クロダの新しい日常
唯ちゃんのお父さんはクロダをしげしげと眺めながら
「へええ、立派な猫さんだねぇ、唯ちゃん猫大好きだったから良かったね♪」
「うん♪」
「だけど、お世話はちゃんとできるかな?猫さんのお世話は結構大変なんだゾ!」
「だじょうぶだもん!ゆいちゃんとおせわできるもん!」
「そかそか♪頑張れよ!」
「まかしといてよ!」
食卓は柔らかな笑顔に包まれました。
クロダはその光景に懐かしさを感じました。
ほんの三ヶ月前まで同じ光景をこことは別の食卓でクロダは味わっていた
からです。
クロダはまた舞ちゃんの事を少しだけ思い出していました。
その夜、クロダは久しぶりにまともな食事にありつけました。
そしてそのおかげでグッスリと眠る事が出来ました。
寝る時もクロダは唯ちゃんに抱きしめられていたのですが、その苦しさよりも
満腹の幸福感の方が勝っていました。
クロダは元々飼い猫です。
だから家での過ごし方はもうすっかり身に付いています。
唯ちゃんのお母さんがバタバタと買い揃えた猫用グッズもクロダはすぐに
馴染む事が出来ました。
「やっぱりこの子賢いわね、どこかの飼い猫だったに違いないわ。」
お母さんはクロダの元の飼い主を探そうと一瞬思ったのですが、もしかしたら
何らかの理由で捨て猫にされてしまったのかも?と思い直しました。
そう思ったお母さんは唯ちゃんの為にもクロダをしっかりと世話していこうと
決心しました。
「ただいまぁ!ねこさんげんきにしてるぅ?」
唯ちゃんが学校から帰ってきました。
その天真爛漫な元気な足取りはまっすぐにクロダの元に向かいます。
クロダはと言えば、この家に来てまだ間がない為、家中を探険している最中でした。
「ゲ!またアイツだ!逃げろッ!」
クロダは唯ちゃんが帰って来たのを確認すると急いでニ階へと逃げ出しました。
クロダにとって唯ちゃんちのニ階はまだまだ未体験ゾーンです。
未知への冒険にクロダの胸は高まっていました。
でも残念、二階の部屋のドアは全て閉じられていました。
なので二階でクロダが歩く事が出来たのは廊下だけ。
そこに唯ちゃんの足音が近付いてきます。
「あわわわわ…来るな!来るんじゃなあいッ!」
クロダの必死の抵抗も敵わず、あっさりと唯ちゃんはクロダを捕まえて
上機嫌で自分の部屋へと歩いていきました。
「ねぇ、唯ちゃん…。」
唯ちゃんが自分の部屋に入ろうと部屋のドアノブを握ろうとした時でした。
唯ちゃんのお母さんが唯ちゃんを呼び止めました。
「なあに?おかあさん」
「ちゃんと世話してる?」
「うん、してるよー」
「じゃあ、その子の名前は?」
「え?」
唯ちゃんはドキッとしました。
まだクロダに名前を付けていなかったからです。




