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水の精霊 ~もっと光り輝いて~  作者: あるて
第3章 貴方だけのわたしでいさせて

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第27曲 いろんな意味で特別な日

 今日はわたしと依子さんの誕生日パーティーです。

 昼間は前の職場で頼まれていたゆきちゃんの件のお仕事があって出かけていたのですが、今頃ゆきちゃんはわたし達のために腕を振るって料理を作ってくれていることでしょう。


 その愛情がいっぱい込められた数々の絶品の品のことを考えると今からもう楽しみで仕方ありません。

 味が美味しいのはもちろんですが、わたし達が美味しいと言った時のゆきちゃんの嬉しそうな顔が可愛くて、もうたまらないんです。


 でもそれ以上に嬉しいのは、心からわたし達の誕生日を祝ってくれているのが伝わってくることでしょうか。

 本当に楽しそうに料理を作る姿。

 普段のお仕事が忙しいせいで疲れているはずなのに、今日も朝早くから起きて仕込みをしていました。

 そして手の込んだ飾りつけも本当の心が籠っていて、とても丁寧に飾ってくれているんです。

 元々手先の器用な人ですから、一生懸命作ってくれたであろう飾りは本当に芸術物です。

 わたしにとってはラオコーンの群像にも引けをとりませんとも。


 ようやく用事も終わり、愛するゆきちゃんの待つ自宅へと戻ってきました。わたし自身が待ちかねていましたとも。


「ただいまです」


 玄関で靴を確認すると、依子さんが先に帰っているようです。ゆきちゃんと二人きりになれるチャンスかと思っていたので少しだけ残念です。

 だけど、ここでわたしの野次馬根性が頭をもたげてきてしまいました。依子さんはゆきちゃんと二人きりになったらどんなことをしているのでしょう。


 そう思ってそっとリビングを覗いてみたら……あらあら。


 さすが大胆な依子さん。ゆきちゃんに後ろから抱き着き、そのままキスをしています。

 ずいぶん濃厚なキスですね。なんだか羨ましくなってきました。

 じっと見ていると依子さんがわたしに気付きましたが、ゆきちゃんのそばからどく気配はありません。

 それどころか笑顔で挨拶をしてきました。


「おかえり」


 なんとも不敵な笑顔です。


「ただいまです。そんなことより依子さん、二人きりですっかりゆきちゃんを堪能したでしょう。そろそろ変わってもらえますか?」


 わたしはゆきちゃんの正面に回り込み、ゆきちゃんを押し倒しました。


「ひゃあ!」


 ゆきちゃんは驚いた声を出していますが、それだけで終わりじゃありませんよ。

 仰向けにひっくり返ったゆきちゃんの上にまたがり、馬乗り状態。


 挿絵(By みてみん)


