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水の精霊 ~もっと光り輝いて~  作者: あるて
第2章 一等星になりたくて

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第15曲 記者会見

「さすがに緊張しますね」


 五代さんの会社が用意してくれたのは渋谷にある中規模ホール。

 百人程度の人数が収まる比較的大きな会場だけど、聞いたところによると収まりきらないくらいの記者が訪れているらしい。


「さすがにこれだけの人数が集まるのは想定外でしたね。その割には余裕そうに見えますけど」


 そこは培ってきたものがあるので、人数が多いからと言って緊張したりはしないけど、今日だけは特別だ。


「これでも十分緊張してますよ。普通の記者会見と違って結婚報告ですからね。それに多数の記者が押し寄せてると聞けばなおさらです」


 日本記者クラブの記者はもちろん、ネットニュースや週刊誌、果ては海外の情報記者までいるというのだから、今更ながらに自分の注目度の高さに驚いてしまう。


「一配信者にすぎないわたしの結婚報告にこれだけの人が集まるというのも前代未聞ですね」


「何言ってるんですか。ゆきさんはもうただの配信者ではありませんよ。日本全国どこに行っても会場を満席にできるほどの人気を誇る立派なミュージシャンです。しかもその名声はとっくに海外にまで届いているんですよ」


 確かにわたしの配信のファンの中には海外の人も多い。以前からポツポツと増えてきてはいたが、劇的に増えたのはやはり脳の障害で倒れて入院したときらしい。

 わたしは意識がない状態だったので知らないのだけど、イギリスの有名なニュース番組に取り上げられるほどのグローバルな話題になったそうだ。回復した後にひよりが誇らしげに語っていた。


 日本縦断のツアーをした以上、次は世界も視野に入れているわたしにとっては追い風と言っていい。今日でバッシングを受けるようなことにならなければ……。


「そろそろ時間ですけど、準備はいいですか?」

「はい、いつでも大丈夫です」

「それでは向かいましょう」


 * * *


 テレビの前、お姉ちゃん達と一緒に記者会見が始まるのを待っている。


 画面にはすでに会場の映像が映されていて、たくさんの記者さん達が今か今かと待っているのが伝わってくる。

 やがてゆきちゃんが姿を現すと、それまで騒がしかった声が収まり、その代わりにカメラのフラッシュの音がけたたましく鳴り響いた。あれ、眩しくないのかな。


 やがてゆきちゃんが席につくと、さらにフラッシュの光が激しくなり、その注目度の高さが伺い知れる。

 ほどなくしてゆきちゃんがマイクに向かって話し出した。


『本日はわたしの結婚報告の場にたくさんの方がお集まりいただき、ありがとうございます』


 あれ?


「あいつ、なんか緊張してねーか?」


 より姉もわたしと同じことを思ったみたいだ。知らない人が見れば落ち着いて話しているように見えるだろうけど、わたし達からすればどこか固くなっているのがわかってしまう。


 人前で発表することには慣れているはずなのにどうして?

 ただの結婚報告だよね?

 かつて自分の余命をカミングアウトした校内放送での様子を思い出し、少し不安になってしまう。


「大丈夫ですよ。幸せにしてくれるって約束してくれたんですから」


 かの姉も同じ不安を抱いたのか、自分自身にも言い聞かせるようにつぶやいた。

 うん、そうだよね。

 ゆきちゃんは約束を破ったりしない。

 でも、だとしたら何をかんがえているのだろう。


『先日、といっても昨日ですが、わたくし広沢悠樹はこの度、広沢陽愛と入籍いたしました』


 その言葉と共にまたしてもフラッシュが光り輝く。普段記者会見を見るときは、あのカメラの光というのは煩わしく感じてしまうけど、ゆきちゃんが浴びているのを見るとなんだか相応しいような気がしてしまうのは身内びいきなのか。


『同じ性の陽愛と結婚するということに疑問を持った人もいるかもしれませんが、わたしは里子としてもらわれた身であり、妹として育った陽愛との血のつながりはありません。一緒に暮らす他の人たちとも同じくです』


 そのへんの事情を知っている人はたくさんいると言えども、全国放送で発表する以上、背景説明が必要なのは当然だろう。


『一緒に育った陽愛をはじめとした家族たち、とりわけ四人の姉妹とはとても仲が良く、かけがえのない存在としてお互い愛情あふれる生活を送りながら育ってきました。わたしにとっては今でもみんな大切な家族です』


