第23話:選んだ未来――揺れる兄、祝福の声
翌朝、わたくしは静かに目を覚ました。
胸の奥に残っていたざわつきは、もうどこにもない。
代わりに、あの夢でクロノス様に背中を押された温かさが残っていた。
わたくしは、もう迷わない――。
そう心に決め、わたくしは王宮へ向かった。
「エレノア様……!」
応接室に入った瞬間、ウイリアム殿下は立ち上がった。
驚きと喜びが混ざった表情で、けれど礼儀正しく姿勢を正す。
「ウイリアム殿下。突然の訪問、お許しくださいませ。昨日のお返事を……お伝えしに参りました」
わたくしは深く息を吸い、ウイリアム殿下を真っ直ぐに見つめた。
そして殿下の前で膝をつき、彼を見上げる。
「わたくしは、ウイリアム殿下の誠実なお気持ちに、心を動かされました……。どうかわたくしに、殿下の隣で、殿下を支えるお許しをください」
その瞬間、ウイリアム殿下の瞳が大きく揺れた。
「……本当に……? 本当に、僕でいいのですか……?」
「はい。わたくしは、ウイリアム殿下のおそばにいたいのです……」
ウイリアム殿下はわたくしに手を差し出した。
わたくしは差し出された手を取り、立ち上がる。
「エレノア様、ありがとうございます。僕は……一生をかけて、あなたを守ります。あなたに相応しい男になることを誓います」
「えぇ、ウイリアム殿下」
ウイリアム殿下のその言葉は、真っ直ぐで、温かくて、わたくしの胸に沁みた。
ウイリアム殿下にわたくしの気持ちを伝えたあと、わたくしは国王陛下と王妃殿下に謁見した。
ウイリアム殿下がお二人にわたくしの気持ちを伝えると、国王陛下も王妃殿下も、とても喜んでくださった。
「エレノア嬢、ウイリアムをよろしく頼む。ウイリアムは昔から真面目すぎて、無理をしているのではないかと思うこともあった。……そなたのような者が支えてくれるなら、ウイリアムは大丈夫だろう」
「エレノア嬢。あなたの選択を、心から嬉しく思います」
王妃殿下は優しく微笑み、わたくしの手を包んだ。
「あなたなら、ウイリアムを幸せにしてくださるでしょう。あなたがわたくしの娘になることが、とても嬉しいわ」
「国王陛下、王妃殿下、ありがとうございます……」
お二人に祝福されて、わたくしは胸が熱くなるのを感じていた。
感謝の意味も込めて、わたくしたちはお二人に深く頭を下げた。
そのとき――。
「嘘、だろ……」
謁見室の扉の影から、その声が聞こえた。
振り返ると、アレクシス殿下が青ざめた顔で、わたくしたちを見つめていた。
「エレノア……お前、本当に、ウイリアムを……?」
「はい。先程、ウイリアム殿下にお返事を致しました」
わたくしは静かに頷いた。
「……俺じゃ、駄目なのか……? 俺は……そんなに……お前を傷つけたのか?」
アレクシス殿下は、わたくしを傷つけた自覚がないのだろうか。
それとも、アレクシス殿下にとって、わたくしはどれだけ傷をつけても構わない存在だったのだろうか。
なんてひどい人――。
そんなことを思ったけれど、わたくしが共に未来へと歩いていく相手は、アレクシス殿下ではないのだ。
「わたくしがこれから共に歩む相手は、ウイリアム殿下です……」
「エレノア……」
アレクシス殿下は言葉を失い、拳を震わせた。
「アレクシス」
国王陛下の低い声が響く。
「エレノア嬢の意思を尊重すると、何度も言ったはずだ。お前には配慮がなさすぎる……お前のような自分勝手な考え方をする者に、王位を継がせるのは考えものだな……」
「くそっ!」
アレクシス殿下はその場から逃げるように去っていった。
「エレノア様……今のお言葉、とても嬉しいです。これから、よろしくお願いします」
「こちらこそ……よろしくお願いいたします、ウイリアム殿下」
ウイリアム殿下は照れたように笑い、わたくしの手をそっと握った。
その温かさに、わたくしは静かに微笑む。
わたくしは、この人と未来を歩んでいく。
例えそれがどのような困難な道でも、この人となら乗り越えられるだろう――わたくしはウイリアム殿下の瞳を見つめながら、そう思った。




