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魔女の悲しき定め



「どうした、エディ。今日はなんだか調子が悪そうだが……」

「いえ、心配はご無用です!次こそ絶対成功しますから!」


 ハキハキとそう答える。

 良い返事。勢いだけはいいのだが……


「しかし……根を詰めすぎてしまっては、できるものもできないだろう……よし、ここで一旦休憩としよう」




 エディは何か言いたげだったが、ひとまず休むことにした。

 丸いテーブルに椅子が二脚。向かい合って座って、紅茶で一息。


「あの、師匠。一つ伺っても?」

「何だ」

「その……ご結婚の予定はありますか?」


 何だ急に。藪から棒に。

 思わず口に含んだ紅茶を吹いてしまうところだった。


「この私が……結婚?!予定も何も、知っているだろうお前は……私が齢三桁を超えるような年老いた魔女だと。そんな相手に聞いてどうする?」

「お年を召しているとはいえ、とても魅力的なお方なので」

「見た目が、か?作り物のこの体が?」

「いいえ。あなたの内面です」

「ふん、調子の良い奴め……ともかく、私にそんな予定はない」

「ですよね、安心しました」


 安心?どういう意味だ?


 私には全くもって意味不明だが、彼はなにやら勝手に満足したようで。

 喋るのをやめて静かにお茶を啜っている。







 我々魔女は寿命が長い。


 ゆえに、普通の人間……短命の者達とは見えている世界がまるで違うのだ。




 基本的に、魔女は同じ種族の男である『魔人』としか結ばれない。昔からそう。


 とはいえ、我々はあまりに長く生きすぎた。

 今じゃ皆、頭がすっかり固くなり融通の効かなくなった年寄りばかり……もっとも、私もその中の一人だが。


 その見た目こそ魔法で若く保っているが、中身はやはり年相応だ。

 どいつもこいつも皆頑固で癖が強く、同族の誰かと馬が合う事なんてまずない。


 暗黙の了解で、皆お互い極力会わないよう姿を隠して暮らしている。

 出会ってしまったが最後、口汚く罵り合いながらどちらかが果てるまで魔法の撃ち合いだ……まったく、醜いもんだよ。


 皆、自分が1組の夫婦から産まれてきたってのをすっかり忘れてしまってるのさ。

 覚えておくにはあまりに時間が経ちすぎたんだ。




 だからといって、じゃあ短命の者(人間)がいいのかというと……そう簡単な話でもない。




 一応、人間相手でも婚姻自体は不可能ではない。やろうと思えばできる。


 だが、何百年も生きているような者がたった数十年の共同生活のためだけに契りを交わす……わざわざそんな馬鹿な真似はしない。


 もちろん、若い頃はそんな思いを持ったこともあった。

 愛する者と甘い生活を……なんて。


 儚い命であるがゆえに美しい、人間。

 何度も世代交代していくうちに、中には私でさえうっとりと心を奪われるような美青年が現れたりもするのだ。


 しかし年を得るにつれ、それはとてつもなく残酷なものだと知った。


 どう足掻こうと、どれだけ努力しようと、その先に『逃れられない別れ』があるのがはっきり見えているのだから。


 人間を魔人化させる魔法はあるにはある。

 しかし、未だ成功した試しが無かった……何かが足りないらしく何度やっても不完全なのだ。




 つまり、どちらもあり得ない。


 結局、魔女は一生独り身だって事だ。







 そんな魔女についての一通りの話を、以前彼に説明したことがある。魔法の予備知識として。


 だから、聞かずともそんな事は当然知っていると思っていたが。



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