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水の精霊 ~もっと光り輝いて~  作者: あるて
第3章 貴方だけのわたしでいさせて

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第26曲 気持ち溢れるバースデイ

 芸能界の大御所からある意味のお墨付きをもらったことによって、わたしの元にはさらにたくさんのオファーが舞い込んでくるようになった。それを選別する五代さんも大忙しだろう。

 ひよりも手伝っているけれど、それでもスケジュールを詰めるのに相当苦労しているようだ。


 ほとんどが音楽番組なんだけど、中にはドラマに出てくれないかという話もあって。思わず笑ってしまった。

「ピーノちゃん」は確かに歌とダンスは上手かったけど、台本読みは死ぬほど苦手だったのを知らないのかな。

 言っとくけど大根役者なんてものじゃねーぞ。

 棒読みでもいいなら出てもいいけど。


 でもテレビへ出るようになって、いいこともあった。

 旅番組のオファーが来て、仕事で堂々と旅行に行けたりすることもあるからだ。


 うちの姉妹たちはスタッフ扱いなので当然同行。

 撮影をしながらだけど、美味しいものを食べて温泉にも浸かって、観光地を巡れるのはテレビならではの役得だ。


 タオルを巻いているとはいえ、温泉に浸かる姿を撮影されるのは恥ずかしいし、姉妹達も複雑そうな表情をしていたけど。

 だけどわたしが温泉に浸かる回は視聴者から人気だということで、たびたびお声がかかる。男性視聴者に人気があるというのが少し引っかかるけど。性癖は正常に保てよ日本男児。



 だけどやっぱり出演して一番楽しいのは音楽番組だ。昔に比べてずいぶん減ったとはいえ、やはり音楽というのはどの世代にも人気があって、たくさんのミュージシャンがいる。そういったプロのミュージシャンと交流できて、生のパフォーマンスを間近で見れるというのはとても勉強になる。


 プロにはアマチュアとは一味違う技術やこだわりなんかもあって、だからといって自分だけのものだと秘密にすることなくいろんなテクニックを惜しげもなく披露してくれる。

 仲良くなったバンドの打ち上げに誘われることもけっこう増えた。


「ほらーゆきちゃんもどんどん飲みなよー」


 そう言ってお酒を勧められるのもよくあることだ。


「家では姉妹たちが待っているので、あまり酔っぱらって帰ると怒られるんですよ」


 わたしが姉妹四人と婚約しているのは周知の事実なので、そう言って嗜む程度に済ませようとするんだけど、そうすると別の手で攻めてくる。


「これ、これなら少し飲むだけで酔えるから!」


 どうして酔わせようとするのか分からないけど、やたらとキツイお酒を勧めてくるのだ。

 わたしはそんなにお酒が強くないので、そういうのも丁重にお断りしているのだけど。


 そのことを姉妹に話したら、絶対に酔わないようにときつく注意されてしまった。

 えぇぇ? もしかしてそういう意図があったってこと?

 にわかには信じられなかったけど、その様子を見たみんながため息をついていたので、大人しく従っていた方が良さそうだ。


 

 こうしてテレビ出演も軌道に乗り始め、交友関係も広くなってきた。かつての嫌な思い出も薄らいで、テレビそのものに対する嫌悪感も相当軽減されたようだ。ネガティブな感情がしつこくこびりついていたのは、忘れることが出来ないという障害を抱えていたせいなのかもしれない。

 その時の出来事だけでなく、匂いや音、その時の感情まで精密に覚えているということは、それを追体験しているのと変わらないのだから。そういう意味でも、忘れることが出来るというのはいろいろと助かることがあるものだと思う。


 テレビに配信、モデルにCM撮影、MV撮影といろんな草鞋を履いて忙しい毎日を過ごしていると、月日はあっという間に過ぎていく。

 間もなく梅雨も明けようかという時期になると、より姉とかの姉の誕生日がやってくる。女性の年齢を言うのは失礼だからわたしは何にも言わないよ。ちなみに次の誕生日でわたしは二十五歳だ。


