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水の精霊 ~もっと光り輝いて~  作者: あるて
第1章 光が消えることはない

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3/11

第2曲 弱点が増えることもある

「相変わらず仲良いですね」


 グレーのタイトスーツにサングラスでばっちり決めた五代さんが、口元を緩ませてそう言って来た。


「見てたんですか?」


「えぇ。元気そうに出てくるゆきさんの後ろで、笑顔ながらも心配そうにしている四人の健気な姿に心を打たれました」


 あの一瞬でそんなところまで見てるとは。

 出来る女は恐ろしい。


「そりゃ一か月半も家を空けるなんて入院してた時以来ですから。寂しく思うのもしかたないんじゃないですか?」


「愛されてますねぇ」


 うっさい。ニヤニヤすんな。


「それにしても車で来るとは思いませんでしたよ。北海道まで運転するんですか?」


「まさか。さすがに飛行機を予約してありますよ。これは空港で乗り捨てられるレンタカーです」


 なるほど。北海道と言えど遠いし広いし、さすがに車では行けないか。北海道でっかいどー。

 考えてみたら飛行機に乗るのなんてアメリカから帰った時以来だな。


「それにしても、ハンドルを握る姿が異様に様になってますね」


「かっこいいでしょ」


 わたしよりも男前なのがちょっと癪に障るけど、確かによく似合っている。


「普段から琴音ちゃんの送迎とかもしてるんですか?」


「そんなことありませんよ。琴音には琴音のマネージャーがいますから」


 そういえばこの人プロデューサーだった。


「昔はわたしもマネージャーをしてましたけどね。ただプロデューサーに昇格してからマネジメントからは遠ざかっていました」


 マネージャーとして現場での経験を通じて制作プロセスの理解を深め、クライアントやスタッフと太いコネクションを築いたり、担当アイドルの売り込みの際に企画や演出の才能を発揮していないとなかなかプロデューサーへと昇格することはないらしい。


 五代さんがいくつなのかは知らないけれど、この若さで昇格してるということはやはり見た目通りに相当出来る人なんだろう。


「昔は、ってことは今他に誰も担当してないんですか?」


「してませんよ。わたしはゆきさん一筋ですから」


 急に一筋とか言うんじゃないよ。

 照れるでしょうが。


「だけどプロデューサー業務と両立させるのも大変そうですね」


「そこはわたしの趣味の範疇ですから。ゆきさんを上層部に売り込む際、わたしにマネージャーをさせないと紹介しないって脅しましたから」


 愉快そうに言ってるけど、上層部を脅迫するなんて相当な胆力の持ち主だよな。


「そこまでわたしの担当をしたかったんですか?」

「そりゃもちろん!」


 むち打ち患者のように体ごとこちらを向いてくる五代さん。

 運転中! 危ないってば!


「ゆきさんがVtuberデビューしたときからずっと追いかけてきたんですよ! 素顔をさらした時にはすぐピーノちゃんだって気付きましたとも!」


 明らかにより姉よりも年上な五代さんが子供番組のピーノちゃんを見ていたとは。

 放送当時は中学生以上だよね。


 まさか成人していて自分の子供と見ていたとか……。


「何考えてるんですか?」

「いえ何も。危ないんで前見てください」


 人のプライベートに首を突っ込むのは良くないな、うん。


「ちなみにわたしゆきさんと五歳しか変わりませんよ」


 まさかの同年代だった! ごめんなさい、さすがに子持ちなわけありませんね。


「信じられないといった様子ですね。わたしそんなに老けてます?」


「いえいえとんでもない! すごくカッコよくて社会人としてしっかりしてるから、ちょっと勘違いしてただけです!」


 慌ててフォローしたけど大丈夫かな。こういう場面に慣れていないから少し慌ててしまったかも。


「ふふふ。カッコいいですか。ありがとうございます」


 よかった、機嫌を直してくれたみたいだ。


「で、いくつだと思ってたんですか?」


 直ってなかった。

 笑顔に潜んだ圧が怖い。


「えと……プラステンくらい……」


 何の誤魔化しにもならないけれど、英語で少しはニュアンスが柔らかくなったりしないだろうか……。


 ゴンッ!


