Scene3:『ツギハギの旅路』
最近、オレもちょいちょい旅に出てる。
……つっても、リンドみたいな“Great journey”じゃねぇよ?
長くても、片道10日。音が鳴る場所を目指して、気まぐれに街を渡る小旅行ってとこだ。
今回の旅も、そんなもん。
くしゃっと潰れたレザージャケットの襟を引き上げながら、ギターのストラップを右肩にかけ直す。
ちょうど角の脇に、古びた木箱がひとつ。
人通りから少し外れた場所で、オレはそこにドカッと腰を下ろした。
木の軋む音と一緒に、ギターが膝の上に落ち着く。
ネックを撫でるように持ち上げて、ポロリと弦を鳴らす。
このツギハギの身体。
どっからどう見ても死人だけど、
このギターから出る音は、100%ホットな“いま”だ。
今日は、商隊の馬車に乗っけてもらって、だいぶ離れた街まで来た。
アイツら、オレと相棒のセッション、やけに気に入ってくれてさ。
「Rock’n’roll saves the road, baby」とか言って、マジで馬にヘドバンさせてた。あの馬、絶対音感持ってると思う。
で、たどり着いたのがこの街。
石畳の路地に花屋がずらっと並んでて、風に乗って香水と果物の匂いが混ざってくる。
どっかの広場じゃ大道芸人が宙に浮いてるし、子供らは靴を脱いで噴水に突っ込んでる。
つまり——うるせぇけど、嫌いじゃねぇ街だ。
リンドの押売りってワケじゃねぇが……
アイツと旅してたとき、なんとなく分かったんだよな。
捻くれたまま根城の周りをぐるぐるしてた頃には、絶対気づかなかったこと。
「オレみてぇな失敗作でも、まだ何かに出会えるんだな」って。
以前のオレじゃ、そう思う余裕もなかった。
——今のオレは、リンドと、アイツらのおかげでできてる。
ほんと、すげー感謝してるよ。
“Rot comes easy. Living takes guts. But if you keep your eyes open, even the dead get lucky.”
(腐るのは簡単だ。生きるには根性がいる。だけど目ぇ開けてりゃ、死体にも運くらい舞い込むもんさ)
♪
「Well, she’s walking through the clouds♪
with a circus mind that’s running wild…♪」
まばらな路地。
レンガ造りの壁に、オレの声と相棒の音が跳ね返る。
片手にギター、もう片方の手でピックを弾きながら、
片足で地面をリズム刻むのが、最近のお気に入り。
——Zombie on Stage、今日も絶好調。
観客はチラホラ。
ガキんちょがノリで手拍子して、カップルは「なにあれ?」って顔しながら足を止めてる。
まぁ、いい反応だ。
……が。
「Huh?」
ギターの隣から、ぴょこんと顔を出す影。
「やあ、ロメラ」
……でたよ。
「……Yo, for real?Flatjack.(マジかよ…ぺったん娘)。
今ちょうど2番に入るとこだったんだぜ?」
「猫の悪ふざけで異界がバグった。まるごと連れてかれたノーニャを回収中」
「……またかよ。That damn kitty messed up the realm again, huh?(またアイツがハチャメチャやらかしたってワケか)」
オレは、ふうっとひとつ息を吐いて、ギターを背中に背負った。
「ま、しゃーねぇ。あのKitty(仔猫ちゃん)、放っときゃ速攻でDead endだしな」
手をひょいっと差し出す。
「C’mon, let’s roll. Ain’t this the ‘Summer Fest from Hell’ or somethin’?」
「ふふ、いいネーミング」
パンッ。
足元に風が巻いて、
転送の光と一緒に、オレらの姿は煙みたいに消えてった。
——残されたギャラリーたちは、口をぽかんと開けたまま、ギターの余韻とともに彼女を見送っていた。
「えっ……えっ!? あの姉ちゃん、楽士じゃなくて手品師だったのか!?」
——to be the next scene.




