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水の精霊 ~もっと光り輝いて~  作者: あるて
第2章 一等星になりたくて

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19/20

第18曲 人を越えた反応速度

 こうして姉妹達との距離感もどんどん縮まっていく中、わたしの中にもある変化が生まれていた。


 日々の業務は上手くいっている。作詞作曲をし、ダンスの振り付けを考え、綺麗な衣装をまとって唄い踊って録画する。

 モデル業では何度も雑誌の表紙を飾り、テレビCMでの露出も増えてきた。

 仕事面もプライベートでも、これ以上ないほどに充実した毎日を過ごしている。だって全ての業務に誰かが関わっているのだから。



 撮影ではあか姉と話し合いながらスタイリッシュに映るにはどの角度がいいかを話し合い、何台ものカメラで撮った映像を複数のモニターで確認しながら、かの姉とベストショットを選んでいく。

 次に着る衣装の打ち合わせをより姉と行い、外に出る仕事ではひよりがついてくる。

 今も五代さんとの打ち合わせのため、トラフィック・ハブに向かうところをひよりに付いてきてもらっている。

 いつも愛しい人達に支えられながら行動することに、多大な安心感と喜びを感じている。


 今までのように一人で動くのではない。常に誰かに支えられながらどんどん距離が縮まっていく中、心の中に頭をもたげるある想い。


 それは決して不満ではない。もっと光り輝きたいというわたしの野心だ。

 特にわたしの中でこだわっているのはアメリカ。

 いくら若くて言語も不完全だったとはいえ、一度アメリカでは痛い目に遭っている。

 わたしとしてはなんとしてもその雪辱を晴らしたい。


「どうしたの? ゆきちゃん、怖い顔しちゃって。何か怒ってる?」


 いかんいかん。愛する妻を不安にさせるような表情をしていてはダメだ。


「何も怒ってないよ。ちょっとアメリカの事を考えていただけ」


「アメリカ? 戻りたいの?」


「別に住みたいってわけじゃないよ。ただね、アメリカでも曲を出したのに、全然売れなかったことは覚えてるでしょ?」


 かつての屈辱。

 まだ英語が覚束なかったからというのは言い訳にならない。音楽はフィーリングだ。

 言語じゃなく感性で訴えかける分野である以上、全く売れなかったというのはわたしの感性がアメリカに追いついていなかったということだ。


「あの頃と今のわたしは違うから。それを証明したくってね」


「さすがゆきちゃん、負けず嫌い。でもアメリカに乗り込むなら、何かインパクトのある事をしないと難しいんじゃない?」


 さすがマーケティングを勉強しただけあって、その国の特性を掴んだプロモーションの仕方を考えている。

 アメリカはエンタメの盛んな国だ。映画しかりアニメしかり音楽しかり。

 認知度を最初から高めるために何らかのデモンストレーションを行うのは効果的だろう。


「歌やダンスは毎日いろんな人が挑戦してるからねぇ。ゆきちゃんの実力ならすぐ話題にはなるだろうけど、もうひとつ何かインパクトが欲しいよね」


 インパクト。簡単に言ってくれるけど、わたしはそういう企画を考えるのが苦手だったりする。

 配信のネタもよく姉妹たちにアイデアを出してもらってた程度には。


「そうだなぁ。ゆきちゃんの反射神経と運動神経を活かして何かする?」

「例えば?」


 大抵のことならこなしてみせるけど、それがインパクトを与えられるかどうかだ。


「ライフルの弾を受け止めるとか」


 死ぬわ!


「いや、わたしも一応人間だからね。マッハを超えるものを受け止めるのは不可能だよ」


「マッハを超えなければいいの? だったらエアガンの弾とか」


 エアガンの弾は日本国内の規制では秒速九十八メートルに抑えられている。時速にすれば三百五十キロちょいだ。

 新幹線より少し早い程度なら、脊髄反射並みの反射神経をもってすれば可能かもしれない。


 エアガンの弾なら日本刀で切っちゃう人もいるしね。誰かにできるならわたしもできるかも。

 二十メートル離れたところから発射したとして、単純計算で0.2秒ちょっと。脊髄反射の反応速度は0.01秒だから理論的には反応できる。あとはその速度で筋肉が反応してくれるかどうかだ。

