第15話:学園での再会
わたくしが学園に戻ったのは、婚約破棄を言い渡された日から三日後だった。
久しぶりに学園へ向かうと、周囲の視線が痛いほど突き刺さった。
学園の人たちは、今回の件の結末を、どこまで知っているのだろう?
わたくし自身もアレクシス殿下との婚約破棄の件について、まだ国王陛下に返事をしていない。
せめて学園に戻る前に答えを出すべきだったと、少しだけ後悔した。
「クロノ公爵令嬢、エレノア様ですね」
昼休み、見知らぬ男子生徒に声をかけられ、わたくしは頷いた。
彼がしているネクタイを見れば、わたくしがしているリボンとは色が違っていた。
この学園では、学年ごとにネクタイとリボンの色が違っている。
彼がしているネクタイは、一学年下のものだった。
学年が違うことを考えれば、おそらく彼に会ったことはなかったと思う。
ただ、声だけはどこかで聞いたことがある……けれど、思い出せない。
「……どなたでしょうか?」
「俺は――」
男子生徒が名乗ろうとしたとき――。
「ちょっと! なんであんたがエレノア様に声をかけてるのよ!」
と、わたくしたちの前にある人物が――退学になったと聞いていたリリアナ嬢が、飛び出してきた。
「リリアナ嬢……あなた、どうして……」
リリアナ嬢は制服を着ていた。
退学になったと聞いていたのは、間違いだったの?
わたくしの視線に気づいたのか、リリアナ嬢は顔を真っ赤にして言った。
「アレクシス殿下に会いに来たのよ! 学園なら絶対に殿下に会えるから!」
「そ、そう……」
やはり退学になったというのは、間違いだったのだろうとわたくしは思った。
もしも本当に退学になっているとしたら、制服を着て堂々とこの場に居るはずがない。
「で、どうしてあんたはこの女に声をかけているのよ!」
アレクシス殿下に会いに来たと言ったリリアナ嬢は、わたくしに声をかけてきた男子生徒に向かい、言った。
リリアナ嬢とこの男子生徒は、どうやら知り合いらしい。
「やあ、リリアナ嬢。久しぶりだね。君にまた会えるとは思っていなかったよ」
男子生徒はにこやかにリリアナ嬢に声をかけた。
「どうやら君の本命は、アレクシス殿下に変わったみたいだね。せいぜい頑張りたまえ」
「なんですって!」
「だって、君はアレクシス殿下に会いに来たんだろう? 君は、本当に情熱的だな」
そう言って笑う男子生徒を、リリアナ嬢が睨みつける。
リリアナ嬢と男子生徒は、かなり親しい間柄のように思えた。
そしてわたくしは、思い出した。
彼は、リリアナ嬢と東廊下にいた人物だと。
「何の騒ぎだ! え? リリアナ?」
騒ぎを聞きつけたのだろう、アレクシス殿下がこの場に現れた。
そして、リリアナ嬢を見て、目を見開く。
「お、お前っ……なぜお前がここにいる! 退学になった身で勝手な真似をするな!」
「え?」
やはりリリアナ嬢は退学処分になっていたらしい。
わたくしだけでなく、この場にいる誰もが驚き、リリアナ嬢を見た。
「おや? リリアナ嬢はアレクシス殿下に会いに来たと言っていましたよ。アレクシス殿下が、呼ばれたのではないのですか?」
先程までリリアナ嬢と話していた男子生徒が言った。
「な、何を言っている! そんなはずないだろう!」
「アレクシス殿下ぁ! あたし、殿下に会いに来たのぉ! これからの相談がしたくってぇ」
甘い声でリリアナ嬢がアレクシス殿下を呼ぶ。
やはり、アレクシス殿下がリリアナ嬢を呼ばれたのかもしれない。
「エレノア! 違うからな! 俺はリリアナを呼んでなどいない!」
アレクシス殿下は、真っ赤になって否定する。
「わたくしには、真実はわかりません。ですが、リリアナ嬢はアレクシス殿下に会いにこられたようです。わたくしは、失礼いたします」
アレクシス殿下がリリアナ嬢を呼んだのか、そうでないのかは、どちらでも構わなかった。
ただこの場にわたくしがいる必要はないだろう――そう思い、この場から立ち去ろうとすると、
「では、場所を移動しましようか」
と、わたくしに声をかけてきた男子生徒が声をかけてきた。
わたくしは彼に声をかけられていたことを思い出す。
彼は一体誰で、わたくしにどんな用事なのだろう?
「ちょっと待て! エレノア、どこに行く! その男は誰だ!」
腕にしがみつこうとするリリアナ嬢を振り払い、アレクシス殿下が駆け寄ってきた。
この男子生徒が誰かと聞かれても……まだ自己紹介を終えていないから、わたくしには答えられない。
「エレノアは俺の婚約者だ! 貴様、一体何の用だ!」
アレクシス殿下がそう言った瞬間、周りがざわめき出した。
婚約破棄になったのではなかったのか?
リリアナ嬢が退学ってことは、あの婚約破棄宣言を撤回したってこと?
王族ともあろう方が、何をしているんだ?
わたくしは、学園に戻る前に結論を出さなかったことを、後悔した。
この場にいる人たちは、アレクシス殿下を呆れたように見ているけれど、ここでアレクシス殿下が婚約は継続だと宣言してしまえば、それを信じてしまうだろう。
否定をしなければならない――そう思ったけれど、今この場で、わたくしはなんと言えばいいのだろう?
婚約は破棄する予定だと、そう言えばいいのだろうか?




