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水の精霊 ~もっと光り輝いて~  作者: あるて
第1章 光が消えることはない

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5/10

第4曲 視線は常に先を見て

 北海道でのコンサートは東京にも負けず劣らず盛り上がり、二日間の予定はあっという間に過ぎ去ってしまった。


 北の大地でも熱狂的なファンがこんなにもいるんだということに、日本中に見てくれている人がいるんだという実感が湧いてくる。


 チャンネル登録者数は現在3000万人に迫る勢いで増えていて、中には外国の方だっている。

 日本だけでなく世界にも歌声を届けられていることがとても嬉しい。ネットで活動していることの利点が最大に出ているなぁ。


「ゆきさんの知名度は今ではもうワールドクラスですからね。いずれ世界中からお呼びがかかるようになるんじゃないでしょうか。まずはアメリカに凱旋ライブなんてどうですか?」


 五代さんが気の早い提案をしてくる。


「まだ日本縦断ツアーの最中なのにもう先の話ですか?」


「当然。まだまだこれからですよ。お姉さん方もおっしゃってましたけど、わたしもゆきさんはいずれ世界に飛び出していくと思っていますから」


 世界か。

 確かに憧れはある。一度アメリカでは失敗してるけど、あの頃よりも語学力はあがっているし、表現力や技術力も全然違うつもりだ。

 もちろんリベンジをしたいという気持ちはあるから、いずれ再挑戦しようとは思っていた。


「まずはアメリカのランキングで一位を取るところからでしょうね」


 いきなり大きく出たな。


 いろんな国のアーティストが集まるアメリカでトップを取るというのは並大抵のことではない。

 しかもそれが「まずは」って。五代さんの目はどこを見てるんだろうか。


「アメリカの次はヨーロッパ。そしてアフリカ中東インドにアジア。ロシアと南米まで行けば全大陸制覇ですよ!」


 うわぁ。

 ヨーロッパ、アジア、ロシアまでは分かるけど、中東やアフリカまで入ってくると言語を覚えるのが大変だ。


「南極も大陸ですよ」


「ペンギン相手にコンサートするんですか?」


「冗談です。それにしても全大陸制覇って。トレジャーハンターみたいですね」


「そうなんです! 人々の熱狂的な視線と声援というお宝を世界各国で集めて回るゆきさんは、ミュージシャンのインディージョーンズ!」


 なんか興奮してるけど。

 上手いこと言ってるつもりなんだろうか。


 でも世界を飛び回ることになったらいよいよみんなが寂しがるよなぁ……。


「お姉さんたちが心配ですか?」


 あれ、顔に出てたかな。


「日本縦断だけでもあんなにも心配そうな顔で見送っていたんですから。世界に出るとなればもっと期間は延びますし、それこそ一緒に連れて行かないと納得してくれないかもしれませんね」


 そういえば見られてたんだった。


 みんなを一緒に連れていくかぁ。

 それぞれ仕事もしてるし、ひよりも就職先が決まったばかり。現実的には難しい問題だよなぁ。


「お姉さん達全員雇いますか!」


「えぇ!?」


 また突拍子もないこと言い出したよ、この人は。


「そんなこと五代さんの会社が許すはずもないでしょう」


 芸能プロダクションが家族丸ごと雇用するなんて聞いたこともないぞ。まずもって上層部からゴーサインが出るとは思えない。


「違います違います。ゆきさんの本業は配信者でしょう? そっちを法人化して、ゆきさん自身が雇ってあげるんですよ」


 え、本気で言ってます?

 それってつまりみんなの人生を背負うってことであって……。


「ゆきさんの収入ならば十分可能だと思いますし、法人化するのは税金対策にもなるんですよ。お姉さん方の給料も経費になりますし。お金は使ってなんぼ。将来を見据えて貯蓄するのもいいですけど、そうやって有効活用すればみんなハッピーじゃないですか」


 確かに収入の半分を税金で持っていかれていることを考えたら、みんなに給料として渡している方がいいだろうなとは思う。


「でもみんな自分の職業に誇りを持って働いてますし、わたしの都合で退職させるというのも……」


「何言ってるんですか。みなさんの職業ってどう考えてもゆきさんの役に立てたらというものばかりじゃないですか」


 より姉は服飾デザイン。かの姉は映像編集。あか姉はカメラマン。ひよりは商社でプロモーション。

 ほんとだ!