 わたしだけでなくお姉ちゃん達の事にもちゃんと言及するのがゆきちゃんらしい。

 そう言われたより姉たちも、とても嬉しそうな顔をしている。

 だけど次の言葉でわたし達全員が驚愕することになる。


『最初は普通の家族愛でした。だけどいつの間にかそれは家族の垣根を超え、四人それぞれを一人の女性として大切に想うようになったのです』


 当初の予定ではあくまでわたしと愛し合って入籍するという話をするはずだった。だけど今の発言じゃ……。


『今回、わたし自身のけじめと世間に既婚者という報告をするために陽愛一人と入籍いたしましたが、わたしは四人のことを等しく愛しています。そこに想いの大小や差異はありません。誰一人欠けてはいけない、生涯の伴侶です』


 言ってしまった。

 そのことを隠すためにわたしと入籍したのに、ゆきちゃんはそれでは納得していなかったんだ。


 最初に固くなっていたのも、誰にも内緒でこのことを発表しようとしていたからか。


『四人もの女性を同時に愛するというのは世間的には非難されることかもしれません。

 それが特殊な事だというのも認識しています。

 だけどずっと家族として暮らしてきて、ずっと大切にしてきた姉妹たちに序列なんてつけられるでしょうか。等しく愛し、愛され、わたしが大変な時期にもずっと支え続けてくれた人たち。わたしが誰よりも愛する、大切な人たちです』


「あいつ、それを秘密にするためにひよりと入籍させたってのに。勝手なことしやがって……」


 より姉はそう言いながらも涙を流している。それは悲しいのでも悔しいのでもない、嬉し涙だというのは分かる。

 かの姉とあか姉も同様だ。


「本当に頑固な人なんですから」

「言っても聞かない」


 まだゆきちゃんの言葉は続く。


『男としてのけじめをつけるため、悩んだ時期もありました。誰か一人に絞るべきだと。

 だけどどうしても選べなかった。

 選ぶということは選ばれなかった人が悲しむということ。それがわたしには耐えられなかった。

 だってみんな愛する家族なんですから。わたしにとってはどんな形になっても、ずっと同じ家族なんです』

 

 わたし達はそうだ。妻であり恋人である以前に、始まりは家族。家族愛のその先に生れた愛情なんだから。


『わたしが思い悩んでるとき、それを知った姉妹たちは言ってくれました。苦しんでまで選べとは言わないと。わたしならその深い愛情で四人を等しく愛することも出来るだろうと』


 それはわたし達がゆきちゃんに想いを伝えた時から言っていたことだ。

 姉妹同士で争う気はないと。ゆきちゃんならみんなを平等に扱ってくれるのは分かっていたから。


『わたし達の原点はひとつ。それもただのつながりじゃない。一生支え合って苦楽を共にしていきたいと思える、血ではなく強い絆で結ばれた家族です。その一人一人が愛する女性であり、恋人であり妻であり、姉であって妹なんです』


 より姉たちはもう画面を見ることも出来ず、涙を流しながら顔を手で覆ってしまっている。

 会場も水を打ったように静かになり、フラッシュがたかれることもない。


『理解してくれとは言いません。応援してくれとも言いません。

 これでわたしのファンを辞めるという人もでてくるでしょう。

 だけど、それでもわたしは愛する四人から離れるなんてことはできません。

 わたしは愛する家族と共に、一生を添い遂げる所存です』


 そう言ってゆきちゃんは深々と頭を下げた。頭を上げた時の表情はどこか清々しい、真剣で真摯な、決然とした瞳。

 その堂々とした態度に、しばらくは声もなかった記者たちの間から、パラパラと拍手が聞こえてきた。

 やがてそれは会場全体の拍手となり、拍手に気を取られたカメラマンが慌ててフラッシュをたくという場面があちこちで繰り広げられた。


「まったく、あいつは何度プロポーズして、何度あたしらを泣かせるつもりだ」


 困ったやつだという口ぶりだけど、その表情は泣き笑い。


「どこまでも真っすぐなんですから」

「あれだけ自信にあふれた姿を見せられたら、誰も文句を言えない」

「言いたい奴はなんとでも言えって感じだったもんね」


 四人で涙を拭うこともせず、ゆきちゃんに出会えた奇跡と、愛してもらえた幸せを噛みしめる午後だった。

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