第21話:揺れる選択――交錯する想い
「ウイリアム殿下……申し訳ありませんが、少し時間をいただいてもよろしいですか?」
思いがけないウイリアム殿下の告白を聞いて、わたくしはやっとのことで、そう口にした。
胸の鼓動は高鳴っている。
ウイリアム殿下の真剣な気持ちは、わたくしの胸に染み入った。
けれど、わたくしはウイリアム殿下の気持ちにすぐに答えることができなかった。
わたくしは、ウイリアム殿下よりも五歳も年上だ。
ウイリアム殿下は、まだお若い。
いずれ、ウイリアム殿下に相応しい方が現れるかもしれない。
それに、家族にも相談しなければならない。
「もちろん、構いません。今日は、僕の気持ちをあなたに伝えられただけで、僕自身も胸がいっぱいになってしまいました」
ウイリアム殿下はそう言うと、安心したように、照れたように笑った。
告白をしてくれたウイリアム殿下も、きっと緊張していたのだろう。
想いを告げた安心感と、それから照れくささからの笑み。
可愛らしい、と思ってしまったのは、不敬に当たるだろうか。
「お、お待ちください! い、今はっ……」
「うるさい! どけ! エレノア!」
焦る執事の声が聞こえた次の瞬間のことだった。
乱暴にドアが開け放たれ、アレクシス殿下が入ってきた。
そしてウイリアム殿下を見ると、アレクシス殿下はウイリアム殿下を睨みつけた。
「ウイリアム! お前、ここに来ていたのか!」
アレクシス殿下はそう言うと、わたくしへと目を向ける。
「エレノア! 俺は今日、学園でお前に謝るつもりだったのだ! もう一度俺と未来を見てくれと言うつもりだったのだ! それなのにお前がいなくて……」
どうやらアレクシス殿下は、わたくしが学園を休んだことに気づき、屋敷の方へと足を運んだらしい。
「エレノア、もしかして、ウイリアムに告白されたのか? もちろん、断ったんだよな? ウイリアムのことを、振ったんだよな?」
アレクシス殿下は、どうしてウイリアム殿下の告白のことを知っているのだろう?
わたくしは顔が熱くなるのを感じ、俯く。
わたくしの代わりに答えたのは、ウイリアム殿下だった。
「兄上、僕はエレノア様から、時間がほしいというお返事をいただきました」
「何だと? 時間がほしい? エレノア、何故、結論を伸ばす必要がある? ウイリアムはお前よりも五つも年下の子供だぞ? そんな子供の言うことを、本気にしているのか?」
強い口調でわたくしに詰め寄るアレクシス殿下。
「ウイリアムは……まだ子供だ。あいつの言葉に惑わされる必要はない。お前は、俺とやり直せばいいだけだろう?」
わたくしは息を呑む。
なんてひどいことを口にするのだろう。
アレクシス殿下の言葉は、謝罪をしようと思っていたとは思えないほど傲慢だと感じた。
わたくしはやはり、アレクシス殿下とはもう……共に歩むことはできない――。
「兄上……エレノア様を困らせるような言い方は、やめてください」
アレクシス殿下とは対照的な静かな声で、ウイリアム殿下が言った。
「困らせる? 事実を言っているだけだ。エレノアは俺とやり直せば――」
「兄上の言う事実は、いつも兄上の都合だけです」
ウイリアム殿下の静かな声には、確かな怒りが感じられた。
「エレノア様は……兄上の所有物ではありません。それに、エレノア様の気持ちを優先させると、父上はおっしゃっているのです。エレノア様がどんな答えを出そうが、僕は、エレノア様の答えを待ちたいと思います……」
アレクシス殿下の表情がわずかに歪む。
さすがに感情的になって、言い過ぎてしまったと、ご自身でも思われたのかもしれなかった。
「エレノア様……。僕は、やはり子どもに見えるのでしょうか」
ウイリアム殿下はわたくしを見つめ、言った。
その声は、少し震えているような気がした。
そんなことはありません――そう口にすることもできた。
けれど、そう口にすることがウイリアム殿下にとっての正解なのかどうかが、今のわたくしにはわからなかった。
他の言葉も、上手く探し出すことができない。
胸が苦しくて、声が出ない。
「いいのです……。確かに僕は、兄上の言うように五つも年下です。その事実は、変えようがないことなのですから」
何か言わなければならなかった。
何も言えなかったことが、ウイリアム殿下を傷つけてしまったかもしれない。
だけど、謝罪の言葉を口にしかけたわたくしを遮るように、ウイリアム殿下は言った。
「エレノア様、今日はこれで帰ります。兄上が……お騒がせして、申し訳ありませんでした。どうか、ご自身の心を大切になさってください」
ウイリアム殿下は、どこまでも優しく、真っ直ぐで、そして誠実だった。
わたくしは二人を見送りながら、近いうちに二人に自分が出した答えを伝えなければならないと感じていた。
その日の夕方、わたくしは家族に今日の出来事を話した。
ウイリアム殿下の告白と、アレクシス殿下の暴言。
そして、自分の揺れる気持ち――。
家族はわたくしの話を、黙って聞いてくれた。
「……エレノア。お前は、どうしたいのだ?」
父の問いに、わたくしはゆっくりと答えた。
「わたくしは……アレクシス殿下に寄り添うことは、もうできません……。そしてウイリアム殿下とのことは……どうしても年齢のことが、気になります」
「そうか……」
わたくしの言葉を聞いて、みんな深い息をついた。
「年齢のことさえなければ、な」
「えぇ……それさえなければ……」
家族のみんなは、年齢のことさえなければ、と繰り返した。




