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水の精霊 ~もっと光り輝いて~  作者: あるて
第2章 一等星になりたくて

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17/20

第16曲 披露宴はどこででもできる

「ただいまぁ」


 記者会見は昼間だったので、今日は泊りにせず東京から直行で帰ってきた。

 今からなら晩御飯を作るのも間に合うだろう。


「おかえり」


 そう思っていると玄関口に愛する四人が出てきた。

 ついさっき、全国放送で愛の言葉を告げたその当人達だ。

 もともと心に決めていた事だったので、何も悪びれることはないのだけど、心なしか四人の表情が険しい。


 あれぇ?


「ゆ~き~」


 より姉がゆらりと近寄ってきた。


 え。


 ひょっとして怒ってるの?

 より姉がガバっと両手を広げたので、思わず体に力が入ってしまったが、気が付くとわたしは抱きしめられていた。


「バカやろ」


 耳元でささやくような声。口は悪いけど、その声は少し震えている。


「ほんとバカです。あんなことをファンの前で言うなんて」


 かの姉がそっと右手を握ってくる。


「単細胞」


 あか姉が毒を吐きながら左手を取った。


「わたし、ひょっとして怒られてる?」


 みんな行動と言葉が一致しないので戸惑ってしまったわたしはひよりに助けを求める。


「ゆきちゃんなら分かるでしょ。みんな嬉しいんだよ。世界中にあれだけ堂々と愛を叫んでくれたんだもん。ただ照れ隠ししてるだけだよ」


 ひよりが笑いながら暴露すると、三人の方がぴくっと震えた。


「いや、あたしらは怒ってる! せっかく計画を立てて、ゆきの将来のために覚悟を決めたのに、全部台無しにしやがったんだからな!」

「そうです! わたし達がどんな思いで日陰者になろうとしたと思ってるんですか!」

「朴念仁」


 あか姉毒舌すぎん?

 でも一見本気で怒ってるような口ぶりだけど、みんな顔が真っ赤だし、頬が緩みっぱなしだよ。


「ごめんね。でも覚悟を決めたってことはやっぱり断腸の思いだったんじゃない。わたしがそんなことを許すとでも思った?」


 今度はこちらから反撃だ。


「みんなただでさえわたしにべったりなのに、外ではただの姉として振舞うなんてできるわけないじゃん。みんなが悲しい思いをするくらいなら、全世界を敵に回した方が何倍もマシだよ」


 これがわたしの本音だ。

 もしこれでわたしの人気が地に落ちたとしても、違う仕事をしてでもみんなを支えて見せる。


「ゆきちゃんのことだから、何があってもわたし達を養うとか思ってるんでしょ」


 そんなことを考えていたらひよりにばっちり見抜かれた。


「アホか。そん時はみんなで稼げばいいだけだろ」

「そうですよ。再就職すればいいだけです」

「手に職はある」


 そうだった。自分で支え合うって言ったばかりだもんね。


「ごめん。だけどきっと大丈夫だよ」


 根拠はないけれど、わたしのファンなら支えてくれる、そんな予感がする。

 幸い今日は生配信のある日だから、結果は今晩にでも明らかになるだろう。


「ゆきが大丈夫と言うならそうかもな。わかったよ。これ以上は何も言わないよ。それとな、ゆき」


 抱きしめていた手を離したと思ったら顔を挟まれてしまった。

 頭突き?


「ありがとな。愛してるよ」


 顔が近づいてくるのは同じだけど、触れたのはおでこではなく温かい唇の感触。

 その口づけはいつもより格段に優しくて、より姉の喜びがそのまま伝わってきた。


 顔が離れたと思ったら右側からまた顔を挟まれ、無理やりそちらに向かされる。

 そしてそのまま口を塞がれるのは同じ。


「いつもゆきちゃんは予想もつかない方法でわたし達を喜ばせてくれますね」


 穏やかな笑顔でそう語るかの姉。そしてそこまで行くと当然のように左側からも手が伸びてきて。


「後悔しないか」

「するわけないよ」

「ん」


 短いやり取りの後、あか姉からは押し付けるように情熱的な口づけ。

 右へ左へと首を曲げられたので若干むち打ちのようになっているものの、とても幸せな気分になる帰宅後の時間だった。



「それじゃ、ご飯作るね」


「もう作ってあるよー」

「へ?」


 今日出発するときに、早く帰ってこれるから晩御飯は作ると伝えてあった。

 わたしの料理が大好きな姉妹たちは喜んでいたのに。


「あんな愛の告白を公共の電波に乗せて聞かされたら、お礼の一つや二つはしたくなるだろ」


「そうです。今日はみんなでちらし寿司を作りましたよ」


 昔は祝い事がある時にお母さんがよくちらし寿司を作ってくれた。わたしが作るようになってからはいろいろ種類を用意するからあんまり作らなかったけど、みんながそれを作ったということはそういうことだろう。


