表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[自作フィギュア]モンスター美少女たちのパパになったら、全員俺を殺しにくるんだが!?  作者: 矢崎 那央
番外編 第1幕『ドキッ!丸ごと水着 モン娘だらけの断罪裁判』
79/307

Scene5:『ひとりじゃない水の中で』


 水の中って、音がとってもまろやかになる。

 どんなに激しく泳いでも、ばしゃばしゃって音がしない。

 すうっ……って。


 それに、光も。

 水面から差し込む太陽の光は、きらきら、ゆらゆら。

 まるで宝石みたいに揺れて、わたしの身体をすべっていく。



 いま、わたしは——おサカナたちと、よーいどん!



 尾鰭をぐっと振って、水を蹴る。

 全身をしならせて、水のトンネルをすべるみたいに泳ぐ。

 指先が水を裂いて、尾が水を押し出して、泡が舞う。


 

 でも——ああっ、また抜かれちゃった!


 小さな体で、ぴゅん!って先に行っちゃう、あの子。

 いつも決まって勝てない、いちばんすばしっこい子。


 すれ違いざま、尾をくいっと振って、小さな渦をわたしの方へ送りこんできた。

 もうっ……ずるい子。わたしも、尾鰭で水をくるくるって巻き返しちゃう!


 くるっと回って、尾でくるくる。

 まわりのおサカナたちも、いっせいに“わーっ”て逃げていく。

 それはまるで、笑いながら逃げる子どもたちみたいで——



 ……ぷくぷく。


 口元に泡が弾ける。

 水の中で笑うの、ちょっとくすぐったい。


 そのまま、水面へとふわり。

 空に届く寸前で、ぴたりと止まって、尾鰭をきゅっと伸ばす。


 

 尾鰭の先に、水の膜を張って……そっと、バランスを取る。

 ぴとっ、ぴとっ……水の上にそっと足を置くみたいな感触。


 

 ——よし、いける。

 


 くるっ。

 もう一回、くるっ! そして、ぴょん!


 尾鰭を軸にして、水面をくるくると回る。

 そのたびに、水しぶきが細かく弾けて、

 青と白の光が、空と湖の間に浮かんで見える。



 風は吹いてないのに、まるで風の中にいるみたい。

 わたしの動きに合わせて、世界が一瞬だけ踊ってくれる。



 最近、このダンスにハマってるの。

 もっと上手に踊れるようになったら……飛鳥ちゃんたちに、見てもらいたいな。

 ……ちょっと恥ずかしいけど。



 ……ふぅ。

 ちょっと、疲れたかも。


 

 水の中に戻って、ふわりと背中から沈む。

 目を閉じて、泡の音だけを聞く。

 空の方を見ながら、手をひらひら動かして、ゆっくり、ゆっくり……。


 


 そういえば——

 さっきまで、九重ちゃんが来てくれてた。


 やさしくて、ちょっとお姉さんみたいな九重ちゃんのこと、わたしは好き。


 声が出せなくても、ちゃんと見てくれる人。

 しっぽで「ありがとう」って言ったら、

 すごくちっちゃく笑って、「かましまへん」って返してくれた。


 


 わたしは声を出せないけど、しっぽでお喋りできる。

 ふるふる、ぴた、くるんって。


 ちょっとした合図みたいなものだけど……ちゃんと、通じてる気がするんだ。


 

 今は、ひとり。

 でも、前みたいに怖くはない。



 ……あのころは、ほんと、バカだったなあ。

 誰かが来てくれるのを、ただ待ってばかりで。

 湖の底で、きゅうってなって、涙も出ないくらい、孤独で、

 ……でも、動こうともしなかった。


 

 今ならわかる。

 あのとき、こうして、自分から探しにいけばよかったんだ。

 たとえ見つけられなかったとしても、探しに行けば、違ったはずなのに。


 

 最近は、たまに水をまとって、宙に浮かびながら、誰かのところに遊びにいったりもしてる。



 この前は、ヴェルちゃんのアトリエにふらりと入って……

 白い糸がふわって飛んできて、ちょっと絡まっちゃった。

 ヴェルちゃんがあわてて、「えっ、ワタシのせい!?」って言ってたの、かわいかったな。

 でもちゃんと解いてくれて、お茶まで出してくれた。


 フィーちゃんのところでは、お花に囲まれてお昼寝したり——

 目が覚めたら、フィーちゃんがそっと布をかけてくれてて、

 なんだか、おかあさんみたいで……すごく、やさしい時間だった。


 ……少しずつ、わたしも変われてるのかな。




 そんなことを思いながら、

 わたしは尾鰭で水面をふるり、ふるりと撫でた。


 

 すると——


 「やっほー、水辺のエモ娘ー!」



 声が聞こえた瞬間、びくっ。


 思わず、尾鰭の動きが“ぴたっ”と止まってしまった。


 

 マハちゃんだ。

 ときどき、ふわっと現れて、たくさん話して、ふわっと去っていく。


 

 「うんうん、その反応、今日もクール」

 


 マハちゃんは、にこにこしながら近づいてきて、しゃがみ込む。


 

 「ノーニャが……またやらかしちゃってさ。

 そっちのしっぽじゃなくて、あっちの赤いしっぽごと、どこかに連れてかれた」


 それを聞いた瞬間、

 わたしの尾鰭は“ふるふる……ぴた…ピン!”って動く。


 (——心配。でも、わかってる。行くね)


 「おお、即答。愛だねぇ……」


 

 マハちゃんがそう言うのを聞きながら、

 わたしは尾鰭で水面を一度、ぴしゃんと跳ねさせた。


 それは「準備完了」の合図。


 

 すぐに、水面に転送陣が開く。

 きらきらした泡がわたしの身体を包んで、やさしく持ち上げてくれる。



 水しぶきの中、

 わたしは——まっすぐ、大事な人たちのところへ。



 ……行ってきます。


 


——to be the next scene.


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