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かけがえないんだろう、と騙されてあげる  作者: 今井葉


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夏に感じた清涼感。これなんです。―彼第二

 夏も目前の梅雨のある夜。外ではしとしと雨が降る。庭の雑草も刈ったばかりで泥ハネしやすい。そんな窓の外を眺めて、そうだ、と思いつく。




 ポタポタ。窓に落ちる水滴のようなアレが丁度いい。そうだ。アレだ。



 水出しコーヒーを作ろう。



 一滴一滴。ポタポタドリッパーに落ちて抽出する水出しコーヒー。直ぐに飲みたい気持ちは叶えられないけれど、水滴が落ちるのを眺めている時の至福ったら。飲めるのは明日の朝かな。わくわくして今日は眠れるだろう。



 明日の朝ごはんを考える。水出しコーヒーにぴったりなのは? ホットサンド? クロックムッシュ? ベーグルにクリームチーズと生ハム添えようか。



 ポツンポツン。コーヒーが落ちるのを見つめながら、待ち遠しい朝を思う夜。芥川龍之介は無類のコーヒー好きだった。深煎りと言うより軽めのコーヒーを、カップではなくお椀に注いで客人に振る舞った。



 お椀。カフェオレボオルほどのものか。芥川はカフェオレを好んだかは置いておいて、お椀にコーヒーなんてちょっぴりおしゃれではないの。



 また、銀座の老舗のカフェ「カフェー・パウリスタ」は文豪たちとの待ち合わせにも使っていた。そんなコーヒー好きの芥川。小説『彼 第二』にも描写がある。




「僕等はカッフェ・パウリスタの隅のテエブルに坐っていた。その頃のカッフェ・パウリスタは中央にグラノフォンが一台あり、白銅を一つ入れさえすれば音楽の聞かれる設備になっていた」




 私も明日の朝は、水出しコーヒーとピアノの伴奏でクロックムッシュを頂こう。



 そして、夜も明け、朝。



 水出しコーヒーは落ちきっている。早速、冷蔵庫から卵と牛乳、砂糖を取り出し、クロックムッシュを仕込む。冷蔵庫をがそごそ。ハムもチーズもある。



 フライパンにバターを入れて火をつける。卵液に浸した食パンを並べ、両面焼けたらハムとチーズをサンドする。クロックムッシュの出来上がりだ。




 水出しコーヒーのグラスを選ぶ。円柱形のスマートなグラスに氷を入れ、並々とアイスコーヒーを注ぐ。



 グラスを傾ける。

 氷が鳴る。

 そう、これ。

 すっきりとした味わい。

 しつこさじゃない、喉にすとんと落ちる爽やかさ。

 この軽さだ。

 芥川は軽めのコーヒーが好きだった。

 このようなものか。

 クロックムッシュを頂こう。

 甘く、しょっぱく。卵の贅沢。




 梅雨に感じた清涼感。これなんです。バッハのフーガが耳にも贅沢。お家カフェ時間の始まり始まり。












 



 

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