逃げ出したクロダ
新しい名前!
僕がクロダじゃなくなる!
舞ちゃんとの絆が絶たれてしまう!
クロダはそう思うと居ても立ってもいられなくなり、ちょうど開いていた窓から外に逃げ出しました。
行き先は勿論舞ちゃんち!
自分が別のものになってしまうのが怖くなって、舞ちゃんに助けてもらおうと思ったのです。
「舞ちゃん!僕は舞ちゃんちのネコだよね!」
「助けてよ!僕別の家の子になっちゃう!」
「そんなのヤだよ!僕はいつまでも舞ちゃんの側がいいよ!」
「だから、今度こそ家に入れて!温かく迎えてよ!」
「このままじゃ…このままじゃ…」
クロダは半べそをかきながら必死に舞ちゃんの住んでいた場所までやってきました。
後はマンションを駆け上るだけです。
クロダはちょっと深呼吸して、そしてまた改めて駆け出しました。
今度こそ、あのマンションの部屋の扉が開いてくれると信じて。
ニャ!ニャ~!ニャア~ッ!
クロダは扉の前で必死に訴えました。
その部屋の雰囲気に少し違和感を感じながら。
「今日こそ開けてよ!大変なんだ!
僕を舞ちゃんから引き離そうとするやつが現れたんだ!」
「何で今日も返事がないの?本当はそこに居るんでしょ?」
「僕はいつまでも舞ちゃんの側に居たいんだ!分かってよ!」
クロダの必死の訴えが届いたのか、今までどんなに鳴いても開く事の
なかった扉が今日、ついに開きました。
しかし、扉の奥から現れたのはクロダが初めて見る顔でした。
「んま~!何この猫!私はネコ大嫌いなのよ!シッ!シッッ!」
訳の分からないままクロダは追い返されました。
見なれたいつもの部屋に舞ちゃんは居ませんでした。
実は、クロダがここを離れて暫くして舞ちゃん一家は何処かに引っ越してしまっていたのです。
部屋の中の空気で敏感にそれを感じ取ったクロダは何だか自分だけが取り残され
た気がしてすごく淋しい気持ちになりました。
一方、唯ちゃんちではクロダが逃げ出した事で家中が大騒ぎです。
「ねこさんがいなくなったのー!さがしてー!」
唯ちゃんが半べそをかきながら両親に訴えます。
ちょうどリビングでくつろいでいた二人は事の真相を唯ちゃんから聞きました。
「何で窓を開けておいたのよー!」
「だって、かぜがきもちよかったんだもん!」
「猫は身軽だからいつでも外に出ちゃうのよー!」
「わかったから、ねこさんいっしょにさがしてよー!」
「よおし!じゃあ探しに行こうか!」
「うん!」
こうして、唯ちゃん一家全員でクロダを探す事になりました。
でもまだ唯ちゃんがクロダにちゃんと名前を付けていなかったので
名前を呼んで探すって事は最初から出来ません。
だから似た猫を見つけ出してはじっくりと観察するしかありませんでした。
そんな中、唯ちゃんだけは
「ねこさぁ~ん!ねこさぁ~ん!かえっておいで~!」
と、大声を上げてそこら中を探しまわるのでした。
唯ちゃん一家がクロダを必死に探している頃、当のクロダはすっかり足も重くなり、
すごくゆっくりした足取りでフラリフラリと何処に行くでも無く歩いていました。
すっかり世界から取り残された風で、生きる希望さえ今のクロダには見出せないでいました。




