蛙の妹ははたして蛙なのか
PM 6:00 美術室
武史くんの特訓が終わり、僕は床に転がっていた。
部長が、珍しくスマホをチェックしている。
「……おっと、すみれからLINEだ」
「すみれ?」
僕が聞き返すと、部長が少し困ったような顔をした。
「ああ、僕の妹だよ。中学2年生なんだけど、最近やけに『お兄ちゃんの部活、何やってるの?』ってうるさくてね」
部長がスマホの画面を見せてくる。
そこには、ツインテールの可愛らしい少女の写真。
「可愛い妹さんですね」
うっかりアロハシャツの金髪ツインテールに錯覚してしまう佐藤は、自分を殴りたくなった。クセ強兄の妹はクセ強だと思っていたが、この命題は正しくないらしかった。
「ああ、可愛いんだけど……ちょっとお兄ちゃん大好き、が過ぎるんだよな。この前も、俺が女子と話してるだけで嫉妬して……」
部長が頭を掻く。
「マジで俺、妹に負けてばっかりでさー。可愛いツインテールとかしちゃってるくせに気づいたら完敗なんだよなw」
部長の声に、少しだけ妹に苦労する兄の姿が混じっていた。
「(……部長、妹のこと、大事にしてるんだな)」
その時、スマホが再び鳴った。
『お兄ちゃん、今日も部活? 誰かと一緒?』
部長が苦笑しながら返信する。
『今日は男子生徒の恋愛相談だよ。心配しなくていいから』
すぐに返信が来た。
『そっか!お兄ちゃん、頑張ってね!』
画面には、向日葵みたいに明るいスタンプ。
「(……妹さん、相当お兄ちゃんのこと好きなんだな)」
僕は、そんなことを思いながら、部長の後ろ姿を見ていた。
PM 3:30。
放課後の旧校舎は、特有の静寂に包まれていた。 僕、佐藤勇太の脳内では、今朝録画してきたアニメの続きが再生され始めていた。
このまま平穏無事に帰宅し、電子の海に溺れる。それが僕の、凡人としてのささやかな
「勝利条件」
だった。
しかし、その夢は無慈悲な音によって打ち砕かれる。
「失礼します……あの、こちらが『告白代行部』でしょうか……?」
恐る恐る、しかしその場を支配するような圧倒的な「華」を伴って現れたのは、星野キラリだった。
学園の校内ポスターのモデルを務め、その美貌は「1000年に一度の奇跡」と称される、誰もが知る超絶美少女だ。
「おぉぉ! 星野キラリちゃんじゃないか! 本物がこんな薄汚れた美術室に来るなんて、我が部もついにハリウッド進出か!?」
神宮寺部長がアロハシャツの襟を正し、鼻の下を5センチは伸ばして出迎える。
「……データ外の事態ね。星野キラリ、偏差値65、容姿ランク特A。彼女に『代行』が必要な理由が論理的に見当たらないわ。他人の告白を断る代行なら需要があるでしょうけど」
一ノ瀬さんが冷徹にメガネを光らせ、タブレットで瞬時に彼女の学籍データを表示させる。
しかし、僕は見てしまった。
彼女の高級そうなブランドリュックの隙間から、かなり使い込まれ、綿がはみ出しそうになった
「パペット人形」
が覗いているのを。そして、その人形の服には、隣のクラスの極めて地味な男子、平凡くんの名前が刺繍されているのを。
「あの……私に、『普通の恋』を教えてほしいんです!」
キラリは涙目で訴えた。その瞬間、僕の「凡人センサー」が最大級の警告音を鳴らした。これは、普通の依頼じゃない。
「……なるほど。事態は想像以上に末期的ね」
話を聞き終えた一ノ瀬さんが、珍しく眉間にシワを寄せた。
今回は少し短めです!一ノ瀬さん、深刻な顔をしていますがどこが末期的なのでしょうか、?




