ、発言をした。
「あたし、ずっとエレノア様に、意地悪されていたんです……。だけどあたしは男爵家の娘で、元は平民だから、エレノア様には逆らえないって思って、ずっと耐えていたんですっ」
リリアナ嬢は、なんて嘘をつくのだろう。
わたくしは彼女に意地悪をしたことなど、一度もないというのに。
「では、その意地悪とやらを、具体的に述べよ」
重臣の声に、リリアナは涙を滲ませながら続けた。
「えっとぉ、四月十二日にぃ……南棟の階段でぇ、あたし、後ろから誰かに押されたんです。それから階段から落ちちゃって……振り返ったら、そこにエレノア様がいたんですぅ」
わたくしは息をのむ。
その日は――図書室にいた。
日記代わりにもしているこの手帳にも、それはしっかりと記録されてある。
「それから五月三日は、中庭で水をかけられたんです。あたし、やめてって何度も言ったのに、エレノア様は笑いながら、あたしに何回も水をかけたんですぅ……」
中庭で水をかけた?
そんなこと、していない。
その日は乗馬訓練で、わたくしは中庭にすら行っていない。
「六月二十日はぁ、東廊下であたしに、『あなたみたいなのがアレクシス殿下のそばにいるなんて、ありえない!』って、悪魔みたいに怒ったエレノア様に言われたんです……」
「なんだそれ、ありえないだろ……」
ぼそりと隣に座った兄が呟いた。
実際、リリアナ嬢の証言は全て嘘だし、ありえない話だ。
六月二十日は、わたくしは王宮図書館にいた。
出入り記録にもそれが残っているはずだというのに、どうして彼女はこんなにも簡単に証明できるような嘘を言うのだろう?
リリアナ嬢は瞳に涙を浮かべながら、震える声で締めくくった。
「あたし、エレノア様がすごく怖かったんです……。怖くて怖くて、でも、思い切ってアレクシス殿下に相談したら、エレノア様からあたしのことを守ってくれるって言って……あたしのことを、愛してるって言ってくれたんですっ」
アレクシス殿下――その名が出た瞬間、審問室の空気がわずかに揺れた。
アレクシス殿下は今この場に居ない。
ウイリアム殿下が静かに眉を寄せる。
「以上です……」
リリアナ嬢は父親であるダロウ男爵の元に戻り、男爵は労わるように娘の肩を抱いた。
まるで『元平民の、健気で守るべき弱き娘』を守る、良き父親を演じるように。
重臣が次の名を呼ぶ。
「では、証人の者たちよ。順に前へ」
「は、は、はいっ!」
清掃係のミーナ、商人ラドック、同級生のカミラ嬢が、ぎこちない足取りで前に出る。
皆、どこか怯えたように視線を泳がせていた。
わたくしの胸が強く脈打つ。
ここからが本番だ。
ウイリアム殿下が、わたくしの方へそっと視線を向けた。
その瞳は、静かに、しかし確かに告げていた。
『大丈夫ですよ、真実は必ず勝つのです』
わたくしは小さく頷き、膝の上に置いている手帳をそっと撫でた。
この手帳に書かれた真実が、きっとわたくしを守ってくれると信じて――。




