第19話:兄弟の衝突――揺れる王家の決断
国王陛下との謁見を終え、わたくしとお父様が退出したあと――謁見室には、重苦しい沈黙が残っていた。
そんな中、ウイリアム殿下が口を開く。
「父上、まずやらなければならないことは、エレノア嬢の身の安全を確保することだと思います。もちろんクロノ公爵家でも対策を取られるとは思いますが……」
そう言ったウイリアム殿下に、国王陛下は頷いた。
「もちろんだ。気づかれないように、王家の影をつけよう。学園内にも……誰かを手配させるとしよう」
「僕が学園に通えていれば良かったのですが……」
ウイリアム殿下は小さく息をつく。
その様子を見たアレクシス殿下は、ウイリアム殿下を睨みつけ、言った。
「……どういうつもりだ、ウイリアム」
怒りを押し殺した声が震えている。
「どういう、とは?」
ウイリアム殿下は静かに問い返した。
その落ち着いた声音が、逆にアレクシス殿下の怒りを煽る。
「自分が学園に通えていれば、だと? 学園では俺がエレノアのそばにいれば済むことだろう! 俺がいるというのに、自分が、だと? お前……まさか、エレノアに気があるのか!」
ウイリアム殿下はアレクシス殿下の言葉に一瞬だけ目を見開いたが、すぐに目を閉じ、そして静かに言った。
「兄上。僕は……エレノア様を尊敬しています。そして……大切に想っています」
「っ……!」
アレクシス殿下の顔が怒りと動揺で歪む。
「まだ子供のくせに、何を言っているのだ! エレノアは俺の婚約者だぞ!」
「……兄上があの日、何をしたのか。その結果、エレノア様がどれほど傷ついたのか……。兄上はまだ、それを理解されていないのですか?」
ウイリアム殿下の声は静かだった。
けれど、その静けさが鋭い刃のようにアレクシス殿下の胸を刺す。
「……っ……!」
アレクシス殿下は言い返せず、拳を震わせた。
その様子を見ていた王妃殿下が、静かに口を開く。
「アレクシス……あなたは、まだとても未熟です。エレノア嬢を守る覚悟も、冷静さも足りないわ。それに、父上がエレノアとの婚約の件は、保留とされていたでしょう?」
「母上……!」
「ウイリアムはどうかしら?」
その言葉に、謁見室の空気が変わった。
国王陛下と王妃殿下の二人に見つめられ、ウイリアム殿下は驚いたように瞬きをする。
「……母上、僕は……」
「ウイリアム……あなたは王位を望んでいないのでしょう? でも、エレノア嬢を守りたい気持ちは本物のように見えます」
ウイリアム殿下は静かに頷いた。
「はい。僕は王になりたいわけではありません。ただ……エレノア様を守りたい。それだけです」
国王陛下は深く息をつき、重々しく言った。
「婚約の件は、エレノア嬢の意思が最優先だ。だが、ウイリアム。そなたの気持ちを伝える機会は与えてもよいだろう」
「ち、父上……! で、ですが、ウイリアムは俺やエレノアよりも五つも年下なのですよ!」
アレクシス殿下の声は、絶望に近かった。
けれど、国王陛下はアレクシス殿下の言葉を無視し、ウイリアム殿下を優しく見つめる。
「ウイリアム……お前に、年上のエレノア嬢に、気持ちを伝える勇気はあるかね?」
ウイリアム殿下は静かに頷くと、国王陛下の目を真っ直ぐに見返し、はい、と頷いた。