 これにはさすがに驚いた表情の依子さん。自分でもずいぶん大胆な事をしているのは自覚していますが、あんな濃厚なキスシーンを見せつけた二人が悪いんですよ。


 そしてそのまま体を前に傾け、覆いかぶさるようにその柔らかな唇を塞いであげました。

 ゆきちゃんの甘い香りが鼻腔をくすぐり、幸せな気持ちが胸を満たしていきます。

 これ以上ないほどの多幸感に浸っていると、玄関の方で音がしました。誰かが帰ってきたのでしょう。

 でも関係ありません。そのままキス続行です。

 なんだかゆきちゃんがジタバタしていますが、もう少しだけジッとしててもらえますか。


「ただいま~……ってかの姉! ズルいー!」

「また抜け駆け」


 あらあら。茜とひよりちゃん両方とも帰ってきたんですね。

 仕方ないのでそろそろゆきちゃんを解放してあげましょう。


「ぷはぁ。大変結構なお点前でした」


「わたしはお茶じゃないよ」


 ゆきちゃんが呆れたような顔をしていますが、そうとしか言えないほど至福の時間でしたから。


「かの姉ばっかりズルいよー」


「わたしが帰ってきたときには依子さんもしていましたよ」


「あ、チクりやがったな」


 わたし達がそんなやりとりをしていると、やれやれと言った表情でゆきちゃんが立ち上がります。


「今日はより姉とかの姉、二人の誕生日パーティーだからね。少しくらいは特別扱いしてもいいでしょ」


 さすがゆきちゃん、妹二人が反論できない理由をしっかりと考えているなんて。

 そんなにわたし達とキスがしたかったんですね。


「なんだかかの姉が都合のいい解釈をしてそうだけど、わたしは二人に襲われた側だからね。誕生日だからいいけどね」


 確かにそれが事実です。依子さんは知りませんが、わたしに至っては押し倒した上に馬乗りでしたからね。

 でもいいんです。なんといっても今日の主役はわたし達ですから。

 いわゆる女王様というやつですね。え、違いますか?

 呼称はどうでもいいとして、絶対権力者であることには間違いがありませんから、今日はめいっぱいゆきちゃんに甘やかしてもらいましょう。


「それじゃ、みんなも帰ってきたことだし、パーティーの準備を始めるね」

「わたしも手伝う―!」

「わたしも」

「より姉とかの姉はゆっくりしててね」


 先に釘を刺されてしまいました。ただ待ってるだけというのも退屈なので、手伝うふりをしてゆきちゃんのそばにいたかったのですが。仕方ないので依子さんとお話でもしていましょうか。


「依子さん、ゆきちゃんとは何秒ほどキスしてたんですか?」


「唐突に何聞いてんだよ。そんなのいちいち数えてる奴いるのか?」


 わたしは数えてますけど。普通そんなものじゃないんでしょうか。

 いつか十分くらいキスし続けたいと思って徐々に記録を伸ばしていってるのですが。

 そんなことも考えないなんて、依子さんは欲がないんですね。


「あー、楓乃子なら数えてそうだな。ちなみに今日は何秒だったんだ?」

「今日は十五秒でした」


「即答かよ。それにしてもけっこう長い間してたように見えたけど、意外と短いものなんだな」


「楽しい時間はあっという間に過ぎると言いますけど、キスの時間だけは長く感じてしまうんですよね」


「やっぱりどこかに照れがあるからじゃねーか?」

「そんなものありません」


「また即答かよ。まぁ楓乃子らしいと言えばらしいけど」


 わたしらしいというのはどういうことでしょうか。自分で考えてもよく分かりません。

 わたしはただゆきちゃんへの愛情に忠実に動いているだけだというのに。


「ちなみに目標は何秒なんだ?」

「十分です」

「秒ですらないのかよ。そんなにキスしてたら窒息するぞ」


「ちゃんと息継ぎはしますよ。休憩を挟みながらの十分でも可です」


 いくらなんでも十分間唇をくっつけたままだと腫れあがってしまいそうですからね。

 それでもわたしは一向にかまいませんけどね。


「できたよー」


 他愛ない話をしているうちに準備が整ったようです。さすがゆきちゃん、手際が良いです。

 椅子に座り、豪華な料理が並べられた食卓に目を瞠ります。

 わたしと依子さんの好みを完全に把握した献立。わたしの大好きな肉団子甘酢掛けもたくさんあります。

 茜も好きなのでいつも取り合いになるのですが、これだけあれば争いは起きないでしょう。


「それじゃ、より姉、かの姉、お誕生日おめでとうございます!」

「「おめでとー!」」


 あか姉とひよりちゃんも一緒になってお祝いの言葉。

 誕生日恒例のバースデーソングを歌い、わたしと依子さんのために作られた二つのホールケーキのろうそくをそれぞれ吹き消しました。


 それにしてもケーキを二つも作る必要があるのかと毎年思うのですが、これだけの料理があるにもかかわらずケーキが残らないのがいつも不思議です。ケーキの大半を一人で平らげてしまうゆきちゃんの胃袋はどうなっているんでしょうね。 


 あと数か月で人生最大のイベントも待っていますし、今年の誕生日は忘れられないものになりそうですね。

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