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[立体作品]モンスター美少女たちのパパになったら、全員俺を殺しにくるんだが!?  作者: 矢崎 那央
第6話 第3幕『クラスのイタい男子、ログを改ざんしようとして炙られる』
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Scene10:『記憶改変と炙り狐』


 私は、机に向かっていた。


 ラボの一角に設えられた、重厚(じゅうこう)な木製デスク。

 その上には、膨大な紙束と魔導端末(まどうたんまつ)

 そして……『娘たちとの活動記録』。


 これは、私と娘たちが歩んできた“愛の軌跡(きせき)である。



 ——つまり、父性の歴史書。


 

 私は、ペンを走らせながら、うんうんと頷いた。



 「……ふむ。こうして改めて振り返ってみると、

 なかなか、順調であるな」


 

 手元の書類にある、

 ロメラとの初接触記録に目を落とす。



 「当初はやや反抗的だったが……

 いやいや、あれは思春期特有の照れ隠しだ。

 父を意識していた証拠である」



 机の向こうから、すっと現れた巫女装束の少女。

 九重(ここのえ)である。



 「……旦はん。あの子、あの後な。

 旦はんの話題出しただけで、

 壁殴るようにならはってな……」



 私は、咳払いでその証言をかき消した。



 「ええい、年増のキサマに、

 若き娘の繊細な心の機微(きび)が分かってたまるか。

 それは破壊衝動ではない。

 “照れ隠し”だ。情緒的に」



 九重の袖口から、ぼっ、と青白い火。

 淡く揺れる狐火が、机上の紙束をかすめた。


 

 「……お口、もう少し(つつし)まはった方が

 ええんやないどすか?」


 

 私は咄嗟に、黒い符を放る。

 バシュッと結界が広がり、紙束を炎から守る。


 

 「……ふぅ、まったく、これだから化け狐は。

 ツッコミに火を使うとは風情がない」



 だが、筆は止めぬ。


 私は記録のページをめくりながら、

 次なる娘について語る。



 「ヴェルミアとは、実に良好な関係が築けた。

 彼女は素直で、愛情深く、

 “パパ”への愛を惜しまぬ娘である」


 

  バサァッ。


 九重が広げた紙束。その上には、毎回の“報告書”。



 「初回、刺殺されかけ逃亡。二回目、絞殺未遂。

 三回目に至っては、心停止しとりますえ……」


 

 私は眉をひそめた。



 「ふむ……たしかに多少、

 命のやりとりがあったかもしれん。

 だが、それは試練であり儀式だ。

 家族とは、時に命を賭して絆を深めるものなのだ」



 「うちの故郷ではな、

 そういうの“危ない人”って呼びますのん」


 

 さらに私は、ページをめくった。



 「アクウェリーナ……あの子については、まあ……

 感情に乏しいゆえ、時間がかかるのだろう。

 沈黙のなかにも、確かな想いは——」



 「あの子なぁ。その後会ったら、

 尾びれで“もうかんべんして欲しい"て、

 何べんも伝えてきてなぁ……」


 

 私は一拍置いて、鼻で笑った。



 「……ふっ。言葉なき愛は、

 父性によって察するべきもの。

 それを読み取れぬ者に、娘の真心など分かるまい」


 

 「ウチはちゃんと読み取っとったけどな」



 やばい、ちょっと論破されかけている。

 だが、私は引かぬ。



 「ならばどうだ、フィロレーナ。

 あの娘は私に優しく微笑み、迎え入れてくれた。

 あのぬくもりは、間違いなく父を慕うものだった」


 

 「……あの子、誰にでも優しいだけで、

 親子って概念すらたぶん分かってまへんえ?

 植物ですし」



 ……ドチャクソ図星を突いてきた。

 まるで見ていたかのようだ。


  ピシィ……!


 私は筆を折った。



 「ふっ…。言わせておけば、言いたい放題だな。

 所詮キサマは化け狐。

 人の心など、初めから理解できるはずもない」



 ——その瞬間。


 

 九重が、にこ……と微笑んだ。

 ……「あ、やべ……」と私は察した。


 

 彼女の、この手の“穏やかな微笑”は、

 ツッコミが“本気(マジ)トーン”になる合図である。


 そして…。


  すっ。


 白い指先から、今度は朱の符がふわりと宙に舞った。



 「ウチな、“人の心が分からへん"とか言われるんは、

 けっこう、我慢できまへんのどす」



 そのとき、心の中で、小さな声がつぶやいた。

 ……あ、来たな。いよいよ、ヤバいやつだ。



 ——そして、思い出す……。



 かつて私が、九重にシバかれた数々の場面を。


 狐火で火炙り。公開処刑の幻術責め。

 そして、なぜか物理で放たれたローリングソバット。


 いや、本来、式神が術師をシバくなんて

 あってはならないのだが、


 それでも、なぜか私の記憶には、

 「定期的にシバかれている」記録が、

 しっかりと残されている。



 ——九重が怒るパターン。

 それは、決まっている。



 “年齢に言及する”

 “お前は人の心が分からない、と断じる”

 “他の娘たちの人生を害するような行為”


 先ほどまでの会話を、

 ひとつひとつ巻き戻すように再生する。


 私は彼女の地雷を、ひとつずつ丁寧に、

 ケンケンパの要領ですべて踏み抜いていた。


  ビシィィッ!!!


 私の防御結界が、(あか)い符に包まれ、

 乾いた音を立てて砕けた。



 「ぬおおッ!? 

 この術力!! さすが式神中の鬼嫁属性ッ!!」



 私は叫んだ。

 ……だが、すでに遅かった。


 朱の符がぐるりと私の四肢に巻きつき、

 背後から青白い狐火が、ぶわっ、と噴き上がる。



 「ちょ、ちょっと待て、九重!

 これは“ディベート”だぞ!? 

 あくまで文化的対話だ!」



 「そら、よろしおすなぁ」



 九重は、優雅に袖を揺らしながら微笑んだ。


 その足元には、狐火によって

 じりじりと炙られはじめる私の脚。



 「せやけどな、旦はん。

 “お父はん”名乗るんやったら、

 もうちょい娘のこと、ちゃんと見たらよろしおす」



 私は歯を食いしばった。



 「ふっ……なるほど……。

 これは教育的指導……つまり、

 父として受けねばならぬ……“お灸”なのだな……!」


 

 全身から、軽く湯気が立ちのぼってきた。


 私は、笑った。

 うっとりとした顔で、焼かれながら。



 「やはり……父性とは、苦しみと共にある……」


 

——to be next scene.

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