「三度目のプロポーズの記念日だ」


 まぁ、あれもプロポーズと言えなくもない。なにせ世界に向かって堂々と愛の告白したんだから。

 みんなの気持ちが籠ったちらし寿司はとても美味しかったけど、感激したわたしには少ししょっぱかった。



 そして迎えた二十一時。今日は土曜日なので定期生配信の日。

「Now Loading」と表示された画面の下に、同時接続数のカウントが表示されている。

 その数、百万オーバー。最高ではないが、記録的な数字だ。


 それだけ今日の記者会見が世間的な注目を集めたということだろう。放送開始前に流れてくるコメントも、挨拶と共に開始を待ちわびる声が溢れている。

 姉妹たちはその画面をのぞき込みながら、不安そうな顔を見合わせている。


「大丈夫だって。そろそろ配信を開始するよ」


 安堵させるように明るい笑顔を作ったが、それでも不安そうな表情は消えることなく、あか姉以外は画面外のソファーへと移動していった。

 PCを操作すると、配信画面にわたしの姿が映し出される。


「みなさん、こんばんわ! 水の精霊YUKIが、今日もみんなに幸せと歌声をお届けするよ!」


 退院してから雪の精霊じゃなく、水の精霊を名乗るようになったわたし。

 かつて全てを凍て付かせていた氷は溶けて、今では清流のごとく心は澄んでいる。

 何も悪びれることの無いわたしはいつもと何ら変わりなく、その澄んだ笑顔をカメラに向けた。


「みんなも今日の結婚報告は聞いてくれたかな? そんなわけでわたしは愛する家族と添い遂げることにいたしました!」


 例え非難の言葉が飛び出てきても、受け入れる覚悟はできていた。だから何も構えることはなかったのだけど。


【知ってたよ~】【ゆきちゃんならそうだよね】【妬けちゃうくらいラブラブだもんね】【おめでとう!】


 コメントに並んでいたのは予想できていたという意見と祝いの言葉。


「あれま。知ってたとはこれまた意外な意見だよね。わたし達姉弟だよ?」


 意表をつかれてしまったわたしはつい当たり前のことを聞いてしまう。


【彩坂きらり:言った通りでしょう】【もともとブラコンシスコンやん】【日向キリ:ゆきちゃんなら全員を大事にすると思ってました】


 キリママやきらりさんまで。

 そこまで分かりやすくシスコンやってたかな? やってたか。

 そこからは結婚おめでとう×4というコメントが怒涛のように流れてきて、嬉しくなったわたしは思わず笑ってしまっていた。


 笑う姿を見て不思議そうな顔をする姉妹達。


「ねぇ、みんな。わたしの大切な人たちにもお祝いの言葉をかけてもらってもいい?」


【もちろん】【ご尊顔を拝するのはひよりちゃん以外は久しぶり】【姉妹はよ】【彩坂きらり:わたしは直接言いに行く】


「それじゃ、ちょっと待ってね」


 きらりさんの襲撃予告に笑いながら、まだ不安そうにこちらを伺う姉妹たちの元へ行く。


「ほら、みんなもコメントをちゃんと見て。あか姉もカメラ固定して見に来てよ」


 みんなの手を取って、モニターの前へと連れてきた。

 その途端に怒涛の勢いでお祝いメッセージが流れるコメント欄。

 それを見た姉妹たちは信じられないと言った様子。


「わたしの言ったとおりでしょ? わたしのファンでいてくれる人ならきっと大丈夫だって」


 目を潤ませながらも、まだ信じられないと言った様子のより姉。


「でも、あたしらの関係は世間一般の普通じゃないし……」


「どうしてこんなに理解があるんですか?」


 かの姉もまだ現実が呑み込めていないようだ。


「それはコメントを見ればわかるよ」


 そう言って画面の方を見るように促すと、タイミングよくというか、狙ってなんだろうけど肯定的な意見が並び始めた。


【一夫一妻が日本では普通だけど、それが絶対正義じゃない】【本人たちが納得してるならそういう愛の形もあると思う】【幸せになれるなら人数なんて関係ない】【奥さんを泣かせたらファン辞めちゃうからね!】【家族愛からの延長というのがゆきちゃんらしいよね】


 一部わたしにだけ厳しいコメントもあったけど、理解のあるコメント達を見て姉妹たちも感極まってしまったようだ。

 それまで抑えていたのだろう涙が頬を伝っている。


「ほんと、最近はよく泣かされている気がするよ」


 それは安心の涙だから大丈夫だよ、ひより。

 自分だけが入籍することになって心苦しかったのが解消されたんだよね。


「悲しみの涙と嬉し涙は成分が違うんだよ。今の涙はきっと甘いんじゃないかな」


 ひよりの頬にそっとキスしてみたら、それは本当に甘いような気がした。


【いきなり見せつけるな】【リア充爆ぜろ】【わたしもキスしてほしい!】【ゆきちゃん、画面にもプリーズ】


「いや、画面にキスとかきもいよ! それにわたしは浮気なんてしませーん!」


 ケチとかリア充とか言われたけれど、それからも配信は楽しく続いていつの間にか隣に座る四人も笑顔になっていた。


「それじゃ、そろそろ歌の時間にいこうかな。より姉たちも一緒に聞いててね」


 みんなの手を引いてわたしの両サイドに並んでもらい、今日はダンスを封印してマイクを持って唄うことにした。

 曲はもちろんラブソング。

 唄っている間中、わたしはみんなの顔を見て、その肩に触れ、順番に愛を伝えていく。

 

 それはまるでネット上で行う、ファンに向けての披露宴のようだった。

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