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水の精霊 ~もっと光り輝いて~  作者: あるて
最終章 本当の姿

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第35曲 初心に帰り、果敢に挑む

「おめーらがうかうかしてる間にゆきの愛人は六号まで埋まっちまったぞ」


 より姉にチクられた。


「どういうことか」

「説明してもらえる?」


 聞くや否や詰め寄ってくる文香と穂香。

 久しぶりに見たよ阿吽の呼吸。さすがはわたしの金剛力士様。

 ちょちょ。表情が怖いよ。本当に仁王様になってるから。


「なんかね、わたしが何も関与しないままにみんなが勝手に愛人を名乗っていって、気が付いたらそんな数字になってたの」


 何を言ってるのかよく分からないけど、本当にそうなんだから他に言いようがない。


「それですでに六人も」

「さすがというかなんというか」


 感心されても困ります。


「それじゃ、七号は元副会長に譲るか」

「穂香は八号でいいの?」


「ラッキーセブンと末広がりで縁起がいいね。あははは」


 もうこうなったら笑うしかない。

 土砂災害で濁流にのみ込まれてしまったような気分だけど。


「全員を孕ませたらサッカーチームが作れるな」


 チクった本人が何を呑気なこと言ってるんだ。一人補欠じゃねーか。


「え、愛人って子供を産む権利もついてくるの?」

「その権利は是非行使したいね」


 そんなわけねーだろ。

 嫁だけでも四人いるのにその上愛人まで孕ませるとかどんなクズやろーだよ。


「二人ずつ作れば対戦もできますね」


 かの姉は何言ってんの?


「主審と副審もつく」


 あか姉まで。確かに人数的にはちょうど合うけどさ。


「絶倫だとは思っていたけど、そこまでとはね」


 いや、干からびるわ。

 ひよりはなぜ昔からわたしを絶倫と決めつけているんだろう。


「バカな事ばかり言ってると今度のコラボに二人も参加させるよ」


 かつてわたしと三人でダンスを披露したこともある二人。

 息も合ってて上出来だったんだし、もう一度あの感覚を味わうのも悪くない。いつも一人だからね。


「もうあんな風に体が動かないよ」

「寄る年波には勝てないねぇ」


 何を年寄り臭いこと言ってんの。

 二十代半ばでもう隠居気分は早すぎないか?


「体を動かせば若返るって。美容にも効果があるよ」


「何? やっぱりおばさんより若い子がいいってこと?」


 誰もそんなことは言ってません。

 なんでそんなにひがみっぽくなってんの?


「しょせんわたしらは末席だしねぇ」


 序列にこだわってた。

 わたしが決めたわけでもないし、承服したわけでもないんだけど。

 どうしてみんなわたしの言葉は聞いてくれないのだろう。


「わたしは奥さん一筋だから、みんなとはお友達にしかなれないってば」


「四人も奥さんいてるのに一筋か」

「一筋というか四筋だね」


 やかましー。

 四人の間に差なんてないんだから気持ち的には一筋で合ってるの。


「四筋がイケるなら十二筋もアリじゃない?」


 ねーよ。

 なんだその馬鹿げた数字は。なんか人体の一部にありそうな名称だな。


「でも一筋って言ってるくせになんで愛人がポコポコ増えていくの?」


 増えた当人がそれを聞くか。

 もとはと言えば五代さんが「心の愛人」とかいう新ジャンルを創設したのが始まりなんだよなぁ。

 そのことを説明すると「なるほど!」と感心した様子の二人。そこ感心するようなところ?

