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水の精霊 ~もっと光り輝いて~  作者: あるて
第1章 光が消えることはない

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第1曲 約束は守るもの

 挿絵(By みてみん)


 ハッピーエンドを迎えたからと言って、人生という名の物語が終わることはない。


 * * *


 わたし史上初のコンサート。


 アーティスト憧れの聖地でデビューを飾ることが出来たけど、ツアーはそこで終わりじゃない。

 東京の次は北海道。次に名古屋、大阪。最後は福岡で締める日本縦断コンサートツアーはこれからだ。


「相変わらず慌ただしいやつだな。リハビリが済んだと思ったらもう家を空けるのかよ」


「そんなこと言わないでよ。寂しい想いをさせるのは悪いと思ってるからさ」


 北海道に立つ前日の朝食の席。より姉が拗ねたような顔で不満を漏らしたので、思わず苦笑いをしてしまった。


「バ、バカ! 寂しいとかそんなんじゃねーよ! ただいくらリハビリが終わったと言っても少し心配なだけだ!」


 ムキになって否定するのはいいけれど、そんな真っ赤な顔をしてたら意味がないよ。


「ぷぷ。より姉寂しいんだ~」


 案の定ひよりに突っ込まれてるし。


「違うって言ってんだろ!」

「ムキになるのが答え」


 あか姉にまで。


「なんだとぉ! おまえら少しは長女を敬いやがれ!」


「長女ですけど、ゆきちゃんの正妻という立場では同列ですよ」


 かの姉がトドメをさす。


「……」


 より姉、撃沈。

 なんでもいいけど、その正妻という呼称はやめて欲しいな。


「みんないつからわたしのお嫁さんになったのさ」


「何言ってんだ。あれだけ固く将来を誓い合ったんだから、そんなのもう事実婚と変わらんだろ」


 事実婚という響きがこれまた……。


「四人も正妻がいるとか、それだけ聞いたらいかにもクズっぽいし。それに全員と婚姻届けを出せるわけじゃないでしょ」


 みんなと添い遂げることに関して異議があるわけではない。

 だけど実際に結婚するわけではない以上、正妻というのは少し違う気もする。


「なんだ、そんなことにこだわってるの? あんなの所詮紙切れじゃん」


「そうだな。形なんてどうでもいいんだよ。要は中身があればそれでいい。元々日本のルールからは逸脱してるんだから、今更そこだけルール通りにする必要もねーだろ」


 確かに。始まりからして特異なんだから、型にはまる必要はないのかも。


「それで、ウェディングドレスはいつ着せてくれるんですか?」


 形はどうでもいいんじゃなかったの?


「より姉、急がないと」

「どういう意味だ、茜」


 より姉も二十七だもんなぁ。


「ゆきも納得した顔してんじゃねー! あたしはまだまだ若いっての!」


 若いと言い張る時点でどうかと思うんだけどね。女性に年齢の話は失礼だから掘り下げないけど。


「それじゃ、より姉が最初にウェディングドレスを着るとして、後の順番は? やっぱり年齢順かな?」


 毎日挙式するわけにもいかないから、ある程度の期間を空けるとしたら四人でどれくらいかかるんだろ。


「何言ってんだ。そんなのみんなまとめてでいいだろ」

「そうですね。費用ももったいないですし」

「来てもらう人達も大変」

「披露宴を4回もするとか、何度も離婚してるみたいでイヤだよ」


 全員一緒!? しかも披露宴までする気だし。来てくれた人みんなおったまげるだろうなぁ。


「花嫁が五人も並んだら壮観だろうね」


 は? 今なんつった? 五人って聞こえた気がするんだけど。


「みんなのウェディングドレスも見たい」


「でもやっぱりゆきちゃんが一番きれいなんでしょうね」


 待て待て。

 なんでわたしまで花嫁になってるんだ。新郎はどうした、新郎は。


「わたしはタキシードでいいのでは?」


「何言ってんだ。主役はゆきなのに、着飾らなくてどうすんだよ」


 これをおかしいと思うのはわたしだけなんだろうか。自分の中の常識というものに自信がなくなってきたぞ。


「新郎は?」


「ゆきちゃんが両方兼ねることになるね」


 一人二役やれってか!


