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水の精霊 ~もっと光り輝いて~  作者: あるて
第3章 貴方だけのわたしでいさせて

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第24曲 再デビュー

 アメリカでのデモンストレーションは確かに効果があった。


 本物の銃弾を弾き飛ばした動画も大いに注目されて、世界中のバラエティやニュース番組で特集が組まれているそうだ。


 そしてその後見せた歌とパフォーマンスは見るものの心を揺さぶり、「日本から訪れた本物の妖精」というキャッチコピーまでつけられ、英語圏であるイギリスを始めヨーロッパで大々的に取り上げられて認知度が格段に上がった。ヨーロッパ以外でもわたしの歌声は世界中に広まりつつある。

 おかげでチャンネル登録者数も四千万人目前だ。このままいけばギネス記録を塗り替えることも視野に入ってくるだろう。


 わたしが三曲目に英語で歌った曲は英語版日本語版共にアメリカやヨーロッパで各国語版ヒットチャートの上位三位以内に入り、他の楽曲も軒並みランクイン。

 弾丸インパクトが呼び水となり、わたしの知名度はうなぎ登り。

 みんなに怒られながらもやった甲斐はあったということだ。

 

 そのこと自体はとても喜ばしいことなんだけれど、副作用が発生してしまった。

 日本のテレビ局からの出演オファーが殺到することになってしまったのだ。

 

 今はまだ五代さんのところで止めてくれてはいるけれど、わたしもそろそろ覚悟を決める時かもしれない。

 リビングのソファーに座り、連日のように届く五代さんからの連絡メールを見てため息をついてしまう。


「今日もオファー来てるの?」


 アイスクリームを咥えたひよりが後ろからわたしのスマホを覗き込んで聞いてきた。


「うん、いつまでも断り続けるのもねぇ……ってつめた!」


 肩口にポタリと落ちた水滴に飛びあがるほど驚いた。

 ひよりのアイスが溶けてピンポイントに狙ってきたんだけど、わざとか?


「ごめんごめん、ちゃんと処理するから」


 ティッシュで拭いてくれるものと思いきや、近付いてきたのは手ではなく顔。


「ちゅっ」

「ひあ!」


 アイスを食べて冷たくなった舌はまた独特な感触で、思わず素っ頓狂な声が出た。


「何すんの。普通に拭いてくれたらいいのに」


「だってもったいないじゃん。ゆきちゃんの肌に乗ったアイス。せっかく美味しそうなものが目の前にあるのに、口もつけないのは損失だよ」


 すっげー回りくどいけど、言いたいことはなんとなく分かった。

 そのことを言うのにどうしてアイスを垂らしてきたのかは謎だけど。


「やっぱり一度くらいは出てみるべきだと思う?」


「ほーへん! ゆひひゃんのひふひょふほひへなひほ」


「何言ってるか分かんない。ちゃんと口のものを飲み込んでから話しなさいって、いつも言ってるでしょ」


「わはっは」


 口の中のアイスを咀嚼して、飲み込む音がした。さっき肩口に触れた唇をつい凝視してしまう。


「アイタタタ……」


 あれだけ口に含んでたらそうなるよね。こめかみを押さえてうずくまるひより。

 おかげで色気もくそも吹き飛んだわ。


「とにかく! ゆきちゃんはネット上だけじゃなく、お茶の間でもその実力を遺憾なく見せつけるべきなんだよ! 全国民にその存在をアピールできる、これはおいしい機会だと思うけどなぁ」


 お茶の間ってずいぶん古い表現を知ってるんだな。

 子役の頃にいつも目を輝かせてわたしの収録を見ていたひよりからすれば、もう一度テレビの向こうで活躍する姿を見たいという気持ちもあるんだろう。ほんと好きだったもんな『ピーノちゃん』


 ひよりがそこまで期待してくれているのなら、一度くらい挑戦してみてもいいかもしれない。

 業界自体が本当に嫌になって引退したからどうしても苦手意識は拭えないけど、可愛い妹のためならそんなネガティブな気持ちも克服できると思う。何よりわたしの目指す場所に行くためには、避けて通ることは難しいだろう。


 オールドメディアと呼ばれてはいるけど、依然としてその影響力は根強い。

「テレビで見たよ」と「ネットで見た」ではやはりまだ大きな差があると言わざるを得ないのだから。


 五代さんからのメールを開き、返信ボタンを押して文字を打ち込んでいく。


『今回オファーをいただいた件、お引き受けしようと思います』

『ありがとうございます!』


 秒で返事が返ってきた。

 きっとたくさん来るオファーと、さっさとテレビに出させろという上層部からの催促で困り果てていたんだろう。

 それでもわたしの気持ちを尊重して、決してせっついたりしてこなかった五代さんには本当に頭が上がらない。

 この出演を皮切りに、五代さんの負担を少しでも減らせるよう、わたしも極力協力していくことにしよう。


 ――五月某日――


 そして迎えた収録日。梅雨にはまだ早いけど、生憎の雨模様。

 五代さんが運転する車内で、窓を打ち付ける滴を何気なく眺めていた。


「やはり緊張しますか?」


 物静かなわたしが心配になったのか、気づかわし気に声をかけてくれる。

 緊張するほど気負ってはいないんだけど、どうしても気分が晴れない。まるで今日の天気のように。


「緊張って程では。いろいろ昔を思い出してしまっただけです」


 ポツリとつぶやいたその一言で、何かを察したのだろう。


「大丈夫。今はわたしがいますから。何があってもゆきさんを守ってみせますよ」


 優しいお姉さんのように微笑むと、心を見透かしたようなことを言ってくれる。

 わたしが引退した理由は非公開だから、あの時にわたしの周りを取り囲む汚い大人たちに、どれだけ嫌な思いをさせられたかなんて知る由もないのに。


「ピーノちゃんほど老若男女問わず全国民に愛されてしまうと、いろんな人が寄ってきますよね。何かあった時は必ずわたしに言ってくださいね」


 さすがこの業界でプロデューサーにまで出世しただけの事はある。

 あの時の人気ぶりを考えるだけで、わたしの置かれた状況まで推測できてしまったんだろう。


「小さい頃にはきつかった事でも、大人になればまた違った印象を抱く事もありますから。今日は肩の力を抜いて、思ったことを好きに話して来てください。後はわたしがどうにかしますから」


 わたしの発言の責任まで取るというのだから、自分のキャリアをも賭けてバックアップしてくれるつもりなのだろう。この人に任せておけば大丈夫。そう思うことが出来たわたしは気持ちを切り替えた。

 今日がわたしのテレビ再デビューだ。



 幸いなことに、今日は歌番組でもバラエティ番組でもなく、パーソナリティを相手に一対一の対談番組だ。


 お相手する方は穏やかな雰囲気ながら鋭い質問と好き嫌いのはっきりした性格で知られた、芸能界の大御所。

 オープニング曲の後に、軽快なトークで場を温める姿はさすが手馴れた大御所と言ったところ。わたしも配信をする身としてとても参考になる、つい聞き入ってしまうほどに流れるようなトークだった。


 オープニングトークが終わると本日のゲスト紹介。


『今日のゲストは、ネット上でその名を轟かせる配信者、今では世界をも股にかける存在となったYUKIさんです』


 そう、わたしは芸能人でも、タレントでもない。だけどミュージシャンだという自負はあるので、その紹介の仕方には少し引っかかってしまった。アメリカでも同じ経験をしたから何となくわかるけど、芸能界に長く君臨してきた大御所としては、わたしの存在などその程度のものなのだろう。


 いいだろう。今日でその認識を変えてやる。

 わたしの中の負けず嫌いに、また火がついた。

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