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婚約破棄された公爵令嬢ですが、身に覚えのない冤罪を晴らしたいだけです  作者: 明衣令央


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第14話:王家の決断とエレノアの未来


 わたくしたちが王宮を辞した後――王宮の会議室には、重苦しい空気が満ちていた。


 国王陛下、王妃殿下、ウイリアム殿下、そしてアレクシス殿下。

 重臣たちが静かに見守る中、アレクシス殿下が勢いよく立ち上がる。


「父上! 婚約破棄は取り消します! 俺はリリアナに騙されていただけなんだ! だから、俺はエレノアとの婚約を継続させます! 父上の方から、クロノ公爵家に命じてください!」


 その必死な声に、王妃殿下は冷ややかな視線を向けた。


「アレクシス……今回の件は、そんな簡単な話ではありません。あなたは、自分がエレノアにしたことを、もう忘れたのですか」


「そ、それは……」


 アレクシス殿下は言葉を失い、唇を噛む。

 その様子を見た国王陛下は深く息をつき、重々しく口を開いた。


「王妃の言う通り、婚約破棄を覆すことは、簡単な話ではない。事情聴取は限られた人数で行われたことだが、婚約破棄の宣言は大勢の前で行われたことだからだ。上に立つ者として、お前は自分の発言にもっと慎重にならねばならなかったな」


「は、はい……。ですが、エレノアを他の男に渡すなど、あってはならないでしょう」


 アレクシス殿下の言葉に、国王陛下は、「確かに」と頷く。


「神であるクロノスが姿を現し、エレノアを選んだと言ったのだろう……。今や、エレノア嬢は時の神の寵愛を受けた、国の宝……。だが……お前との婚約をこのまま続けるのは難しいのも事実……」


「では……やはり破棄されるということですか……」


 国王陛下は長考し、首を横に振った。


「いや、破棄ではない。保留とし、エレノア嬢の意思を最優先とする」


 アレクシス殿下の顔が歪む。

 彼のその視線は、隣に座るウイリアム殿下へと向けられた。


「……ウイリアム。お前が何か吹き込んだのではないだろうな」


 ウイリアム殿下は静かに首を振る。


「兄上。エレノア様は……あなたの言葉で深く傷ついたのです。まずはご自身を省みるべきではありませんか」


「くっ……」


 アレクシス殿下は怒りで震えた。

 だけど正論を口にする弟に対し、言い返すことができずに、そのまま俯いた。




 翌朝、王宮から正式な呼び出しが届いた。

 わたくしはお父様と兄と共に、緊張しながら王宮へ向かう。

 謁見室に通されると、国王陛下が静かに口を開いた。


「エレノア嬢。昨日は、申し訳なかった。まずはこの国の王である前に、アレクシスの父親として、謝罪をしよう」


 国王陛下からの謝罪に、わたくしは思わず息を呑んだ。

 けれど、一国の王の謝罪を受け入れる選択肢しかなかった。


「わたくし、エレノア・クロノは、国王陛下の謝罪を受け入れます」


 わたくしがそう言うと、国王陛下は少し安心したように息をつかれた。


「では、この国の王として、今後の話をしよう。結論から言うと、国として、そなたを他国に渡すわけにはいかないと考えている。理由は、聡明なそなたなら、口にせずともわかるな?」


「はい……」


 おそらくクロノス様が理由なのだろう。


「昨日の話を聞いて、クロノ公爵家は時の神の加護を受けていると――王家に伝わる古い文献に記されていたことを思いだした。思えば、そなたとアレクシスの婚約を決めたときも、その文献を目にしたからだった。それが現実になった今、我が国は――そなたを他国に渡すわけにはいかない。それは理解してほしい」


 国王陛下の言葉に、わたくしは頷くしかなかった。

 そして同時に、やはりアレクシス殿下との婚約も継続されるのだと絶望する。

 昨日の様子から、アレクシス殿下はわたくしとの婚約継続を望まれているだろう。

 だけどそれは、わたくしを愛しているからではない。

 アレクシス殿下の立場のために、わたくしが必要だからだ。


「エレノア……ただし、アレクシスとの婚約は……そなたの意思を尊重することとする」


「……わたくしの、意思を……?」


 予想外の言葉に、わたくしは驚いて国王陛下を見つめた。

 国王陛下は優しい目でわたくしを見つめ、頷く。


「そうだ。そなたがアレクシスとの未来を望まぬのなら、婚約を強いるつもりはない。もちろん……そなたがアレクシスを望んでくれるのなら、それが一番喜ばしことなのだがな」


 国王陛下の言葉に、胸が締め付けられた。

 安堵と不安が入り混じって、考えがまとまらない。

 国王陛下は、この件に関しては、わたくしに考える時間を与えてくださった。


「それからリリアナ嬢とダロウ男爵家の件だが、リリアナ嬢は退学処分とし、ダロウ男爵家には慰謝料を命じ、王宮への出入りを一年間禁止とした。そなたに危害が及ばぬよう、王宮としても注意を払う」


「……ありがとうございます」


 アレクシス殿下との婚約の件は、気持ちが決まったら教えてほしいと言われ、わたくしたちは謁見室を後にした。


「エレノア……お前の好きにしていい……お前の未来は、お前が決めなさい……」


 帰りの馬車の中で、お父様が言った。


 わたくしの気持ちとしては、アレクシス殿下との婚約は、このまま破棄されることを望んでいる。

 けれど……わたくしの決断を、アレクシス殿下が大人しく受け入れるだろうか。

 それに、わたくしはこの国から出ることは許されていない。

 この国で生きていかなければならないわたくしには、アレクシス殿下ではない方との未来が、まだ何も見えなかった。




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