第24話:影の囁き――動き出す陰謀
ウイリアム殿下との婚約が正式に決まり、わたくしの胸には静かな温かさが満ちていた。
けれどその裏で、誰にも知られぬところで――暗い影が動き始めていた。
アレクシス殿下は、わたくしとウイリアム殿下が想いを通わせた日、王宮を飛び出していた。
飛び出したとはいえ、行くところがないアレクシス殿下は、王都をさまよい歩き、暗い路地で震えて泣いていた。
「殿下……大丈夫ですか?」
アレクシス殿下に近づいたのは、リリアナ嬢だった。
笑顔で自分に腕を差し伸べるリリアナ嬢が、今のアレクシス殿下には、聖女のように見えた。
「アレクシス殿下……あたしは、アレクシス殿下の味方よ! アレクシス殿下を裏切るなんて、なんてひどい奴ら!」
「裏切る?」
「そうよ、アレクシス殿下は、裏切られたのよ! エレノアも、ウイリアムも、あなたを裏切ったの!」
リリアナ嬢のその言葉を聞いて、アレクシス殿下の瞳に、暗い色が宿る。
今のリリアナ嬢の言葉は、アレクシス殿下にとって甘露のようなだった。
「……俺は……裏切られたのか……? そうか……そうだったのか……」
裏切られたことが真実であり、自分は被害者なのだと、アレクシス殿下は思い込もうとした。
「俺は、取り戻したい……。俺が失ったものを……俺が持っていたものを、全て……。王太子の座と、エレノアを……そのためには……」
「そのためには?」
アレクシス殿下は、リリアナ嬢の手を取った。
「……ウイリアムさえ、いなくなればいいのだ。兄である俺の婚約者に手を出すなんて、許されることではないのだから」
アレクシス殿下は薄暗い路地で、そう呟く。
リリアナ嬢は、いいと思うわ、とアレクシス殿下を肯定する。
「エレノアは……俺の婚約者だったのだ……。全部……全部ウイリアムが悪い……ウイリアムさえいなくなればっ……!」
ウイリアム殿下への憎しみを口にするアレクシス殿下を見つめながら、リリアナ嬢はにんまりと笑う。
堕ちた……これで、アレクシス殿下は、あたしのものだ――と。
リリアナ嬢は、学園を退学になり、アレクシス殿下に見捨てられた日のことを思い出していた。
学園を追い出され、一人みじめな気持ちで家路に向かいながら、どうしてこんなことになったのだろうと考える。
そしてリリアナ嬢が出した結論は、
「……エレノアさえ……いなければ……あたしはずっと、アレクシス殿下の隣にいられたのに……」
というものだった。
「もう、アレクシス殿下のお嫁さんになるしか、あたしの道は残っていないんだから!」
アレクシスに見捨てられ、学園は退学になり、プライドも未来も、すべてが崩れ落ちていた。
「エレノア……エレノア! 全部……あなたのせい……あなたのせいなんだからっ!」
リリアナ嬢のその呟きは、もはや理性を失っていた。
あの日、そんなリリアナ嬢を見つめる者が、二人いた。
学園を追い出されたリリアナ嬢を隠れて追ってきたのは、セドリック王子と従者であるバルトだった。
「あの娘、まだ使いますか?」
従者バルトの言葉に、セドリックは頷いた。
わたくしたちの知らぬところで、静かに、確実に、闇が動き始めていた――。




