第11曲 想いは秘めてちゃ伝わらない
「わぁ、すごいオシャレなお店」
ひよりが感嘆の声を上げている。
イタリア・エミリア・ロマーニャの料理をコンセプトにしたレストラン。
イタリアを思わせるお洒落な空間で、エミリア・ロマーニャ州とフリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州の郷土料理をワインと共に楽しめる、割とカジュアルなレストラン。
より姉と行ったようなコース料理のお店も考えたけど、人数が多いから少し賑やかになっても大丈夫なお店を選んだ。
「生ハムと微発泡のワインがおススメだよ」
コース料理ではないので、それぞれメニューを見て思い思いの料理を注文。
誰も同じ料理を頼まないのは言わなくても分かる我が家の不文律。違う料理を頼んでシェアした方がいろんな味を楽しめるしね。
カプレーゼ、カルパッチョ、生ハムメロン、パーニャカウダにクロスティーニといった代表的なイタリア料理が所狭しとテーブルに並ぶ。ワインの苦手なひより以外はワイングラスを片手に料理を楽しんでいる。
ちなみにひよりは甘いカクテルを注文。この辺の子供っぽさも可愛いんだよなぁ。
「さすがゆき。作るだけじゃなくて選ぶお店も美味しいよな」
「一流は一流を知るというやつですね」
料理の味に満足してもらえたようで良かった。このお店、来たことなかったんだけどね。
「この後は散歩デートするんだから飲みすぎないでよ」
「お酒は嗜むものだからな」
どの口が言ってんだ。
さっきまで二日酔いで死にかけてたくせに。
「迎え酒はいいなぁ!」
おっさんか。
「ゆきとのデートを控えて無茶飲みなんてしねーよ」
最初のデートのことを忘れてしまってるんだろうか。
「公園のベンチで伸びてたのはどこの誰だったっけ」
「あん時は初デートで緊張してただけだ。もうあんな失態は演じねーよ」
お酒好きなくせに弱いからなぁ。
気持ちよくなる程度ならまぁいいか。二日酔いにも懲りてるだろうと信じたい。
この後大事な話をする予定だから、せめて正気でいて欲しいもんね。
「オシャレだけど、堅苦しい感じもしなくていい雰囲気だよね」
料理の味だけじゃなく、お店そのものも気に入ったみたい。
「ここなら友達と来ても良さそうだよね」
敷居の高い雰囲気じゃないので、会話も弾む。話しながら飲めばお酒も回りにくいし、このお店を選んで正解だったかな。
ひとしきり料理とお酒を楽しんだ後、お会計。
誘ったのはわたしだから、ここは当然わたしが払う。みんなも遠慮せずに黙っているのは気心の知れた家族だからこそ。
普通のカップルみたいにどっちが払うとか割り勘とかで気を遣わなくていいから楽だ。
「「「「ごちそうさま~」」」」
「どういたしまして」
自分で作った料理じゃないからお粗末さまでしたとは言えないよね。
「それじゃ少し歩こうか」
そう言って歩き出すと、より姉とひよりが腕を組んできた。不満も出ずに自然と交代するんだから、この姉妹同士もたいてい仲がいいよね。
少し歩くと、噴水のある公園にたどり着いた。
ここなら人気もないし、計画を実行するにはちょうどいいだろう。
「ここならみんな並べるし、ちょっと座ろうか」
濡れていないかを確認し、噴水の縁に腰掛けるように促した。
「あれ、ゆきちゃんは座らないの?」
「うん、話があるからみんな詰めて座って」
不思議そうな顔をしながらも、言われた通りに座りなおしてくれる姉妹たち。
わたしはカバンの中から小さな小箱を4つ、取り出した。箱にも名前を印刷してもらったので、誰のものかを間違えることはない。
「みんなは納得してくれているから気にしていないかもしれないけれど、男としてはこのままで済ますのはイヤなんだ」
そう言って両手に2つずつ、小箱を持って膝をつく。
「必ず幸せにするから、一生わたしのそばにいてください。愛しています」
言葉と共に小箱を四人に差し出した。
目を見開いて驚き、震える手を伸ばして小箱を受け取ってくれた。
ゆっくりと箱のふたを開け、中に入っているものを確認した途端、四人の目から涙が溢れる。
「ゆき、これって……」
「うん、みんなが思っている通り。ちゃんと中身を確認してみて」
箱の中に入っていたのは指輪のケース。
