存在してるっていう尊さ。町の、真ん中で。
うちのきょうだいたちは大のお父さん子。反抗期は訪れないのか、お父さんが仕事から帰宅したと同時に、
「おとうちゃーーん」
ベタベタくっついていく二人。良人はと言うと、暑苦しい⋯なんて悶えながらもまんざらでもなさそうでにこにこしている。人が良いというか、人徳というものなのか、昔から人あたりがいいのが、うちの良人だ。
「今日はなにする?」
きょうだいたちは目をきらきらさせてふれあいタイムとばかり。
「ウォーキングしようか。健康診断あるんだ」と良人はにこにこ。
「いいよ。でもその前にこれ!」
と、机にドーンと置いたのは、百人一首。
「ちょっと時間かかるな。日暮れ前にウォーキング行っておきたい」
と良人。
「すぐ終わるよ。坊主めくりだから」
と息子。
「坊主めくりか。それならいいよ」
「やったことない。なに?」
と娘。
「読み札を引いていくんだ。絵柄が男だったら手持ちになる。坊主だったら、手持ちの札が全部捨て札になって、前に差し出す。姫を引いたら、前に差し出された札をもらえる。最後手持ちが多い人が勝ち」
読み札を見せながら説明する息子に、面白そう! と乗り気の娘。
果たして坊主めくりが始まったのでした。
途中、わいわい奇声もあげつつ。
最後、涙する娘。
そして泣き止まないのだ。そんなに悔しいもの? ちょっと飽きれているのは私。
「まあ、運ゲーだからさ」
と慰めにならなそうな言葉をかける兄。
「ウォーキングついでにアイスでも買いに行くか?」
と人の良い発言をするのは良人。
「やったあ。行く!」
現金な娘に、
「お前ナイス」
と妹に親指を差し出す兄。
果たしてわちゃわちゃの父子たちは、ウォーキングもといアイスを買いに行ったのでした。
健康診断ではないの? と苦笑しながら百人一首を片付ける私。坊主の札は百枚中十二枚。蝉丸は僧侶ではなく殿だったことから、蝉丸ルールという特別ルールも存在するらしい。しかし、蝉丸の絵柄は、どう見ても坊主? なので、坊主にカウントして今日の父子たちは楽しんだ。
ちなみに蝉丸の歌はこれ。
「これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬも逢坂の関」
私の好きな一首だ。私は人が好きだ。人が行き交う。そういう寂しさを感じる暇もない朝の喧騒だったり、夕暮れの落ち着かない感じが好きだ。存在してるっていう尊さ。町の、真ん中で。
坊主めくりで坊主並べてみる。今度は蝉丸ルールでやってみようかな。