「ゆきのカッコいい姿と綺麗な姿、両方拝める」


 一粒で二度美味しいみたいな感じだね。

 ここまでみんなの中ではっきりとビジョンが固まっているということは、どれだけ抵抗したところで無駄なんだろうなぁ。


「でも披露宴までするんだったら、来てくれる人のことも考えないと。みんなビックリしちゃうんじゃない?」


 それでも一応、ちょっとだけ。


「何言ってんだ。ゆきのことを知ってる人なら誰も違和感持ったりしねーよ」


 そこは持ってほしいなぁ。


「わたしの友人はそうかもだけど、みんなの友達は驚くんじゃない?」


「仲のいい友人はみんな理解してる」


 あか姉の言葉にみんな一様にうなずいている。

 やっぱり無駄な足掻きだったか。


 すっかり乙女化が進行してしまっていることを自覚してるから、今更女性の衣装を着ることに不満があるわけじゃないんだけど。

 さすがにウェディングドレスはやりすぎかなと思う面もあったり。

 だけどみんなノリノリだし、流れに身を任せるしかないか。


「それじゃ、ゆきのツアーが終わったら式場探しを始めるか! 準備期間は一年くらいかかるらしいから早くしないとな」

「より姉の賞味期限的に?」

「うっさいぞ、ひより!」


 今日も我が家の食卓は平和です。




「それじゃ、行ってくるね」


 玄関でキャリーバッグのハンドルを掴んで振り返る。そこには愛しい面々が、少しだけ表情を曇らせている。


「終わったらすぐに帰ってきてね。寄り道したらイヤだよ」


 中でもひよりは特に寂しそう。


「時間があったらついていきたい所なんだけどな」


 今ではひより以外みんな仕事をしているから、長期のツアーについてくるなどは不可能だ。

 ちなみにかの姉は動画編集技術を活かしてプロダクション会社に、あか姉はテレビ局に就職している。


 ひよりはというと、お父さんの勧めもあって両親が働く商社の面接を受け、無事に内定をもらうことができた。

 だからもう就職活動の必要もなく、あとは卒論だけなのでついてこようと思えばできる。だけどそれはさすがに申し訳ないということで、みんなと一緒にお留守番をすることになった。


 家にいる時間が今は一番長いので、わたしがいなくなると一人ぼっちになるのが寂しいんだろう。


「ツアーが終わるまで四十日あるけど、毎日ちゃんと電話するから。ノートパソコンも持っていくから、ホテルではビデオ通話もできるよ」


「うん、毎日顔みたい」


 しょんぼりとした表情のひより。

 その頭をそっと撫でつけ、優しくキスをした。


「そんな顔しないで。わたしの夢の実現なんだから、ひよりにも応援してほしいな」


「うん……。わかった。ごめんね、せっかくゆきちゃんの晴れ舞台なのに。コンサートが成功するように応援するよ。だから……毎日顔を見せてね」


 寂し気な色は完全には消えないものの、ようやく笑顔を見せてくれた。

 応援したい気持ちも持っているのは分かってるんだよ。だけどどうしても寂しさが勝っちゃうんだよね。


「ちゃんと毎日連絡する。ツアーが終わったらすぐに帰ってくる。約束ね」


 ひよりと指切り。


「わたしが約束を守るのは知ってるでしょ。少しは安心した?」


 その言葉で思い出したのか、ひよりの顔がさっきよりも明るくなった。


「うん! ゆきちゃんは約束通り戻ってきてくれたもんね。コンサートで全力を出せるよう、精いっぱい頑張ってきて」


 今度はひよりの方からキスをしてきた。

 いつもの笑顔。

 そう、わたしはこの笑顔があるから頑張ることが出来るんだ。


「ほら、みんなも約束」


 それまで黙って見ていた三人とも指切り。そのたびに指を絡めたままキスをしていく。

 みんなが笑顔になるのを見届けた時、玄関先に車の到着する音がした。五代さんが迎えに来てくれたのだろう。


「それじゃ、お迎えも来たしそろそろ行くね。それじゃ、いってきます!」


 玄関の扉を開け、外へ出ようとするわたしに愛しい四人の「いってらっしゃい」がついてきた。その元気な声がわたしの背中を押してくれる。

 よし、もう大丈夫。


 

 まだ見ぬ観衆の顔と声を思い浮かべ、日本を縦断するための一歩を踏み出した。

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