 まばたきですら0.1秒かかることを考えると、けっこうな速度で腕を振りぬく必要がある。


「練習すればいけるかも」


「マジで? 半分冗談で言ったのに、可能性があるとかやっぱり運動神経の化け物だね」


 空気抵抗というものがある以上、弾丸でもエアガンの弾であろうと初速よりはスピードが落ちる。そのことを考えると十分に勝算はあるからだ。肉眼で捉えるのも難しいほどの小さな弾を、素早く腕を振りぬき受け止める。


 派手な事の好きなアメリカでの注目度は抜群だろう。

 わたしの身体能力と反射神経、動体視力をもってすれば百メートルほど離れればピストルの弾くらいまで可能かもしれない。さすがに威力がありすぎて受け止めるのは無理だけど。


「よし、やってみよう!」


「思いついたら早速行動だね。それじゃ帰りに秋葉原の専門店に寄って帰ろ!」



 五代さんにも相談したら、面白そうだからやってみようという話になった。ただ、怪我だけはしないようにと注意されたけど。


 さっそくエアガン専門店に立ち寄り、法律で定められたギリギリの初速が出るエアガンを購入した。

 それにしても、おもちゃのくせに高いな!

 購入したのは東京マルイのボルトアクションライフル。無改造で一番速いのはこれらしい。改造の仕方とか知らんし。


 さっそく試し撃ちをしてみた。

 見える。見えるぞ!


 弾丸の発射される瞬間からその軌道までしっかりと捉えることが出来る。

 障害の後遺症で脳が活発に動いているとはいえ、ここまではっきり見えると自分が人外にでもなってしまった気分になるな。


「射手はわたしがやりたい」


 家に帰って計画を話すと、意外にもあか姉が撃つ役をやりたいと言い出した。

 たしかにあか姉ってこういうの好きそうだもんな。


「アメリカで練習したこともある。多分一番上手い」


 アメリカで練習って……。実弾じゃないよね?

 謎が多い人でもあるから深くは聞かないようにしておこう。



 夕食を食べた後、さっそくそのライフルを持ってみんなでスタジオに移動した。

 直線的な幅の一番広い部屋がスタジオだから。

 端から端まで二十メートルはないだろうけど、それでも優に十メートル以上はある。練習するにはちょうどいいだろう。


 まずは試射として数発、あか姉に的を狙ってもらった。

 銃を持ち、腰を落としてスコープを覗き込み構えるあか姉。妙に様になっている。特殊部隊の人みたいだ。


 呼吸を整え、タイミングを合わせて引き金を引いた。

 一発目、的中。続いて二発目も的中。的の紙に次々と穴が開いていく。しかもほとんどがど真ん中。

 なんなのこの人。スナイパー?


 結局合計して十発売ったけど、一度たりとも外すことはなかった。

 危険だから普段は隠しておくことにしよう。


 あか姉の練習をずっと見てたけど、壁の端から端まで到達するまでに、わたしの感覚では結構な時間があるように感じる。だけど、さすがにいきなり正面から受け止めるのは危ないということで、弾道の脇に立って、横から弾くという練習をすることにした。

 手の怪我を防ぐために皮の手袋をはめ、腰を落として構えを取る。

 パシュっという音と共に発射された弾丸に、タイミングを合わせて腕を出す。

 風を切る音がするほど素早く腕を振りぬいた。本当は弾くだけでよかったんだけど、エアガンの弾はわたしの手の中にあった。


「一発で成功かよ」

「さすがゆきちゃんと言いたいところですが、これはさすがに予想外でした」

「やっぱりゆきちゃんはすごい!」


 他の三人が感嘆の声を上げる中、射手であるあか姉だけは最初から分かっていたとでも言いたげな笑顔を浮かべている。


「ゆきならこれくらいの速度、余裕」


 実際、少し神経を集中させるだけで弾道を完全に見切ることが出来た。これなら避けるのも受け止めるのも簡単だと思う。

 

 ここまで余裕なら、実際の拳銃でも試したいなと思ったけど、そんなこと言ったら怒られるだろうなぁ。

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