 わたしの活動ってみんながいれば完結してしまう!


「大好きな人と一緒にいれて、三食美味しい食事付き。そんないい職場がありますか? みなさん正妻なんですし、妻を養うという意味でもベストな選択かと」


 正妻とか言うのやめてください。

 しかも四人。


「あ、わたしは愛人枠で大丈夫ですから」


 愛人なんて作らねーよ!

 まったく、どこまで本気なんだか。


「愛人一号は業界へのパイプ役ですね」


 一号を名乗りだしたよ。


「できれば二号三号は同じ職業の人がいいですね。歌やダンスのユニットを組めますし」


 愛人にする必要性ないだろ!

 関係者全員に手を出すとかとんだクズやろーだよ!


「まぁ一号以外は冗談ですけど、バックダンサーがいるとパフォーマンスにもっと広がりが出ますよ」


 一号は冗談じゃないのかよ。

 でも確かに考えたことはある。ひよりと踊った時もそうだし、文香と穂香、三人で踊った時も楽しいと同時に表現力は広がるし迫力が出るんだよね。


「だけどバックダンサーなんて簡単に集まるもんじゃないでしょ?」


「ノンノンノン。ゆきさんはご自分の人気をもっと自覚した方がいいですよ。募集したらオーディションを開く必要があるほど集まるに決まってます」


 そんなに?

 なんだかにわかには信じ難いな。


「バックダンサーの話はおいおいにしても、お姉さん方の終身雇用については相談してみてはいかがですか? これぞホントの永久就職ですね」


 なんだかギャグがオヤジっぽい。

 五代さんももうすぐアラサーだもんなぁ。


「何考えてるんですか?」

「いえ何も」


 それにしても、みんなと一緒に配信活動かぁ。考えるだけでも楽しそうだけど、そんなこと本当にできるんだろうか。



 北海道公演の終了後、数日だけゆっくりして次の名古屋へと移動。


 陸路だと新幹線を使っても十時間以上、車なら二十時間もかかるので、当然のことながら飛行機を使用。

 五代さんにずっと手をつないでもらっていたものの……。


「……」


「大丈夫ですか? 真っ青ですよ?」


 全然だいじょばない。


 正直言ってお化けと同じくらい怖いかもしれない。

 ……いや、やっぱりお化けの方が怖いかな。


 同じ恐怖心だけど、飛行機は下りてしまえば割と短時間で復活できるもん。お化けは後を引くからタチが悪い。


「それじゃホテルに移動しますよ」


 平然とした五代さんに手を引かれて移動を促される。引率の先生に先導してもらう園児みたいだけど、まだ膝が笑ってるので仕方ない。


 名古屋での公演はドームを抑えることが出来なかった都合上、1万人規模のアリーナ。公演日数は三日間だ。

 次の大阪も最後の博多もすでにチケットは完売しているので、今回のツアーは大成功と言っていいだろう。

 タクシーで移動中、五代さんが突然わたしに頭を下げた。


「今回ツアーが大成功したことで社内でのわたしの株もさらに上がりましたよ。ゆきさんには感謝をしてもしきれません」


 それを言うならわたしの方だ。


 リスナーさんの前で唄うという夢は五代さんの協力がなければ実現しなかった。しかも芸能界には戻らないという条件付きで。

 インタビューくらいには応えてもいいけど、日本のテレビはそれがたとえ音楽番組だとしてもできれば遠慮したい。


 もう十分大人になったから自分を守る手段も備えているんだけど、幼少の頃に感じた印象というのはそう簡単に拭えるものではないから。


「わたしの方こそお礼を言わないといけませんよ。夢の実現に手を貸していただき、ありがとうございます」


 後部座席の狭い空間でお互いに頭を下げ合う。


 頭を上げると目が合ったので、微笑みあった。

 本当はわたしにテレビにも出て欲しいという願望があることも分かってるんだけどね。ワガママばかりいってごめんなさい。

 どうにかこの悪印象を克服する術はないものかなぁ。

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