涙を拭うこともせず、ケースを取り出し中身を見た四人の目からは先ほどにも増して大粒の涙がこぼれた。
「ゆきちゃん……」
「これ、オーダーメイド……」
そう、それぞれの性格や雰囲気を考えて、四人別々のデザインで作ってもらった。用意してあったのだけど、渡すタイミングを計っていたんだ。
「同じものを贈るより、みんなに合ったものを贈る方がいいかなって。気に入ってもらえたら嬉しいんだけど」
「気に入るに決まってるよ! ゆきちゃんが選んでくれたものだもん……」
「一生大事にする」
「こんなサプライズを用意してるなんて、ズルいです」
「ありがとうな、ゆき。本当に嬉しいよ」
四人が並んで嬉し泣き。その姿はどんなものよりも美しく、ずっと守りたいという気持ちを強くさせてくれる。
愛しさを込めた微笑を浮かべ、みんなへと問い掛けた。
「まだ返事を聞いてないんだけど。わたしのプロポーズ、受けてくれるのかな?」
「「「「もちろん!」」」」
涙が光ってはいるものの、喜びにあふれたその笑顔がとても眩しく、思わず目を細めてしまう。
「はめて、くれる?」
喜色満面といった様子のひよりが、指輪ケースを差し出しながら甘えるようにねだってきた。
「もちろん」
ひよりの左手をそっと取り、ケースから指輪を取り出すと、そっと薬指に滑らせる。
朝、みんなを起こす前に測っておいたからサイズはピッタリだ。
その指にはまったリングを見て表情を綻ばせるひよりの頬に手を添えて、愛情を込めた優しい口づけ。
「ずっと大切にするからね。愛してる」
「うん、わたしも」
ひよりの隣に座っているあか姉の前に歩を移し、指輪をはめて同じようにキス。
「幸せにするからね。愛してるよ」
「わたしの方が愛してる」
なんだかあか姉らしい返答に顔が綻ぶ。次はかの姉だ。
「いつまでもそばにいてね。愛してるよ」
「不束者ですが、よろしくお願いします」
うん、かの姉にとても似あうセリフだと思う。優しくキスをして、そして最後はより姉。
「いつもいろいろとありがとうね。愛してる」
「あぁ。あたしもだ。だけどな、ひとつだけ違うことがあるぞ」
意表をついた返答に、驚いた表情になってしまった。
「幸せにするからね、じゃねーだろ。一緒に幸せになるんだよ」
白い歯を見せて笑顔を見せる。確かにより姉の言うとおりだ。
「うん、わたしのこともちゃんと幸せにしてね」
わたしがそう言うと、こっちが動くより先に抱き寄せられて、唇を奪われた。
ほんとにもう、いつもわたしより男前なんだから。敵わないよ。
「ゆきの分はないのか?」
「婚約指輪だからね。結婚指輪は全員同じものを用意するつもりだよ」
「みんなでお金出してゆきちゃんの分も作ろうか!」
いやいや。
婚約指輪は女性が受け取るものだから。古から決められし慣習なんだよ。
「ゆきちゃんにはどんなデザインのものが似合うんでしょうね」
「考える」
考えんな。
「ちょっと待て。これは男性から女性に贈るものだから。わたしの分は必要ないんだってば」
「「「「えー」」」」
えーじゃないよ。
「あたしもゆきの薬指に指輪をはめたいぞ」
「それは結婚式の時にお願いします」
「式場の候補は決まったから、日程を決めて内容を煮詰めないといけませんね」
いつの間に。わたしがツアーに行っている間に話を進めていたのか。
やっぱりみんなウェディングドレスを着たいんだね。
「ウェディングドレスを着たゆきに指輪をはめるのが楽しみだ」
いや、そこでもドレス姿かい!
せめてその場面はタキシード着させてくれない?
「その場面を想像するとうっとりするよねぇ」
いかん、これぞ本当の四面楚歌。逃げ道がなさそうだ。
「もう好きにして……」
式当日の姿を想像すると苦笑いしか出ないけれど、みんなとても嬉しそうで良かった。
こだわるのは良くないけれど、時には形というのも大切で、婚約指輪を贈ったことで気持ちが改まることもある。けじめをつけたことによって四人との絆が確固としたものになったような気がして、心も軽くなったような気がするんだ。
これからは、心置きなく愛情を注ぐことが出来る。そのことが何よりも嬉しかった。
たくさんの愛情を注ぎこみ、みんなの人生を明るく照らしたい。
わたしの光は消えることなく、さらに明るく輝き続けていくのだから。
――第1章 『光が消えることはない』 完結――




