不意打ちの質問
「ところで……師匠は今後どうされるんです?」
「どうするも何も……」
「また新しく弟子でも取るとか?」
「いや、それは勘弁だね。もう人間相手に先生をするのは疲れた……しばらくは一人でゆっくり休ませてもらうよ」
言い終わりと共に最後の一口を啜る。
そろそろ試験を再開しようかと思ったが、見ると彼のカップはまだ半分残っていた。
猫舌にはまだ熱かったようで。
深く腰掛け直し、話を続ける。
「そう言うお前はどうするんだ?といっても、お前はまだ若いからな……やる事、やりたい事が山積みだろう?」
「そうだなぁ。え〜っと、まずは実家に帰って久々に全員でご飯食べたいな……それから友達みんなに会って、覚えた魔法披露して……あとそうだ生活費、魔法関係の仕事どうにか探さないと……それで、えっと……」
「ははは、これから一気に忙しくなるな」
彼のこれからは明るい事ばかりだろう。
もちろんつらい事もあるだろうが、それ以上の楽しさが待っているはずだ。
たくさんの知らない事、まだ見ぬ広い世界、初めての体験……
突然、あっ!と彼は声を上げた。
何かを思い出したようだ。
「どうした?」
「そうだ!あと、結婚……!」
カップが手から滑り落ちる。カシャーン!と嫌な音と共に。
一瞬ヒヤッとしたが、運良く無事だった。
我ながらひどい動揺っぷり。
「け、結婚?!そんな、誰が……!」
「もちろん、僕が」
しれっと彼はそう答えた。
なんと。なんという事だ。
子供だとばかり思っていたが、まさかその日がくるとは。
落ち着け私。どうどう、どうどう……
「僕、好きな人がいるんです。ずっと前から好きで……一人前になったら、結婚しようと思ってて」
女っ気は全然なく、そういった話も今まで一切なかったというのに。
なんと、いつの間に……
「そうか……まぁ、そういう年頃だしな。いいんじゃないか」
「へへっ……」
彼は頭を掻きながら照れ臭そうに笑う。
顔をくしゃっとさせて笑う、なんとも無邪気で可愛らしい笑顔。
これも今日で見納めか。
おそらく、もうこの先二度と見る事は叶わないだろう。
今後、この笑顔の先にいるのは彼の妻となる人間であって……私ではないのだから。
胸の奥がキュッと痛んだような気がした。
歳だからな、色々とガタがくるもんだ。
後で薬を飲んでおこう。
「まぁどのみち、お前はもうすぐ修行が終わって自由の身だ。今のように魔女について回り、一緒に魔窟に篭っている必要はなくなる」
「そうですね。でも……」
「でも?」
「でも、僕は……まだ当分ここを離れるつもりはありません」
「む、なぜだ?」
「それに、あなたの姿はそもそも変えようがないんです」
「まるで意味が分からんぞ。質問にちゃんと答えろ、エディ。一体どういう事なんだ?」
「つまり、そういう事ですよ」
彼は涼しい顔でそう答え、席を立った。
こちらの疑問はまだ全然解けていないというのに。
「はぁ?何だそれは」
「さてと、リフレッシュできた事だし……試験頑張るぞっと」
「お、おい……!待て、どういう意味だと聞いて……おい、エディ!おい……!」
呼びかけを無視して、彼はまた魔法を唱え始めた。




