新しい名前
「舞ちゃんが居なくなっちゃった…もう二度と会えないのかも…。」
ふと見上げたらそこには大きいお日様が、今にも沈みそうな勢いで世界を
真っ赤に染めていました。
クロダはその景色に身動き取れずにいました。
「この空の何処かで、舞ちゃんも同じ景色を見ているのかなぁ…」
夕焼け空はやがて太陽を飲み込んで、次第に暗く沈んで行きます。
一番星が顔を出して風も少し冷たくなってきました。
クロダは取り敢えずここで一夜を明かそうと適当に凌げる場所を探し始めました。
そんな時、クロダの耳に聞き覚えのある声が飛び込んできました。
「…~ん、ねこさぁ~ん!おうちにかえってきて~!」
声の主は勿論唯ちゃんです。
クロダはその声を聞いて自然に涙が出てきました。
「そうだ!僕にはまだ帰る場所があるんだ!」
唯ちゃんの姿がクロダの目に飛び込んで来た時、唯ちゃんがクロダの姿を
確認するより早くにクロダは駆け出していました。
その行き先は言うまでもありません、唯ちゃんの所です!
唯ちゃんはクロダが自分の所に駆け出してくるのを確認すると両手を広げて
クロダを暖かく迎えました。
「ねこさんおかえりい!かえってきてくれてありがとお!」
「しょうがないから一緒に居てやるよ!」
唯ちゃんに必死に抱きしめられながらクロダはとても嬉しそうな顔をしていました。
こうして、改めてクロダは唯ちゃんちの新しい家族の一員となりました。
ノラネコ一年生だったクロダは今度は唯ちゃんちの家族一年生となったのです。
で、クロダの新しい名前ですが…。
「ユウキ?あの猫の名前?」
「うん!そうきめたの!」
「ユウキって唯ちゃんのクラスの男の子の名前じゃないの。」
「か、かんけいないんだもん!ぜったいなんだもん!」
そう言いながら唯ちゃんの顔はとても真っ赤です。
その様子を見て、唯ちゃんのお母さんはピーンと来ました。
でも、それはお母さんの胸にそっと仕舞っておく事にしました。
「…ふふ、じゃあユウキの世話しっかり頼むわね?」
「まかしといてよ!もうこのあいだのようなヘマはしないんだから!」
唯ちゃんは得意な顔でそう答えました。
その顔を見て、お母さんもとても満足そうにニッコリ笑いました。
「さあさあ、もうそろそろ学校に行かないと遅刻するわよ?」
「うん、じゃあるすのあいだユウキをおねがいネ♪」
「まかしときー!」
唯ちゃんは学校に出かけていきました。
今日は唯ちゃんの7歳の誕生日です。
今日の夕食はちょっとしたパーティが待っている事でしょう。
そしてクロダ…もといユウキは唯ちゃんの部屋でまったりと過ごしていました。
昨日出せる涙を出し尽くして、今はただこれから先の幸せの予感だけを胸に抱いていました。
もう窓が開いてもそこから出る事はないでしょう。
だって、今もこの部屋の窓は開きっぱなしなんですから。
(おしまい)
飼い猫が野良になって自由に生きる話は多いのですが
別の家に拾われて幸せに暮らす話があってもいいですよね。
と、言うお話でした。