 結局「心の愛人」なら何も問題ないということで、しっかりと愛人登録を済ませて帰る二人だった。なんだよ愛人登録って。



 そして待ちかねていたコラボ当日。

 さすが大人気配信者五人が大々的に宣伝もして臨んだコラボだけに、当日の同接数は五人合わせると今までの記録を塗り替えるような数字をたたき出していた。


「こうやって集まると、前にコラボをしたのがつい先日の事のように思えてくるね」


 期間が空いているのを感じさせないようなテンポの良いやり取りに、懐かしいというよりも本来いるべき場所に帰ってきたような気分になる。元々配信者として始めたのだから、こうやって古巣に戻ってくるとやはりいろいろと思い出すことがある。

 かつてのひたむきだった思いとか、まだそんなに数も多くなくてすごく身近だったリスナーさんとの距離感とか。

 今となっては全てのコメントを拾うことはできないけど、それでも時折コメント欄に書かれた内容から話を広げていくのがすごく楽しい。


「相変わらずこの速度で流れていくコメントが見えるのすごいね」


 いくつか拾って話すと、きらりさんが感嘆の声を上げた。


「でも前みたいに全てのコメントを記憶しておくなんてことできなくなったけどね」


「いや、見えるだけでも相当ですよぉ。どんな動体視力してるんですか」

「以前は記憶できていたというのが恐ろしい」


 雪乃ちゃんとレイラさんからも呆れたような言葉が出てくる。

 いわゆるカメラアイってやつだから普通の人には到底できないことなんだけどね。


「どうせゆきさんのことだから、申し訳ないとか思ってるんでしょ。そりゃコメントを全部見てもらえるのはリスナーさんにとっては嬉しいことだけど、そんなことより今ゆきさんがこうやって元気に立っていることの方が大事なんだからね」


 紡さんに図星をつかれてしまった。申し訳ない気持ちを寂しいなっていう思いがあったんだけど、彼女の言うとおりだ。

 そんな普通の人にはない特殊能力を持っていることより、みんなの前で元気に話し、歌声を届けることが出来る。そのことに感謝しないといけないな。

 やっぱり原点に立ち返るというのは大切なんだと思う。ある程度成長してから原点に戻ることで、当時は見えなかったものまで見えることがある。それを糧にもっと高みを目指すことが出来るだろう。

 変わらぬ友情を示し続けてくれる人達にも感謝をしないといけない。

 支えてくれた人がいたから今のわたしがいる。

 忘れることが出来るようになって命をつないだわたしだけど、決して忘れてはいけないことがある。そんなことを思い起こさせてくれるコラボになった。


 それからはきらりさん達だけじゃなく、同じ会社に所属する新人さん達とも積極的にコラボをするようにした。

 この世界に入ってきてまだ間もない人達とのコラボはとても新鮮で、今まで見落としていた大切なことを気づかせてくれることもある。それはとてもいい刺激になって、ミュージシャンという表現者の活動にも一層深みが加わっていくような気がする。

 クリエイターの端くれとして流行に乗るだけでない、自ら流行を作りだし、さらに上の流行とは関係のない時代が変わっても受け継がれる普遍的なものを作れるよう、より一層精進していこうと思う。

 音楽は直接心を揺さぶる。それは古今東西変わらない現実なのだから。



 精力的に活動しているうちに一年が過ぎ、アメリカへと殴り込みをかける日がやってきた。

 以前は銃弾を弾くという誰もが驚くパフォーマンスと共にわたしという存在をアメリカの人々の記憶に植え付けたけど、今度はわたしの歌とダンスだけで、記憶だけでなく心にまで刻み込む番だ。


 搭乗手続きを済ませ、まっすぐに前を見て歩くわたしの瞳に宿るのはチャレンジャーとしての冒険心と、培ってきたものに基づく自信にあふれている。今なら何も怖い物なんてない! 待ってろアメリカ!


 タラップを通って機内に移り、座席に座ってシートベルトを締めた。機内の表示が切り替わり、飛行機が滑走路に向けて動いていく。

 滑走路の端で一度止まると、急激な加速で翼に風を受けた巨大な鉄の鳥は大空へと舞い上がる。


「ひぃぃぃぃぃ!」


 飛行機怖いの忘れてた……。

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