Scene4:『やさしさを編む、蜘蛛のドレス』
——蜘蛛の糸が、ゆらりと揺れてる。
ここは、森の奥にある古い洋館。
瓦礫と苔の匂いに包まれた、ワタシのおうち。
崩れた屋根と、割れかけたステンドグラスの奥。
かつて温室だった場所を、白い糸でまあるく包んで……ドームみたいなアトリエにした。
今日もここで、ワタシは……。
「……ふふっ。いいの、できそう……」
黒とオレンジのフリルが揺れた。
ツインテールがぴょこりと跳ねて、指先から糸がさらさらと流れだす。
草木の染料でふわっと色をのせて、布を浮かせて、くるくる、くるくる。
「飛鳥ちゃんに……今度は、こういうの……似合うかな……?」
リボンはもう少し小さく。
袖は、前よりちょっとふわっと。
ボタンは第二歩脚で削った、木のやつ。
これで……99着目。
飛鳥ちゃんが旅を始めてから、ずっと、ずっと、作り続けてる。
……ほんとはね、この前、ちょっとだけ会ったの。
ノーニャちゃんが……えっと……パパの、あのクルクルしてバチバチするおもちゃ……暴走させちゃって。
ワタシ、後片付け手伝ったあと、飛鳥ちゃんとお茶した。
たくさんお洋服も、着てくれた。
でも、飛鳥ちゃんがあとで教えてくれたの。
「いっぱい作ってくれて嬉しかった」
「でも、たくさん着すぎて、ちょっと疲れたし、もっとお喋りがしたかった」
「それに……こんなに作って、大変じゃないかって心配だった」って。
だから次は、たくさん"着て着て"って、言っちゃわないように気をつける。
ワタシはまだ、みんなが考えてること、よくわからない。
他の人が、どんなふうに感じてるのか。いま、喜んでるのか、悲しんでるのか、想像することはワタシにはできない。
だから、飛鳥ちゃんはちゃんと教えてくれる。
ワタシのために、嬉しかった事、嫌だった事。
ちゃんと言葉にして。
「そのとき何を思ったか、どうしてそう思ったか」って。
だからワタシ、一生懸命、覚えていくの。
——どんな時に、相手はどんな風に思うのか。
——どうしたら、喜んでもらえるのか。
ひとつずつ、少しずつ。覚えていく。
うまくできない時も、たくさんあるけど、
ちゃんと頑張れば……ワタシにも、
やさしい心持てる、って……そう思うの。
「えへへ……このリボン、きっと……可愛い……よね……?」
ワタシしかいないドームの中、糸と布とリボンだけが揺れている。
……ぱち。
気配に、ぴくりと脚先が跳ねた。
目を上げると——
「……まは、くん?」
「うん、まは君だよ。こんにちは、ドレスの妖精さん」
マハくんの声。いつも突然、ふいに現れる。
ワタシは目をパチパチさせて、それから、手を止めた。
「……ノーニャちゃん……また、なにかしちゃったの……?」
「うん、異界にズボッ。ちょいと助けに行こっか」
「……うんっ!」
ぴっと指を鳴らすと、背後の糸がしゅるしゅると巻き上がって、
いま着てるロリータドレスにすぅっと吸い込まれていった。
「でも、せっかく……飛鳥ちゃんに、お洋服……作ってたのに……
もっと……フリフリのドレス……つくりたかったのに……」
ちょっとだけ、振り向く。
だけど、ノーニャちゃんが待ってる。
「いこう……マハくん……」
マハくんがうなずいて、
転送の光が、ワタシたちを包んでいった。
——to be the next scene.




