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水の精霊 ~もっと光り輝いて~  作者: あるて
第2章 一等星になりたくて

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第20曲 捲土重来

「久しぶりだねぇ」


 ひよりが感慨深そうにつぶやく。さっきまでわたしと一緒に震えてたくせに。


 空港へと降り立ち、入国ゲートを通り過ぎるとそこはアメリカ。

 かつてわたし達家族が住んでいた第二の故郷だ。


 エアガンの弾をキャッチするという神業動画をアップしてすぐにアメリカのテレビ番組から五代さんに出演オファーがあった。

 それから一か月、交渉のまとまったわたしは仕込みやロケハンの必要性もあってオンエアーのひと月前に現地へとやってきた。


「国によって空気の匂いが違うって言うけど、ほんとアメリカって感じだね」


 わたしも若干フラフラしているけど、なんとか元気を取り戻してひよりの隣に立つ。

 後ろでは三人の姉が何やらヒソヒソ話をしているけれど。


「飛行機で怯えるゆきちゃん、愛らしかったですね」

「ほんと、抱きしめたくなったよな」

「癒し」


 そろそろそのことは忘れて欲しいんだけど。

 想像していたようにいじられはしなかったものの、ひより以外は過剰なほどに心配してあれやこれやと世話を焼いてくれた。

 嬉しいけど、恥ずかしいんだよね。嘔吐袋をもらったけど、意地でも使わなかったよ。


 会話に参加すると巻き込まれて話が膨らむことは経験則で知っているので聞こえないフリ。

 ひよりと並んでアメリカ特有の甘ったるい匂いと揚げ物の匂いが混じったような空気を胸いっぱいに吸い込んでいる。空港だから機械的なにおいも混じっているけど、アメリカに到着したんだと実感できる匂いだ。


 ちなみに外国人から言わせると、日本は醤油と味噌の匂いがするそうだ。


「より姉、今回は番組衣装、どんなのを用意してくれたの?」


 背後の会話が終わりそうになかったので、仕事に関わる話題を降って強制終了させた。


「ん? そりゃもちろん、ジャパニーズテイストを出すために和装だぞ」


 和装と聞いていやな姿が思い浮かんだ。


「まさか振袖でやれとか言わないよね?」


「そんなことするかよ。お前はもう既婚者なんだから振袖じゃなくて留袖だぞ」


 そういう意味じゃない。


「着物で弾丸を受け止めるなんて言う激しい動きが出来る訳ないでしょうが。何考えてんの」


「冗談だって。あたしだって内容が分かってるんだから着物なんて用意してないよ。ゆきが合気道の時に来てる袴をもうちょっと動きやすくデザインしたものだよ」


 なるほど。格闘技ではあるから合気道の袴も相当動きやすい。それを改良してくれているのだから、機動性に関しては問題なさそうだ。


「それで、かの姉とあか姉は映像の撮影と編集許可はもらえそう?」


「えぇ。ひよりちゃんと五代さんの説得のおかげもあって、茜が撮影する分に関しては自由にしても良さそうです。これは腕が鳴りますね。ゆきちゃんの雄姿、最高の形でネットに載せますよ」


 これで撮影に関する計画はほとんど決まったと言っていい。


 あとはロケハンで、実際の速度と距離を測る必要があるだけだ。

 アメリカは日本と違ってエアガンの初速に関しての明確な規定がないので、日本のエアガンより相当早い物がある。

 当たったところで命の危険まではないものの、こんなことで怪我をしてはカッコ悪いし、ファンにも心配をかけてしまう。万全に万全を期して準備する必要がある。


「それじゃ、とりあえずホテルに移動して五代さんを待とうか」


 五代さんは他のタレントの調整があるとかで、後の便で来ることになっている。

 本来ならワシントンの街並みを観光したい所なんだけど、飛行機疲れをしたので少し休みたいのが本音だ。



 ホテルでゆっくりしていると、五代さんが到着した。時間はまだ昼間だ。この人何時の飛行機に乗って来たんだろう。

 わたし達は夜間フライトの便に乗ってきたから早い時間に着いてたけど。


 時差ぼけを全く感じさせない快活さで、これから向かうロケハンの場所の説明をしてくる。

 場所は撮影後、すぐに移動することを考えてテレビスタジオに近い、廃ビルの解体現場で行うようで、銃からの距離は最高50メートルほどとれるそうだ。それなら……。


 安全面を考慮して、わたしがいる場所と弾道が通る場所以外はアクリル板で防護してくれるらしい。完璧じゃないか。


「やはり安全第一ですからね。テレビ局側としても万が一怪我でもされたらブランドイメージに傷がつきますから」


 こういうところが大人の世界だなと思う。ビジネスライクというか、極力責任を取ることを避けるように手を打つというか。

 本来それが当然の事であって、若い頃の「とりあえずやっちゃえ」という精神の方がリスクヘッジも出来ていない素人思考ということになるんだけど、わたしはそっちの方が好きだったりするんだよな。

