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婚約破棄された公爵令嬢ですが、身に覚えのない冤罪を晴らしたいだけです  作者: 明衣令央


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第31話:前を向く王子――成長の誓い


「ウイリアム殿下、こちらを……。クロノス様が、ウイリアム殿下にお話しがあるとのことです」


 ウイリアム殿下は、わたくしの見舞いに、毎日欠かさずクロノ家を訪れていた。

 おばあ様がそう言って、ウイリアム殿下にクロノス・ダイアリーを渡したのは、あの日から三日たった朝のことだった。


「クロノス様が、僕に話? その内容を、みなさまはご存じなのですか?」


 ウイリアム殿下の言葉に、おばあ様は首を横に振った。

 おばあ様はただ、クロノス様からウイリアム殿下にクロノス・ダイアリーを渡すように頼まれただけなのだと説明する。


「このクロノス・ダイアリーは、わたくしがエレノアにあげたものなのです。エレノアがあんな状態の今、クロノス様は、元の持ち主であるわたくしに伝言を頼まれているだけだと思います」


 クロノス・ダイアリーを受け取ったウイリアム殿下は、誰も居ない応接室へと案内され、そこでクロノス様へと呼びかけた。

 ウイリアム殿下が呼びかけると、クロノス・ダイアリーが光を放ち、クロノス様が姿を現す。


「クロノス様、エレノア様は、どうされていますか? 大丈夫なのですか?」


 わたくしを心配されるウイリアム殿下に、クロノス様は重々しく口を開いた。


『ウイリアム……お前に、エレノアより伝言を預かった……』


「エレノア様からの伝言? 何ですか? エレノア様は、なんて……」


 わたくしからの伝言、ということで、ウイリアム殿下は目を輝かせた。

 だけどその目はすぐに、絶望したようによどんでしまうことになった。


『エレノアはお前に、自分を忘れて、前を向いてほしいと言った……』


「え? それは、どういう……」


『エレノアのことを忘れろと言ったのだ。エレノアのことを嘆き、毎日クロノ家を訪れることをせず、もっと有効に時間を使えと……それが、エレノアからの伝言だ……』


「え?」


 クロノス様を見つめたまま、ウイリアム殿下は呆然と立ち尽くす。


「なんで、そんなことをっ」


 思いがけない伝言に、ウイリアム殿下は涙を流した。


『エレノアは、諦めずに戦っている。だけど目覚めるまで、どれほど時間がかかるかわからない』


 クロノス様が淡々とわたくしの状況を説明する。


「エレノア様が諦めずに戦っているのなら、僕は待ちます! 例えどんなに時間がかかったとしてもっ……」


『だが……どれほどエレノアが必死になっても、クロノ家の者たちがエレノアの治療を続けたとしても……エレノアが目を覚ます可能性は、奇跡に近いものなのだ……』


 だからこその、先程のエレノアの伝言。

 ウイリアム殿下は、理解はできても納得はできなかった。

 怒りと、悲しみと、それから絶望で胸が苦しい。


「忘れろだなんて……そんなの、ひどい……! できるはず、ないじゃないかっ」


 自分を見上げて泣き叫ぶウイリアム殿下を、クロノス様は黙って見つめていたが、やがて姿を消した。

 まるで、もう役目は終えたとでもいうかのように。


「エレノア様っ……」


 クロノス・ダイアリーを抱きしめたまま、その場にうずくまり、ウイリアム殿下はしばらくの間泣いていたが、やがて涙を拭き立ち上がる。


「エレノア様……ひどくて、優しくて、愛おしいひと……。僕が、あなたを忘れられるはずがないでしょう……。でも……」


 ウイリアム殿下は大きく深呼吸すると、クロノス・ダイアリーを見つめ、続けた。


「でも、僕はあなたがいない間も、前を向くことを誓いましょう……。あなたがそれを、望むなら……」


 ウイリアム殿下はそう呟くように言うと、クロノス・ダイアリーをおばあ様に返し、クロノ家を後にした。




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