 ハンドルに頭をぶつける音。

 全然柔らかくなってなかったみたいです。


「十五歳も……。アラフォー手前……」


「いえいえ! わたしの子役時代を知ってるから年齢的に合わないかなって思っただけで! 子供さんと一緒に見てたのかな、なんて……」

「わたしまだ独身です!」

「ごめんなさいぃぃ!」


 怒られてしまった。やっぱり女性は若く言った方がいいことを学びました。



「さ、到着しましたよ。ゆきさんって飛行機大丈夫ですか?」


 レンタカー屋さんに車を返し、キャリーバッグを引きながら五代さんが尋ねてきた。


「もちろんです。わたし帰国子女ですよ?」


 ひよりは行きも帰りも大変だったけど。ちゃんと科学的に飛べることが立証されてるんだから何も怖がることなんてないのに。高所恐怖症の考えることはよく分かんない。


「そうでしたね。それじゃ搭乗手続きを始めましょう」


 そう言って先に歩く五代さん。

 搭乗手続きと言っても彼女が全部やってくれたのでわたしがやることは何もなかった。


 てきぱきと手続きを進めていく姿はまさにキャリアウーマンという言葉がピッタリで、あまりのカッコよさに感心してしまう。

 あっという間に全部終わって、いよいよフライトの時間。

 座席についてシートベルトを締めれば後は離陸を待つのみだ。


「そんなに時間はかかりませんが、眠っていてもいいですよ」


「しっかり睡眠は取ってあるので大丈夫です。ありがとうございます」


 やがて飛行機が誘導路を移動し、滑走路へとスタンバイ。

 動き出したかと思ったら徐々に速度を上げていった。


 アレ? 今ふわって……。


「……」


「どうしたんですか? 急に黙りこくって」


 いや、大丈夫。


「飛行機にかかる揚力とは主翼が空気の流れを下向きに曲げた反作用と翼の上下の圧力差によって生じる機体を上空に持ち上げる力……」


「何をブツブツいってるんですか?」


「最新のジャンボジェット機の総重量は447トンで飛行速度は約950km毎時だから得られる揚力は……」


「ゆきさーん」


 うん、どれだけ考えても飛行機が飛ぶのはおかしくない。

 なのに、なんなんだこの不安感は!


「五代さん……。わたしちょっと怖いかも」


「あぁ。ゆきさんくらいの歳だと急にそうなることもあるらしいですね。大丈夫ですか?」


 それはわたしも知っている。二十二歳から二十四歳くらいの間でよく発生するパニック障害。

 でもまさかそれが自分に襲い掛かるとは夢にも思っていませんでした。


「だ、大丈夫ですよぉ。こう見えてもちゃんと男の子ですから」


「顔が青いですよ」


 だってぇ! 怖いんだもん!

 これじゃひよりのことを言えなくなっちゃうよぉ。


「五代さん、お願いがあります」


「なんでしょう?」


「どうかこのことはご内密に。特にうちの家族には!」


 奴らに知られたら絶対いじくりまわされるに決まってる! 特により姉!


「これはこれは。意外なところでゆきさんの弱味を握ることが出来ました」


 く、この人にも知られてはいけなかったのか。

 でも大人なんだから変な事言ったりしないよね?


「くふふ。どんなことを要求しようかな」


 笑い方が悪人だ! 何を要求されるのか怖い……。


「ぜ、全然平気ですから!」


「震えてますけど?」

「武者震いです!」


 何に対してなのかは聞かないで。考える余裕ないから。


「それじゃ、わたしはひと眠りしますので」


 おおい! こんな状態のわたしを残して寝るのかよ!


「男の子なんだから平気ですよね?」


「あにょ……。手……つないでてもいいですか?」


「もちろん! あぁ、こんな可憐なゆきさん、録画しておきたい」


「やめてください……」



 結局わたしは二時間足らずのフライト時間、ずっと冷や汗をかきながら過ごすことになった。

 五代さんはスヤスヤ眠っていたけれど。

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