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かけがえないんだろう、と騙されてあげる  作者: 今井葉


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痛い⋯―握手

 息子から差し伸べられた手のひら。はてな? なんの挨拶? と差し伸べられたままに、こちらの手を差し出すと、強い握力でゴリゴリ。

「痛いっ」

 つい大きな声を上げて手を振りほどく。

 小さな子どもがちょっと力をこめたってくらいなら笑って済ませられる。しかしなんと言っても息子は私の身長をとうに越した大きい子どもなのだ。

 息子はにこにこしている。どう? なんてドヤ顔たっぷりで。

「握力30キロってとこかな」

 私は息子をジト目で手を振り振り。「怪力ってほどじゃないけど、痛い。やり返す?」

と、私は手を差し出す。

「そうじゃなくて⋯」

と、手を取る息子。



 「ルロイ修道士だよ」



 と、また握力30キロでゴリゴリ。



 「井上ひさし『握手』だよ」



 息子はにこにこしている。あなたのは握手じゃなくて握力でしょう。



 「ルロイ修道士の握手はこんなだっけ?」

 私は半泣きで息子を見上げる。

「こんなもんじゃないと思うよ」



 え? そうなの? とばかり、息子の手を奪ってゴリゴリ。力をこめる私。どんなもんだっと笑顔で息子にしてやったり。



 「これじゃ、病気のルロイ修道士だよ」

と、手を奪われる。ゴリゴリ。ゴリゴリ。



 「痛い⋯ルロイ修道士の優しさが滲む⋯」

「そうでしょ?」

 息子はこめた手のひらを弱めると、手をモミモミ。マッサージで相殺なんて虫が良すぎるでしょう、とすっかり警戒モードの私。

「じゃあ、これから『握手』でも読み合わせる?」

と、本棚の前に立つ私。



 「ああ! これから友だちと約束があるんだったあ!」



 逃げる息子。こらこら。



 でも我が子にしては、洒落が効いてたかな?



 痛いけど!







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