 七月の三日と十四日なので、間を取って毎年七夕の日に短冊やら誕生日ケーキやらをごちゃまぜで祝うのが恒例になっている。誕生日が近いと損することもあるよね。

 ちなみにあか姉とひよりも十一月で被っているので、毎年中間あたりにまとめられている。単独で祝ってもらえるのはわたしだけだ。


 今年は十一月よりも前に大きなイベントが待ち構えているんだけどね。


 二人の主役の好きなものをたくさん作り、ケーキも凝りに凝ったチョコレートケーキを作った。

 どっちも甘いものがそんなに好きじゃないからケーキはわたし達の胃袋に収まるんだけどね。

 バースデーカードを添えて、パーティーの準備も整った。


 今日は朝からみんな揃って出かけているので、一人みんなの帰りを待っている。

 後は盛り付けだけなので、ソファーでゆっくりしていると少し眠くなってきた。気合入れて早起きしたからあんまり寝れてないもんなぁ。


 * * *


「ただいまぁ」


 帰ってきたから声をかけたけど、誰からも返答はない。まだみんな帰ってきてないのかな。それにしてもゆきはいるはずなんだけどな。

 今日はあたしと楓乃子の誕生日だから、あたしらの好きなものを作って待っているものとばかり思っていた。


 疑問に思いながらリビングの扉を開けると、部屋一面の飾り付けと、テーブルの上に置かれた食器、そしてその間にあるバースデーカードが目についた。花を編み込んだ縁取りにカードが添えられている、手の込んだ作り。

 カードに書かれた綺麗な文字。


 挿絵(By みてみん)



「もう十分に毎日が幸せだよ」


 ソファ越しに見える小さな頭に向かって話しかけても、振り返らないし反応もない。


「なんだ寝てるのかよ」


 安らかな寝息を立てて眠る愛しい姿。

 この世の誰よりも大切な存在を後ろから包み込み、その温かさを感じることで安心を実感する。


 今はただ眠っているだけ。かつてのようにいつ目が覚めるのかを待っているんじゃない。

 やがて眼を覚まし、後ろから回したあたしの手に自分の手を重ねるだろう。

 失いかけたからこそ本当に大切な存在に気付くこともある。もう決して失いたくはない。

 時折もぞもぞと動くのが生きている証。


 心が苦しくなるほど愛しさが溢れそうになり、その綺麗な髪に顔を埋めた。ゆきの香り。いつもと同じのはずなのに、何度嗅いでも大きな安らぎを得ることが出来る。安らぎで涙が出そうになるなんて、そんな幸せを与えてくれるのは世の中広しといえどゆきだけだ。


「おかえり」


 予想通り、目を覚ましたゆきはあたしの腕に手を重ねてきた。

 こちらに向けた笑顔がとても愛しい。


 愛、恋、大切、永遠、幸せ。日本語というのは多様な表現方法があると言われるけど、あたしの貧相な語彙力じゃ今のこの気持ちを伝えることなんて出来やしない。


「ただいま」


 言葉の代わりに行動でこの気持ちを少しでも伝えることにする。過去も今も未来も、すべてのあたしを重ね合わせ、決して変わることのない想いを乗せた静かで情熱的な口づけ。

 ゆきもそれに応えるように、体を反転させてあたしの首に腕を回してくる。

 お互いの温もりを交換し合うかのような深いキスがあたしは大好きだ。

 ゆきの深いところまで感じられるような気がして、いつまでも離したくない。

 本当はもっと、全身で深くゆきを感じたいけれど。


「これ以上キスすると止まらなくなっちまいそうだ」


 体を離そうとすると、最後にもう一度だけ軽いキスをしてくれて。ホント、こういうところがズルいんだよなぁ。

 名残惜しさをちゃんと理解して、浸りきった想いを引き離そうとしているところに余韻を残すバードキス。


 こんなことをされたらあたしは乙女みたいに赤くなるしかないじゃねーかよ。

 もういい歳だってのによ。


「お誕生日、おめでとう。愛してるよ」


 さらに追い打ちかよ。天然ジゴロめ。


「おめでとうはみんな揃ってから言うもんじゃないのか?」


「わたしだけの言葉でお祝いを言いたかったんだよ」


 照れ隠しに憎まれ口を叩いてみるも、余裕の返しをお見舞いされた。

 ゆきはあたしのことを男前なんて言ってくれるけど、お前はそれ以上に人たらしだよ。

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