Scene11:『狐火お座敷遊び(プレイ)』
——その後、私は吊された。
天井から垂れた鎖に両手を封じられ、
両足もしっかり縛られて身動きひとつ取れぬ。
眼下に居るのは、
白装束の巫女——式神・九重である。
九重は、テーブルにヒジをついて頬杖をつき、
つまらなそうに、そっぽを向いていた。
その表情は白磁のように無表情。
だが、私の背に走る灼熱だけは、
確かな“怒り”を物語っている。
テーブル越しの空間を、小さな青白い炎が横切った。
ひゅっ
それは、私の背へと鋭く突き刺さる。
……ジュッ。
「ぐああっっっつ!! 九重!!やめろ!!」
私は暴れた。
だが、吊られているので回転しかしない。
「そもそも、式神ってのは、主に従うもんだろ!
主人の命令には絶対服従じゃないのか!?」
「もちろんどす、旦はん」
九重の声は、柔らかく、響いた。
「せやけど、“やめろ”いわはりましても、
“なにを”やめればええのか、わかりまへんわぁ」
ひゅっ………ジュッ。
「その!!今の!!“ひゅっ”って火ィとばして、
私の背中に”ジュッ”てするやつ!!」
「これは”陰火“いうてな。
厳密にゆうたら、火やあらしまへんのや」
ひゅっ………ジュッ。
「だから余計にタチが悪いッつってんだろ!!
ていうか、そもそも契約上、
式神が主人へ攻撃するのは禁止だろ!?」
「おやまぁ。“攻撃”なんて人聞きのわるい
これは、“愛あるおしおき”どすえ?」
ひゅっ………ジュッ。
「うぎゃああっっつ!!!
じゃあその“おしおき”とやらを今すぐやめろ!!」
「ほな、こっからは”お座敷遊び”。
まぁ、いわゆる”そうゆうプレイ”どすなぁ」
ひゅっ………ジュッ。
「だからやめろ!!
私はそういう趣味は一切ない!!」
「イヤよイヤよもなんとやら……。
そういう"てい"がお好みなんやねぇ…」
「主人の真の望みを見抜くのも式神の御役目。
旦はんの命令の”真の意図”、
ちゃぁんと、うけとりましたえ?」
ひゅっ………ジュッ。
「詰んでるじゃないかっ!!」
ちなみに彼女は、命令には形式上は従うが、
屁理屈で大体すり抜ける常習犯である。
————
ぎい…… ぎい……
微妙に長さの違う鎖が、私を左右に揺らしていた。
まるで、風鈴のように。
九重は、もう火を飛ばしていない。
テーブルの向こうで、茶をすすっているだけだ。
だがその“間”が、逆に怖い。
私は、ぶらんぶらんと揺れながら、
静かに天井を見つめた。
「……ふぅ。いやはや、なかなかどうして」
煙が、ほのかに目にしみる。
《さきほどの“陰火”で、男の背中にはいたる所に赤い痕がついている》
「うむ。ちょうど良い温度だったな……。
肩のコリが取れるような、絶妙な熱加減……
これはもう、治療とすら言えるのでは……」
《いつもどおり、思考がポジティブ方向へねじ曲がってきた》
「やはり、父性というものは……
ちょっと炙られるくらいが、
ちょうど熟成するのだな……」
「まるで燻製チーズのように。
いや、炙りサーモンのように」
私は、目を閉じた。
「……人は痛みによって学ぶ。
ならば私は、父性によって焼かれ……
“より美味なるパパ”へと近づいたということだ……」
《背中はすっかりピンク色である》
九重が、ちゃぷんと茶をすすった。
「……ほんま、よう焼ける子やわ」
──to be the last scene.