 わたしももういい加減いい歳なんだから、ちゃんと大人のルールには従うけどね。


 人数が多いので、相手方の計らいによって移動にはリムジンを用意してもらった。おお! リーモ!

 初めて乗るのでテンションの上がるわたし達。

 あくまで一般庶民なわたし達にはこんなものに乗る機会なんてないものね。


「お、お酒なんかも置いてあるんだな」

「より姉ぇ~」

「の、飲まねーってば。ちょっと興味があっただけだよ」


 よだれを拭いてから言え。

 弱いんだからそんなもの飲んだら仕事にならなくなるよ。みたところスコッチとかバーボンだし。


「帰りはいいだろ?」


 やっぱ飲みたいんじゃねーか。


「酔わない程度にね」


 結局許してしまうわたしも甘いなぁ。こんなんで社長が務まるのか不安になってきた。


「現地に到着したらさっそくロケハンですよ。一応リハーサルみたいなこともしますので、そのつもりでいてくださいね」


 五代さんの指示で全員仕事モードに切り替わる。

 身内企業と言えど、仕事に対して真剣になってくれるのはありがたい。それだけわたしの事を手伝いたいという思いが強いんだろう。

 みんなの願いが「ゆきを手伝いたい」というものだから、うちの会社は一枚岩でいられる。

 ここは社長のわたしがもっとしっかりして、誰か一人でも不満が出ないように気をつけないといけないな。


「ゆき、さっそく衣装着るのか?」


「今日はリハだからいいよ。あとで動きやすさの確認したいから、ホテルで着たいかな」


 まだ荷物は届いていなかったので、今着ようとしたらホテルで待たなくてはいけない。

 その手間も惜しいし、まずは試しということで動きの確認をするだけなので、今はこの格好でいい。

 現地に到着すると、ある程度の準備は整えられていて、アクリル板も設置されていた。


「なんか日本でやった時より物々しいですね」


 かの姉が心配げに言うけれど、それもそうだろう。実弾にも対応できるように作ってあるんだから。


「アメリカは日本と違ってエアガンの規制がないからね。その分威力も強いし、万が一があってはいけないからとこういうセットになってるんだよ」


 などともっともらしいことを言って、姉妹を煙に巻くわたし。

 射線のチェックをしていたらエアガンを持ったスタッフが現れた。


 この人が撃ってくれるのかと思ったら「ノー、ノー!」と言われてしまった。なんでそんなに強く拒否するんだろう。

 他の人に聞いても今日は射手が来ていないというので、使用許可だけもらってあか姉に頼んだ。

 あか姉もワクワクした様子で銃を構える。本場アメリカのエアガンということで嬉しいのだろう。

 構える姿が異様にさまになっている。本職目指したりしないでね?


 試し撃ちをしてみて驚いた。

 まず音からして違う。日本のエアガンの音はパシュッだったけど、こちらのは明らかにバシュッ! だったから。

 目測でも速度は倍ほど違う。

 本物の拳銃なら日本のエアガンの3.5倍ほどだから、実質実弾の半分くらいの速度だ。


 まずは射線上に立たず、横から見てみる。


「あか姉! もう一回お願い」


 銃口をしっかりと見据える。空気のはじける音と共に白い点がすごい勢いで飛んできた。

 横から見ていたけれど、素早く手を伸ばした。

 手のひらに当たる感触はあったけど、キャッチするまでにはいかず、軌道だけを変えて飛んで行ってしまった。

 アクリル板に当たるカンカン! という音だけが響き渡る。


「ゆきちゃん……」


 心配げな表情のかの姉とひよりが声をかけてくるが、わたしの表情は晴れたもの。


「失敗しちゃった! さすがアメリカ。同じエアガンでもスピードが全然違うよね」


 離れて観ていた姉妹達にもそのスピードの違いが分かったのか、心配げな表情は変わらない。

 五代さんでさえ顔を曇らせている。


 確かにこれで失敗なんかしたら日本からわざわざ恥をかきに来ただけだもんなぁ。

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